表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/62

ドンロン研究所

「アレックス先生、静かに。音を聞き盛らす」


 オリオンの言う通り、誰もが口を閉ざす。静かに森の声を聴くと「ギャ、ギャ……」とヴァイオリンの汚い音のような声が微かに聞こえた。耳を澄まさなければ聞こえないほどの声。


「ゴブリンだ……、間違いねえ」


 アレックスは経験から、声の主が森の狩人ゴブリンだと判断した。


「木の上だ、木の上に気を向けろ」


 オリオンとライアンは、視線を木の上に向ける。

 木に乗っている雪を落とさず移動できるほど、ゴブリンの歩行は洗練されていた。

 隠密が徹底され、こちらが息をするのも忘れてしまうほど、張り詰めた雰囲気が広がる。

 紙の端で指を切った時のような音が鳴る。アレックスの耳に矢が掠る。耳の端が痛々しく切れる。だが、アレックスは長年の経験から目は閉じなかった。視線に映ったのは何もいなかった木の上から矢がいきなり現れた瞬間だった。


「オリオン、一〇時の方角にある木の上にゴブリンがいる!」


 オリオンは素早い指示を聞き取り、杖先を何もいない木の上に向けた。


「『スリップロー(滑る床)』」


 詠唱と共に地面に積もった雪が大きく凹む。


「フラーウス連斬!」


 ライアンは土と雪を弾けさせながら加速した。凹んだ雪目掛け、剣を振るいあげる。すると緑色の肌と狩人のような服を身にまとった小さな魔物が真上に弾け飛ぶ。ゴブリンだった。

 ゴブリンは赤黒い舌を出しながら胴体を切られ、重力にしたがい道の中央に落下した。すでに死んでいた。


「ゴブリンは一体とかぎらない。まだ、周りに注意するんだ」


 オリオンはトドのように腹ばいになり匍匐前進しながら移動した。

 危険とわかっていながらもライアンが倒したゴブリンの中に魔石があるか調べる。

 ゴブリンと言えど、水分を補給する。姿を消す魔法を使っていた状況に加え、狩れる狩れないの判断を本業の者のようにこなす用意周到な魔物だ。多勢に襲い掛かるなど判断力の低下がみられたとなれば……。


「やはり、魔石が見当たらない。この個体は狂っていたと考えるべきだ。ゴブリンは仲間と共に行動する。狂った者が仲間と真面な関係を築けると思えない。一匹オオカミのようになっていてもおかしくないな」


 注意深く当たりを見回していたが、追撃は五分経っても起こらなかった。

 アレックスは、新手はいないと判断した。オリオンが借りた馬を引っ張り、ソリに男達を乗せる。オリオンとライアンも乗り込み、ドンロンに戻った。


「いっつ、冬場の耳は一番痛いんだボケ……」


 アレックスの耳は矢で裂けていたが、ポーションを掛け、治癒した。

 矢が刺さっていた人攫いの腹もポーションで治療したため、致命傷ではない。

 ドンロンの東門で人攫いを差し出し、罪人として軽い禁固刑が試行される。過去の犯罪経歴などを調べられ、さらに禁固刑が伸びるようだ。


「はぁ、魔石はとれねえし、魔物の討伐はゴブリンだけだし、高いポーションは使っちまうし、踏んだり蹴ったりだ……」


 今日の収支はゴブリン一体の討伐のみ。ポーションを使ったオリオンとアレックスは出費の方が何倍も大きい。


「明日、冒険者ギルド全体で大規模な魔物の討伐がある。それに出るだけで、金が貰えるから、ポーションは残しておきたかったんだがな……」


 アレックスがギルドマスターのキアズに呼ばれたのは、一二月二一日の日曜日に行われる魔物の駆除作業を手伝うためだ。

 多くの冒険者が参加し、魔物の被害が広がる前に、大量に駆除する作戦だった。

 オリオンとライアンも参加する予定だ。


「まあ、ゴブリンと人攫いを倒せただけましですよ。良いことして気分がいいですし」

「良いことで、腹と心は膨れねえんだよ……」


 オリオンはライアンとアレックスを冒険者ギルドに送った。借りていた馬を冒険者ギルドの方から返しておくように頼み、すぐさま研究機関に足を運ぶ。

 寒さに強い麦の研究や、ポーションの改良などに日々邁進している学者たちが集まる場所だ。ルークス帝国の中でも実に賢い者たちが集まっている。


「今すぐ、この水の成分を分析してくれ……」


 オリオンは研究機関、ドンロン研究所の窓口に駆け込む。受付嬢に公爵家の名を出してすぐに動かす。


「オリオン様、とりあえず、話を聞きます、こちらへ」


 研究長のスージアが駆け足で受け付けまでやってきた。茶色のズボンと白いシャツの上から白衣を身にまとった長身の男で、オリオンに軽く頭を下げる。


 スージアはオリオンを応接室に招き、概要を聞いた。だが、間抜けな表情で固まる。


「えっと、今はバーラト王国で流行中の疫病を調査中でして……」

「そ、そうなのか。確かに、そっちも大切だが、毒物の分析なら、そう長い時間はかからないだろう。ルークス帝国の危機かもしれないのだ。頼む!」


 スージアはオリオンの本気度合を見て黙る。赤みがかった液体の入ったガラス瓶を受け取った。


「では、分析してまいります。数日かかるかもしれません。何かあれば公爵家の方に連絡を入れます」

「ああ、なるべく早く分析してくれ」


 オリオンは一仕事終えた。思った以上に疲れ切っていたため、応接室のソファーでひと眠りした。

 どの場所でもすぐに寝付け、二〇分程度すると自然に目が覚める。体に溜まっていた披露はなくなり、体もよく動くようになった。


「だが、魔石が取れないとなるとアルティミスに送る贈物を準備できないぞ。何か、他の品を考えた方がいいか。明日の討伐作戦で魔石が取れなければ、他の贈物を考えよう」


 オリオンは家に戻り、穴が開いた冒険者服をヴィミに縫い直してもらった。


「なんで針も通しにくい冒険者服に穴が開くんですか……」


 ヴィミは穴を見て、何があったのか強く聞く。


「左肩に矢が刺さっただけだ」


 オリオンがさらっと言うと彼女の表情が青ざめる。


「もし頭や首に当たっていたらどうするつもりだったんですか!」

「い、いやぁー、どうしたんだろうなぁ」

「オリオン様のおバカっ!」


 オリオンはヴィミから長いお説教を食らった。冒険者の仕事より疲弊する。明日はもっと気を付けないと駄目だなと反省し、スージアが水の解析を終わらせるのを待つ。


「他の可能性も一応考えておくか……。暇だしな」


 部屋の中で椅子に座り、魔物の魔石がない原因とルークス帝国の至る所で魔物が狂暴化している原因を考える。

 もし、毒物が原因だった場合、敵は一人ではない。島国といえど、一人で多くの場所に毒を散布するなど効率が悪い。ルークス帝国に恨みを持っている者たちの犯行と仮定する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ