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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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29/62

大群

「ん~。どこだ……、魔石が見当たらないぞ」

「相当小さいんだろうよ。目を凝らしてよく探してみろ」

「アレックス先生、まだ、魔物がいます!」


 ライアンはすでに周りに目を向けており、ボコボコと湧き上がる白い雪を見た。

 オリオンとアレックスも、魔石の回収をいったん諦め、重い腰を上げながら魔物の対処に取り掛かろうとする。

 アレックスはさっきの瞬殺具合からして、何匹現れようと問題ないな、など余裕を見せる。だが、森の中に見えていた白い雪がかき消されたようにロッドドッグの大群が姿を現すと表情が青くなった。


「な、なんだごりゃあああっ」


 大群で移動する鼠のよう。優に百匹近く確認できた。

 冒険者や荷台の痕跡が一切無かったのはこの大群に食いつくされたからかと、閉じていた肛門が逆に開きそうになる。

 轍があったにも拘らず、ロッドドッグは雪を被っていた。つまり、襲われてから雪が降ったわけではない。その状況から、一つの仮説が浮かぶ。


「こいつら、魔法を使うかもしれん。退避するぞ」


 アレックスの勘は当たっており、ロッドドッグの口が青白く光り出す。


「お、俺様の初めてをここに捨てて行けって言うのか」

「今はそんなこと言っている場合じゃない。なぜかわからんが、低級の魔物の癖に魔法が使えるようになってやがる。自分たちの姿は隠すのに、獲物の痕跡は消さないアホどもめ!」

「アレックス先生、口が悪くなっていますよっ」


 ライアンはドンロンの方向目掛けて素早く駆け始める。生憎、通路にロッドドッグの姿はなかった。通路に出るのは危ないと、魔物ながら感じ取っているのかもしれない。


「お、俺様の初めてが、こ、こんな風になくなってしまうなど、屈辱だっ」

「ツベコベ言わずに逃げるぞ」


 アレックスはオリオンの重い体を担ぎ上げ、ライアンの背後を全力で追う。背後を見る余裕はないが、迫りくるブリザードのような寒気が全身を凍えさせる。低級の魔物の魔法といえど、大量に食らえば余裕で死ねる。


「やっぱり、冒険者なんてやるもんじゃねえな」

「お金に目がくらんだ、アレックス先生のせいですよっ」

「俺様の初めて~っ!」


 三者三葉に叫びながら、ロッドドッグから距離を取ろうとする。

 だが、魔物たちはまるまる太った豚のような生き物を逃がそうとしない。ごちそうだと言わんばかりに大口開けながら追る。

 二本足で走る人間の脚力よりも、四足歩行のロッドドッグの方が圧倒的に早い。


「オリオン、こっちも魔法を放て。今のお前は砲台変わりだ」

「俺様の初めて……」

「今、あいつらを倒せれば、お前の初めてを取り返せるかもしれないぞ」

「むむ……、なるほど。では、やろう!」


 オリオンはアレックスの肩に腹を乗せながら、迫りくるロッドドッグの姿を両目でとらえた。

 アレックスが彼のムッチリとした腰に取り付けられた杖ホルダーから杖を取り出し、指揮者が演奏を始めるように持ち上げる。

 杖を受け取ったオリオンは、範囲、魔法、威力、など緻密に計算し、体内の魔力を練り込んでから一言。


「『スリップロー(滑る床)』」


 詠唱が放たれると、杖先に魔法陣が展開されロッドドッグの足下にも同じく魔法陣が現れる。

 鋭い爪で雪の上を引っかきながら進むため、移動など何のそのだった奴らは空を踏んだように前のめりに倒れ、勢いよく転がる。

 数が多いゆえに、全ての個体をこけさせられなかった。だが、勢いよく走っていたため、前方の個体が止まるだけで、背後は巻き込み事故のように仲間から攻撃を受ける。


「勢いが弱まったが、このまま逃げるのか?」

「たく……、魔法まで巧に扱いやがって。ライアン、行けるか?」

「はい、走って体が暖かくなったので、さっきより動けます!」

「オリオンは魔法で俺たちを援護しろ。自分に迫りくる個体は剣でどうにか出来るだろ」


 アレックスはオリオンを下ろし、排水溝に詰まって気持ちが悪い髪のように絡まっているロッドドッグたちを見た。

 ライアンと共に前に出ると、鋭い剣術を駆使して駆除する。


 オリオンの援護の下、アレックスとライアンはひたすらロッドドッグをなぎ倒し続けた。ようやく静まり返った戦場で、二人は肩で息しながらその場に立ち尽くす。荒く吸っては吐き出す呼気は冷えた空気の中で白い霧となり、すぐに消えずに漂う。


 周囲に蠢く敵影はなく、ロッドドッグの群れはすでに全滅した。勝利の実感よりも体の芯に残る疲労と戦いの余熱が、二人の意識をじわじわと蝕む。


「やっぱり、お前らやるな……。あの数を見て、真面に動ける新人冒険者はいないぞ」

「俺様はあまり動いていないがな」


 オリオンは下ろされた位置から一歩も動かず、砲台としての役割を遂行した。

 二人が強すぎて彼のもとに一匹もロッドドッグがやってこなかったのだ。


「リオンの魔法があったから、ここまで戦えました。スキルの威力調節の訓練ができて凄く嬉しいです」


 ライアンの満面の笑みは爆散したロッドドッグの黒い血にまみれており、アレックスの股間を縮こませるのに十分な威力だった。


「さて、なんでこんなに大量にロッドドッグがいるのかも気になるが、魔石がねえ。これじゃあ金が稼げねえ。タダ働きほど糞なこともねえぇえっ!」


 アレックスは魔石を見つけようと奮闘したが、ロッドドッグの死体から魔石が一個も見つからなかった。こんな事態は初めてで、雪をぐしぐしと何度も踏みしめ、生徒の前にも拘らず子どものように荒立つ。


「魔石を持たない魔物が魔法を使えるなんてありえねえだろ。なんで、こいつらは魔法が使えたんだ? 最近の魔物はそうなのか?」

「いや、僕も初めての経験です。たまに魔石を持たない個体はいますけど、それは死にかけの個体でした。魔物についてはまだよくわかっていないことも多いので」


 アレックスとライアンは首を傾げながら考え込んだ。ただ、両者共に頭が固いようで事態が飲み込めていない。


「魔法は魔力がなければ使えない。魔石は魔力の固まりのような物質だ。ならば、こいつらは自分の命を削って魔法を放っていたと考えられるのではないか?」


 オリオンは死んでいるロッドドッグに火を放ち、ストーブ代わりにする。異臭が酷いが、魔物の血のせいですでに臭いため問題ない。ロッドドッグを燃やしても毒物が発生しないのはわかっている。

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