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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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可愛げがない

 オリオンは手を黒い血液塗れにしているが、アルティミスに喜んでもらうために必死に魔石を探した。すると、魔物を生かす魔力の結晶の光は黒い夜空に浮かぶ神々しい月のように輝いて見えた。


「あった、あったぞ。驚くほど小さいが」


 ヌータウロスの巨体から見つけた魔石の大きさは一センチメートルほど。紫がかっており、皇族のアルティミスにふさわしい色合いで実に美しかった。


「本来なら、一〇センチメートル近くあってもおかしくないが、ないよりマシだな。バカ過ぎて魔法を使えなかったのかもしれない」


 アレックスの手にも小さな魔石が乗っていた。今の時期なら、宝石と同等の価値で売れる可能性があり、汚らしい笑顔が抑えられない。


「肉を食いたいところだが、この魔物たちが毒を食らっている可能性もゼロではない。だが、毒が含まれていると知らない者たちが売りに出せば、それが市場に出回ってしまう……」

「毒を飲んだのに死んでいないなら、体に害はないんじゃないの?」


 ライアンはオリオンの発言に耳を傾けた。


「昨日、キタリスが死んでいただろう。動物が食したら猛毒になるのかもしれない。だが、水を飲んで時間の経過とともに死に至ったのなら遅効性の毒と考えられる。体内に蓄積されて死に至る可能性もゼロではない。他の植民地で川魚に含まれていた水銀や鉛を食らった人間が中毒になる事件があるからな」

「いろいろと詳しいな……、なんでそんなこと知っているんだ?」

「いずれ、多くの植民地を回り、美味い食い物を食べ回る旅がしたいからな。現地に行く前に調べておくのが基本だろう。俺様、天才過ぎて一度勉強したら忘れないんだ」

「ま、天才かどうかはおいておくとして、今の魔物の状況は危険だ。肉は食わない方が良い。狂った魔物の肉を食った人間まで狂いそうだ。角、皮、油、魔石くらいにしておくか。それでも十分な儲けになるだろう」


 オリオンはアレックスの言う通りヌータウロスの肉は諦め、他の素材を解体しようと試みる。初めて巨大な魔物を解体するのは難しかった。

 ライアンやアレックスから方法を聞き、練習する。そうすれば、次からは完璧にこなせるようになる。


「俺様の初めての魔石は、ヌータウロスか……」

「男らしくていいじゃないか。部族によっては野生のヌータウロスを一人で狩って愛する者に捧げる風習があるくらいだ。俺はヌータウロスを倒せるくらい強いんだぜって、言い張れる。まあ、これだけ小さいと赤ちゃんを倒したのかって思われるかもしれないが……、あっつ」


 アレックスは親指と人差し指でドングリくらい小さな魔石を光に当てる。クリアガラスのように透き通っており、目が焼けそうになった。


「これくらいの大きさの方が加工しやすいだろう。ヌータウロスの角を使った櫛も作ってもらうとするか」


 オリオンは愛するアルティミスのために命を張って魔物と戦い、質のいい品を手に入れた。周りを見ると、未だに苦戦している冒険者パーティーがあるため、自分たちはやはり優秀なのだろうと察する。だが一つ、彼らは一時の快楽によって大きな過ちを犯した。


「……何か、音が聞こえないか?」

「確かに、ドドドドドって音が聞こえる気がする」

「ヌータウロスが走っている音じゃないのか?」

「今思ったが、なぜ、ヌータウロスは大勢で走っていたんだ?」

「……走りたいからじゃね?」


 アレックスは大量の報酬が目の前にあると言わんばかりに表情を緩め、考えるのを放棄した。

 その瞬間、ライアンが解体し終えた後のヌータウロスの肉が置かれた地面が揺れ始めた。活火山が噴火するように勢いよく地面が弾けた。

 肉があった地面に大穴ができる。六メートル近くある。あまりに一瞬の出来事に何が起こったのか誰も理解できなかった。


「上だっ」


 アレックスは大声と共に魔物の出現を知らせる笛を肺の空気がなくなる勢いで吹き鳴らした。

 鯨や鯱を思わせる巨体な物体が空中に存在している。鱗を持っているため、ワニに見えなくもない。巨大な物体はヌータウロスの肉を咥え、落下してくる。


 三人は咄嗟に離れ、雪の上に堂々と衝突する魔物を見る。


「タ、タルピドゥ。にしても、デカすぎるだろ」


 タルピドゥは地中に暮らすモグラのような魔物だが、大きくても一メートルほど。

 目の前に現れた個体は、本物の鯨のようで、一〇メートル近くあった。

 海にいるイルカのように地面から飛び出し、獲物を捕食するため、家畜や作物を食い荒らす農家が大っ嫌いな魔物だ。


「こんなにデカいタルピドゥは初めて見ました」

「穴に落ちたら終わりだ。通常個体でも皮が硬いうえにすばしっこい。あの巨体で真面に動けるのかは疑問だが、跳躍してたから……」


 ライアンとアレックスが口をぽっかりと開けながら巨体過ぎるタルピドゥに度肝抜かれていると、巨体が勢いよく回転する。鱗がびっしりと生えそろった長い尻尾をムチのように撓らせて、攻撃してきた。


「シアン流斬」


 攻撃を見ていたオリオンがすぐさま対処した。鋭い一撃をイナンナの滑らかな剣身で受け流す。体に直撃していれば、上半身と下半身が泣き分かれていただろう。


「砂の上でも高速で移動してくる魔物だ。シャイヤーの速度では逃げ切れない。戦うしかないぞ」


 オリオンの大声で、アレックスとライアンの意思は固まり、巨大なタルピドゥを取り囲むように散らばる。


「ヌータウロスはこいつらから逃げて来たと考えられる。すぐさま攻撃してくるとは、狂暴化しているな」

「見つかったらすぐさま逃げるような臆病な魔物だからな。明らかにおかしい」

「魔法が使えたり、でっかくなったり、いったい魔物たちはどうなっているんだ……」


 タルピドゥが現れた音と同じ噴火のような破裂音が、他の場所からも聞こた。どうやら、一個体ではないようだ。

 真っ白な雪の上を脂肪がでっぷりとついたアザラシが移動しているなら可愛げがあるというのに、ワニのように凶悪な顔と硬い鱗、鋭い爪と牙を持った魔物はリボンやスカートを付けたとしても可愛げが全くない。

 伝説上のドラゴンのような見た目と大きさに三人の体がすくむ。

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