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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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初めての武器選び

「ば、バカなんですか。剣をまともに振り始めてから三カ月で魔物と戦いに行くなんて危険すぎますっ!」

「安心しろ。俺様一人で行くわけじゃない。魔物を倒して学費を稼いだライアンもいる。なんなら元冒険者のアレックス先生もいる。三人いれば、冒険者パーティーと変わらないだろう。その間、ヴィミは休暇を取ればいい」

「そ、そう言われましても……」

「勉強と同じだ。学んだことを生かすのが楽しくてな。学んだ剣術も試したくて仕方がない。確かに、少し早いかもしれないが無茶する気はない。それともなんだ、ヴィミは俺様が恋しくて仕方がないのか~? まったく、可愛い奴め」


 ヴィミは自分のお願いと違い、オリオンが決めたことに口出しできる立場ではない。危険すぎると思いながらも強く引き留められなかった。


「じゃあ、私も行きます」

「冒険者はヴィミを見たら一斉に襲いかかるかもしれないからついてくるな」


 オリオンは可愛すぎるヴィミを気遣った。

 ヴィミはバーラト王国民の女に欲情する男など彼くらいだろうと内心思ったが口にしない。


「私も戦えます」

「俺様の実力を伸ばしたいのにヴィミが戦ってどうする」


 ヴィミはスキルの影響で頭の回転が異様に早くなっている主を言い負かせなくなった。彼の意見を尊重し、送り出すしかない。


 オリオンは実践に出るにあたり必要な品が枯渇していた。休みの日に買い集める必要があると悟る。生憎、金はふんだんにある。


 一二月一四日の日曜日、ドラグフィードにある商店街にオリオンはライアンとアレックスの三人で訪れた。冒険者が扱う道具一式をそろえるためだ。


「おい、オリオン。本気で付いてくるつもりか?」

「もちろんだとも。これほど、実践練習にもってこいな状況はないだろう」

「だが、今じゃなくてもいいだろう。もっと温かくなって魔物の狂暴性が減ってからの方が安全に実践練習ができる」

「魔物に安全など求めていない。襲ってくる者は皆狂暴であろう。ならば、それを打ち破ってこそ本当の強さを得たことになるのではないか」

「はぁ、遠回しに言うの、めんどうくせぇ……。この際はっきり言うがお前に何かあると俺が困るんだよ。何かあったら首が飛ぶんだよ。おそらく、物理的にな!」


 アレックスの懸念は、オリオンが公爵家の子息であるという点だ。しかも魔物と戦闘経験がなく、嫁(許婚)に自分で取った魔石を送りたいなどというロマンチスト的な思考で魔物との戦いを軽く考えていることもある。

 戦って実力があるのは知っている。それでも訓練と実践はオナニーとセックスくらい違う。

 どれだけ訓練を積んでいても初めての実践で失敗するのが関の山だ。

 若いころ娼婦相手に童貞じゃないと息巻いた手前、ボコボコにされた苦い過去を思い出す。

 げんなりしていると実戦経験豊富なライアンが看板を指さした。


「あ、鍛冶屋がありました。あそこですね」


 アレックスが冒険者だったころ、ドラグフィードに来たら確実に寄っていた鍛冶屋に足を運んだ。

 よく知る相手の方が値下げ交渉しやすい。加えて、良客を連れてきたとなれば自分が武器を新調するときにまけてもらいやすい。実に狡猾な男だった。


 オリオンは誰よりも先に鍛冶屋に入り込んだ。人生初めての鍛冶屋を目の当たりにする。女の体を見ているように鼻息を荒くし、棚に並んだ品々を眺めた。彼も男の子であるため、武器の類は大好物である。


「いらっしゃい、って、アレックスか。何しに来やがった」

「おいおい、久しぶりに顔を出した男相手に、その言い方はないだろう。冷たい野郎だな」


 アレックスは店主の禿げ頭にぶっきらぼうな挨拶を交わす。


「人の女を奪っておいてよく言うぜ……」

「何年前の話を持ち出すんだ。うちの生徒の前で、そんな汚い話はやめてほしいね」


 アレックスと店主の中は最悪だった。本心は会いたくなかった。だが、金を持っているオリオンに無駄に高い剣を買わせる店は多い。信頼があるこの店に来るしかなかった。


「冒険者はやめたって聞いたが、何しに来たんだ」

「武器の点検とか、もろもろだ。喜べ、今日は儲け時だぞ」


 アレックスの視線は壁際に飾られている剣に心酔しているオリオンに向けられた。


「これは、いい……。実にいい」


 オリオンは、はげたおっさん店主の汗と手垢、吐息まで吸っていそうな洗練された武器の数々に見惚れる。

 貴族が持つ見栄を張りたいだけの装飾品塗れな宝剣と違い、実践で扱うために無駄な部分をとことん削ぎ落した戦うための武器。それが、ここまで美しいと思っていなかった。

 芸術品を鑑賞するように見つめ続けた。


「この洗練された剣の姿は、まるで恥じらう裸の女のようだ。実に美しい」

「おお、この美しさがわかるのかガキンチョ」


 アレックスのせいで不機嫌だった店主はオリオンの感性の良さに、鼻息を荒げる。

 剣を振る体型に見えなかったが、自分の鍛え上げた武器を買うに値する多少の実力はあると確証を得た。


「リ、リオン、女の人の体を見た覚えがあるの?」

「メイドの入浴中の背中を覗き見た程度だ。気づいた時の恥じらう姿を見た時は実に甘美な時間だった。そのあと、あの世に行きかけたが……」


 ヴィミが体を洗っている姿を覗き見て、激怒された時を思い出す。一度だけの犯行で背中しか見ていないが、幼いオリオンの脳裏に焼き付くほど女の裸は美しかった。

 彼が見ていた剣は店の中で一番目立つ位置、入口の先の壁に飾られていた。

 自分の顔が映りそうなほど傷一つない銀色の剣身は女の滑らかな肌のよう。手もとを守るためだけの質素な鍔は胸の膨らみに見え、美しさを助長する。持ち手に撒かれた黒い革は男の心を惑わせる東洋の長い黒髪そのものだ。


「うむ……、俺様の初めては、このものに捧げるとしよう」


 ルークス小金貨三枚。ルークス大銀貨三〇枚相当で、当たり前のように店で一番高い剣だった。

 帝国民の年収が平均して銀貨三〇〇枚、大銀貨三〇枚相当に値する。オリオンが選んだ剣は平民の一年の年収相当。子供がぽんっと出していい金額ではない。

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