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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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冒険者ギルド

「ライアン様、アレックス様、どうかオリオン様をよろしくお願いいたします」


 ヴィミは主の同行者二名に頭を深々と下げた。


「まったく、ヴィミは心配性だなぁ。安心しろ。俺様はアレックス先生を囮にしてでも逃げるさ」

「おい、俺を囮にするって何の話だよ」

「俺様が考える中で最悪な状況として大量の魔物に襲われるというのがある。もし、そうなった場合の対処法だ。アレックス先生が魔物の囮になれば、俺様とライアンは助かる」

「俺が死ぬじゃねえか!」


 オリオンとアレックスの会話を聞き、ヴィミはクスクスと笑った。自分が思っている以上に、主は成長しているのかもしれないと考え、潔く見送る。


 オリオンたちはドンロンに置かれているイーグル冒険者ギルドの本部に幌馬車で向かった。


「にしても、リオンの家、凄く大きかったね」

「そうか? まあ、学園よりは小さいけれどな」

「学園よりデカい家は、そうそうねえよ。まあ、あの城は例外だがな」


 アレックスはドンロンのどこからでも姿を望める帝国の城に視線を向けた。

 幾度もの増築を経て、古い絵画に描かれたこぢんまりとした初期の姿はもはや面影程度。

 今や街の景観をぎりぎり壊さぬ絶妙なバランスを保ち、要塞のようだ。

 それが帝国の威信を象徴するための美的設計なのか、あるいは皇帝の少々過剰な趣味の産物なのかは定かではない。


「あのデカい城に、部外者が紛れ込んでも、誰も気付かねえだろうなぁー」


 アレックスは城の中で、皇帝が毎日とっかえひっかえイイ女を抱いているのかと思うと目を細めた。女に刺されて死んじまえという、非国民のような考えになる。

 皇帝が毎日何しているのか多くの民は知らない。知る由もない。


 イーグル冒険者ギルドはドンロンにある多くの人が行き交う通り『リージェンツストリート』に建物を構える。

 城と比べると小さいが、他の建物と比べれば十分大きく堅牢な造りだった。


 幌馬車を駐車場に止め、三人は建物の中に入る。

 外と内の気温差がはっきりとわかるほどの熱気が頬を撫でる。

 女湯のような柔らかい空気ならよかったが、残念ながらむさくるしいおっさんたちが吐き出した息と汗が混じる息苦しい熱気だった。


「おいおい、アレックスじゃねえか。学園に永久就職したんじゃねえのかよっ!」

「爺さんに尻を拭かれて、尻尾振っている駄犬じゃなかったか?」

「女ども、逃げねえと野良犬にマウンティングされちまうぜっ!」


 冒険者時代のアレックスを知る者が、ニタニタと笑いながらギルドの中に入った彼に向って罵り、弄り倒した。


「うるせえ、バカ共。誰が冒険者みたいな筋肉むきむきで男みてえに薄汚い女を抱くかってんだ!」


 ついつい冒険者時代の悪い口が出てしまうアレックスだったが、近くにオリオンとライアンがいると思い出した。咳払いし、凛々しい先生の姿を取り戻す。


「んんっ、あぁ、久しぶり。皆、元気そうで何よりだ」

「もうおせえよ」


 オリオンはアレックスをよそに、初めて目にする空間の中で目を輝かせた。


「おおおおっ、素晴らしいっ。なんと綺麗な肉体美だろうか!」

「なんだい、ガキンチョ、この美しさがわかるのかい」


 ガチムチな女冒険者はオリオンに熱い視線を向けられ、鍛え抜かれた肉体美を見せびらかす。

 筋肉が鎧だといわんばかりにショートパンツと胸だけを隠す服装で、その他は素肌が丸見え。冬場の恰好と思えない。


「この筋肉の鎧は頑丈そうなのに、尻と胸だけは未だに女の柔らかさを残しているように見える。実に良いっ。ああっ、あっちに、ぼっきゅっぼんの僧侶のお姉さんっ。なぜ、そんなにスリットが開いているんだ。俺様に聖なる温もりを与えてくれぇっ~!」

「おい、ライアン、あのバカを止めてこい」

「わ、わかりました」


 オリオンはライアンに脇を掴まれ、アレックスのもとに戻される。


「あまり騒ぎを起こすと出禁にされるぞ。見たいなら遠くからにしておけ。双眼鏡を持ってくれば実に良い絶景が堪能できる」

「おい、こいつが教師って終わっていないか?」


 冬場の外は人の交流が少ない中、ストーブの熱で温められた室内は喧噪に塗れている。

 冒険者といえど脳筋では生き残れない。他の冒険者と交流し、魔物の情報や土地の情報を交換し合う。酒を飲みながらという状況でなければ、賢そうに聞こえるな。


「いやっふ~、昼間っから飲む酒が一番うまい。ああ、こいつが金を払うんで」


 アレックスはいつの間にか酒と料理をオリオンの奢りで堪能していた。

 何なら、オリオンは男達が飲んでいる空になったエールジョッキの数と、最高額のステーキ肉を食べられる量など瞬時に計算し、奢っても問題なしと結論を導き出す。


「みなのものっ、今日は俺様の記念すべき日になる。好きに飲み食いするといい!」

「ひゃっふっ! オリオン様太っ腹っ!」

「この中で誰よりもでっかく見えるぜ!」

「実に男前じゃないか。将来はもっとでかくなりそうだな」

 冒険者たちはオリオンの奢りで酒や肉をたらふく食った。高級店で購入する料理と違い、貴族の彼からすれば破格の値段設定だ。

 そのため、多くの者が飲み食いしたところでイナンナと同じ値段に到達する可能性は低い。


 オリオンは子供が来ると確実に弄られる冒険者ギルドで、いつの間にか溶け込んだ。周りを大いに盛り上げた後、真面目に情報収集に勤しむライアンのもとに戻る。


「東部の森に魔物が多いらしい。魔物が頻発に出て港から貨物を運ぶ妨げになっているんだって。このままだと物価が上がってしまうかも」


 ライアンはルークス帝国の地図を開き、東部の森を指さす。

 森の中で魔物と戦うというのは、いつも開けた場所で訓練していたオリオンにとってあまりいい条件の場所とはいえない。


「冒険者の被害も多いらしい。魔物の数を減らさないとドンロンに魔物が入り込んでくるかもしれない。まあ、ドンロンは帝国で警備が一番厳重で安全な場所だし、魔物が狂暴化しているといえ、突破される可能性はとても低いと思うけどね」

「どんな魔物がいるんだ?」

「ロッドドッグが、多いみたい」

「ロッドドッグの魔石は美しいのだろうか。毒々しそうだが」

「ロッドドッグの見た目は気持ち悪いかもしれないけれど、魔石はだいたいどれも綺麗だよ」

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