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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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綺麗なものが好き

「ま、初めては高級店で捨てろって言うもんな。悪くない選択だと思う。安物を買うよりは何倍も賢い」


 アレックスは低級の店で痛い目を見て来た。腕を組みながら大きく頷く。


「アレックス先生は剣について話しているんですよね?」


 ライアンは店主に視線を向ける。


「あの男の話は真面目に聞く必要がない」


 店主は腕を組みながら、真顔で言い返す。


 周りなど一切気にせず、オリオンは肌身離さず己の体と命を預ける愛すべき剣を手に入れた。

 店主はオリオンの体を採寸する。剣を掛けるための金具が付いたベルトや、動きやすい革製の防具一式を見繕った。その後、採寸した資料を見せれば腕がいい職人が彼に合った服を作ってくれる店まで教えた。

 鍛冶職人としての仕事を淡々とこなす。


 オリオンは鍛冶屋の店主から教えられた服屋で冒険者が身に着ける動きやすく撥水性に優れ、毒虫や蛇の毒牙を通さない布地で作られた冒険者服を見繕ってもらった。

 彼の体に合わせるため手作業で仕立て直す。スキルのおかげか店内を歩いている間に完成した。

 服屋から靴屋を教えられ、靴屋から薬屋を教えられ、ドラグフィード内の優良な店を何度も巡る。だが魔物の討伐に必要な品は全てそろった。


 ☆☆☆☆


 日曜日が開け、期末試験の成績が返される。

 オリオンは前回同様に好成績を残し、気分良く冬休みを迎えた。


「もう、オリオン様、どうして私に言ってくれなかったんですか。バークレイズ商会の手に掛かれば、ドラグフィードにある品よりももっと上質な品を用意できたというのに」


 アメリアはオリオンが街で買い物を済ませてしまった件について頬を膨らませながらぼやいた。

 実際、頼まれればドンロンに構える一級品の数々を取り寄せられた。大儲けできる機会を逃してしまったのが、商会の娘として悔しいの一言に尽きる。


「やはり、自分が使う品は自分の目で見て買いたいではないか」


 オリオンは左腰に昨日買った剣(名:イナンナ)を携え、柄を撫でながら微笑む。

 その顔は女の体に触れている時と変わらなかった。自分は単なる女好きという訳ではなく、美しい品を眺め、触れるのが好きなのかもしれないと微かに思い始める。


「このことは、アルティミスに内緒にしてくれよ。今、知られては意味がないからな」

「本当に魔物の討伐に行くんですか。もし、何かあったら……」

「なんだ、アメリ。俺様を心配してくれるのか~?」

「と、当然ですよ。オリオン様は大切なお友達ですから。このまえ、アレックス先生の話が気になって商人の者から状況を聞いたんです。バークレイズ商会の者にも被害が出ているそうで、今までの魔物の狂暴化と根本から違うらしいんですよ」

「ううむ、では天才の俺様が魔物の狂暴化の原因も突き止めてくるとしよう」

「ど、どうしてそんなに楽観的にいられるんですか。死ぬかもしれないんですよ!」

「楽観的か……、別に俺様は楽観的な考え方はしていない。自分の力量を理解し、逃げ時を見極め、冷静で合理的な判断の下、実践練習に向かうだけだ。そのための準備も整えた」

「想定外のことも起きるかもしれませんよ」

「その時が来たら、その都度考えて行動するまでだ。なにを隠そう、俺様はアメリよりも賢い。心配せずとも冬休み明けに合える。大量に魔物が狩れたらバークレイズ商会にも一部おろすとしよう」

「もう、何を言っても聞かない人ですね……。その話、約束ですからね」


 アメリアはなぜか、目の前にいる男が危険な場所に行くと思うと心が握りしめられたように苦しくなった。

 不思議な感覚で、普段なら男に負けて悔しいと思う筆記試験の結果もオリオンの下ならいいかと考えてしまう。冬休みの間、会えないだけでどうしてこうまで気がかりに思ってしまうのか理解できなかった。


「ああ、約束しよう。金は必要ないが、そのたわわな胸で包んでもらおうか」


 オリオンは鼻の下を伸ばす。視線は、淫らに実っているアメリアの胸に向いた。


「私は高いですよー」


 いつもなら、ひっぱたいてやろうか豚野郎と思っているところ。だが、三カ月近く同じクラスで生活していたため、オリオンの調子に乗ってしまった。胸の下に腕を潜らせ、体を抱きしめるようにして大きさを強調する。


「ほほ~っ。これは、大量の魔物を狩って来なければならないようだな!」


 アメリアは自分の体がオリオンのやる気に繋がるならば、多少恥ずかしくとも我慢できそうなど、変な気を起こしている自分に気づき、頭を振るう。

 お金儲けがしたいからといって体と心だけは売ってはならないと父に言われているため、我に返る。


 ☆☆☆☆


 一二月一七日にオリオンとヴィミは馬車に乗ってドンロンに帰る。その際、アレックスとライアンが護衛という名目の下、共に行動した。

 現在、アレックスは教師ではなく冒険者の気持ちに切り替えた。ライアンも同じく学生ではなく、冒険者の気持ちを作る。

 ドラグフィードからドンロンの間は頻繁に使われるため、魔物の被害は抑えられているようだった。それでも、被害がないわけではなく。


「フラーウス連斬っ!」


 ライアンは茂みから現れた犬に似た魔物に剣術を放つ。すると、魔物は爆発四散する。その威力にアレックスは引かざるを得なかった。


「ライアン、その威力が出るスキルは何かしら代償を伴うと思うんだが……」

「今まで特に代償は感じたことありませんけど、一応気を付けてはいます」

「そ、そうか。くれぐれも、人に向けるなよ。人が弾け飛ぶところなんて見たくないからな」

「わかっていますよ。そのために、スキルの調整の訓練をリオンとしてきたんですから」


 アレックスはライアンから話は聞いていたが、あの威力を見てスキルを受ける気持ちに一切ならない。オリオンの感覚が自分と全く違うと思い知らされる。


 一二月一九日、ドンロンに到着したオリオンたちはヴィミを公爵家の屋敷の前に降ろした。

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