表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/62

見えない敵

「ほんと、リオンってズンズン進むよね。見ていて気持ちが良いよ」

「ライアが気を張ってくれているからな、俺様は安心して歩ける」

「凄い信頼度……、まだ、出会って三カ月くらいなのに」

「信頼しなければ、信頼されないだろう? 時間など関係ない。裏切られたら俺様が情けない男だったというだけだ」

「な、なんか、カッコイイね……」

「俺様はいつだってカッコいいに決まっている。ん、おおっ、やはり、俺様は天才だな」


 オリオンはドヤ顔する。小川の終着点を見て、より一層嫌味たらしくなった。

 川の流れが水溜まりに動きを作り、凍るのを防いでいる状況。ただ、流れる水よりも溜まっている水の色がほんのりと赤くなっている。

 動物の血液が入り込んだのかもしれない。調べればわかることだ。ウェストポーチからポーションが入ったガラス瓶を取り出す。


「もったいないな、飲んどくか」


 オリオンは一本でルークス中銀貨三枚ほどする体の治癒を目的としたポーションを躊躇なく飲んだ。

 透明な空き瓶が生れ、綺麗な流水で内部を洗ったあと、薄い赤みがかった水をくむ。

 これ以上被害が広がらないよう地面に穴をあけ、水を一気に地面の奥までしみ込ませる。毒物といえど、少量ならば自然が分解してくれるはずだ。


「よし、これを調査機関に送れば……」


 オリオンがガラス瓶をウェストポーチにしまおうとした瞬間、何かが弾け、空気を切る音が聞こえた。

 同時、左肩に熱を感じた。激しい痛みに変わる。矢が刺さっていた。

 冒険者服の頑丈な布と分厚い肉により傷は浅い。ただ、あまりに急な出来事に、思考が回らない。

 通常なら引き抜かず、医療機関に受診し、体内に異物を残さず摘出してもらうのが理想だ。ただ左腕が使えないのは生存率を著しく下げる。そのため、仕方がなく矢を引き抜いた。鼻毛を引き抜くより痛い。運よく矢じりも綺麗に摘出できた。

 貫通力が高い細く鋭い矢先のため、体内に異物が残っている可能性は低い。先端を見ても折れている様子はなかった。


「リオン、大丈夫?」

「心配ない。生憎、先にポーションを飲んでいたからな。もう、治っている。だが、矢を放たれた経験は初めてだ。一体、誰が……」


 周りを見渡しても人影はない。高い木が密集する中で、真っ直ぐしか飛ばない矢を命中させるのは距離が近くなければ難しい。目視できる距離に必ずいる。


「前方から飛んできた。同じ場所にとどまっていると考えにくい。今、敵も移動中と考える。こちらから見えない敵と戦うのは不利だ。逃げるぞ」


 オリオンはウェストポーチをベルトから外すと、頭の後頭部に当てながら身を低くして小川の中を走る。

 ライアンの警戒を掻い潜る敵となれば、相当な実力者と考えられた。すぐ、アレックスのもとに戻った方が賢明だと判断する。


「弓を使うのは人間か、はたまた高度な知識を持った魔物か。どちらにしろ俺様達を殺したがっているのは、確かだな」

「な、なんでそんなに冷静なの」

「焦っても仕方がないだろう。冒険者服の耐久性は実に素晴らしい。頭にさえ当たらなければ致命傷は防げる。今は逃げることに集中するんだ」


 オリオンとライアンはいつ射抜かれるかわからない中、森の小川を懸命に走る。歩いてきた道を見つけた。だが、オリオンは通り抜ける。


「ちょ、リオン、帰り道はこっちだよ」

「弓を使う相手だ。知識が高い。俺様を一撃で仕留められなかったときの保険に帰り道に罠が仕掛けられているかもしれないだろう。多少、ずらした方が安全なはずだ」


 オリオンは馬車の残骸を雪の中で見つける。おそらく魔物の被害にあった品だろう。馬車に使われていた木板をはぎ取る。ライアンを肩に担いだ。そのまま木板を雪上に起き、靴裏を乗せた。


「走っては間に合わん。滑っていく」


 右腰に掛けられた杖ホルスターから杖を引き抜く。木板に杖先を向けた。


「『スリップロー(滑る床)』」


 詠唱を呟くと、木板が雪の上を滑る。走るよりも明らかに速く雪の上を移動する。


「す、すごい、オリオンは器用だねっ」

「スキーは貴族の嗜みだろう、これくらい出来るさ」


 オリオンは対した自慢でもないことにドヤ顔を浮かべる。その真横を矢が通過した。バランスが一瞬崩れる。だが、日ごろの訓練によって体幹が強くなっていたため、持ち直した。

 木々を避けながら滑る。常に矢の軌道を予測し、木を盾にするように移動を続けた。

 森から道に抜けた。その瞬間に、人間の男達と勢いよく衝突。

 一人を下敷きに、弾かれた二人は雪の上で転がった。


「あぁ、なんか、すまない。これが、交通事故ってやつか。父上にもみ消してもらわなければ……。いや、潔く捕まるか」


 オリオンが申し訳なさそうに頭をペコペコと下げる。

 息を荒げたアレックスが走って来た。


「そいつら人攫いだっ。すぐに捕まえろ!」


 話を聞くや否や、ライアンがオリオンの肩から降りた。すぐに立ち上がった二人の男の顔を殴りつける。

 彼のスキルは拳にも効果があった。殴られた男達は思いもよらない衝撃を受け、一撃で気絶。

 オリオンの重さによって身動きができない男も要らぬ抵抗を止めた。


「『バインド(拘束)』」


 オリオンは魔法で人さらいの両手足を引っ付ける。三人の男は身動きが取れなった。


「こいつらは、ギルドからついて来て、オリオンを攫って金にしようとしていたんだ」


 アレックスはところどころ、傷を負っていた。だが、何事もなく事情を話す。


「安堵しているところ悪いが、敵はまだいる」


 オリオンが言うや否や、彼の肩に刺さった矢と同じ品が捕まっている人攫いの体に突き刺さった。


「それを早く言え!」


 アレックスは矢が放たれた方を見た。だが、矢を放った者の姿は見えない。


「おかしい……、見えないはずはない」


 元冒険者のアレックスは矢の特性を知り尽くしていた。矢が飛んできた角度や速度から考え、近距離で放ってきているのは間違いないと思った。だが、視界に映る距離に何もいない。


「アレックス先生、もしかすると魔物が魔法を使っているのかもしれん。ロッドドッグでも使えたんだ、他の魔物も使えると考えた方がいい」


 オリオンは人攫いを盾に魔物の存在が見えないか観察する。真っ白な雪と寒そうな木しか見えない。今、移動中としても、あまりに姿が見えなすぎる。


「たくよお、魔物が魔法を使うんじゃねえ。気配の消し方が本業そのものなんだよ」


 アレックスの声は反射するものなく遠くまで響く。体の震えを声で制御しなければ立っていられない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ