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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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21/62

太った

 今日も徹夜する気満々だったライアンはオリオンの話を聞き、ちゃんと眠るようにしようと決めた。


 ――人間は眠らないと記憶が定着しないのか。興味深いな。


 オリオンは自分のスキルに興味を持ち始めた。地味なスキルだが効果は絶大。スキルがないころに戻るのは難しい。

 剣術と同じように、このスキルを極めればもっと充実した毎日を送れるのではないかと考えが止まらず、眠れる夜が待ち遠しい。


 ☆☆☆☆


 オリオンは中間試験で好成績を納めた。八〇人いる八組の中で一位を獲得。

 一学年の試験は一組から一〇組まですべて同じ試験内容だ。合計点数が八百人中一桁の順位に入った。自分の天才具合(スキルありき)に鼻高々。

 自分のスキルは無限の可能性を秘めていると察する。風呂で裸のまま、ぶりんぶりんとうち震える。


 一一月に入り、オリオンは体がさらに引き締まったように感じた。

 一一月二日の日曜日、外は生憎の雨、風邪を引きたくない彼は部屋の中で掃除しているヴィミの姿を目で追う。

 体重の減りは緩やかだが、弛んでいた下腹は小さくなり、クリームパンのようだった手はしぼんだ。

 その変化は、ヴィミも感じていた。だが、そんなことよりさらに重大な事実に気づく。


「逆に、私が太っている……」


 ヴィミの運動量は屋敷にいた時の八分の一以下。それに対し、食べる量はほとんど変わっていない。お腹周りに脂肪が付くのは当然だった。

 持って来たメイド服がきつくなってきたと思った時、恐る恐る体重計に乗った。目も当てられない体重の増加を見て、気が気ではない。


「ううむ、ううむ、ヴィミが美味しそうに肥えている。実にエロい……」


 オリオンはメイド服がパツパツに膨らんだヴィミの臀部を見て、にやにやと顔をほころばせる。

 その、尻のふくらみは数カ月前まで彼女がかがんだ時にしか堪能できなかった。今はむっちり尻を彼女が立って作業している時でも拝める。となれば、自然に目で追うのは当然だった。


「み、見ないでくださいっ。こ、これは、違うんです。冬場で体が栄養を蓄えようとしているだけです。バーラト王国民は太りやすくて痩せやすい体質なだけですから!」


 ヴィミはいつも以上に真剣に声を荒らげた。顔も少し丸くなり、幼さが際立つ。以前のような威圧的な雰囲気も角が取れた。


「冬場と言えど尻に脂肪を付ける必要はないだろう~。それに農業革命がおこり食物が安定して得られるようになった今の時代、ヴィミが太る必要はないと思うが~。それともなんだ、俺様にムチムチボディを見てもらいたくて、太っちゃったのかな~?」


 オリオンのあおりは、ヴィミの大きな胸に突き刺さる。肉体美が自慢のバーラト王国民にとって太るというのは実に恥ずべき事。太っているだけで仕事ができない、弱い、選ぶ価値なしとレッテルを張られる。それほど、バーラト王国民は太っている者を嫌う。


「まあまあ、これはこれでいいと思うぞ。胸と同じくらい柔らかい腹というのも、乙ではないか」


 オリオンはヴィミの背後から腹に着いた贅肉を摘まむ。


「く、くぅぅう……」


 腹を摘ままれる程度、奴隷のヴィミにとって痴漢の内にも入らない。だというのに、胸や尻を攫われている時と同様の頬の熱さを覚えた。


「や、痩せてやりますよっ。もう、あっと言う間に元通り。いや、前以上に綺麗な肉体を作ってみせます!」

「おお~、凄いやる気だな。だが、外は……、おお、雪が降っているぞ。外に出たら、寒いだろうなぁ~」


 オリオンはにやにやしながらしんしんと降り積もる白い雪を見る。雨から雪に変わったらしい。


「……ら、来年の春までに痩せてやりますよ!」


 ヴィミは寒いのが大の苦手だった。常にストーブの近くにいないと気が済まない。


「では、今のムチムチなヴィミを春まで堪能できるということか~。愉快愉快」


 オリオンはストーブで暖まっているヴィミの体に再度抱き着く。心と体で暖まった。ただただストーブで暖を取るよりも、何倍も暖かくなる。


「も、もう、オリオン様、あまりくっ付かないでください。掃除がしにくいです」

「いいではないか、いいではないか~」


 ヴィミとイチャイチャして過ごす休日も悪くないと思いながら、彼女のお腹をムニムニして楽しむオリオンだった。


 ☆☆☆☆


「……未だに疫病の勢力が納まらず皆の不満も噴火寸前だ」

「疫病のせいで真面に働けなかった奴らばかり。冬の備蓄がねえ」

「金も食べ物も、薬すらない状況で、ルークス帝国の奴らからの援助は途切れた。俺たちの国はルークス帝国に見捨てられたんだ……」


 ルークス帝国の王都、ドンロンにてフード付きの薄汚い黒い外套を纏ったバーラト王国の男達が寒い冬空の下、治安の悪い裏路地で現地に残してきた家族の手紙を読みながら安酒をあおっていた。疫病が終息するまで貿易が停止し、手紙の交換もままならないと嘆いている。

 バーラト王国から出稼ぎに来ている者たちの集まり。そこに、虎耳と尻尾を質のいい藍色の外套で隠しながら歩いている青年が現れる。


「お前、カルティクか。見ない間にデカくなったな」

「おお、バーラト王国の英雄アシットさんの息子か。懐かしいな。妹ちゃんは元気かい?」

「今、バーラト王国は疫病の流行で酷い状況だろう。いつ、こっちに来たんだ?」


 険しい顔で酒を飲み交わしていた男達は、カルティクの正体を鋭い嗅覚で言い当てる。

 若い知り合いに会い表情を綻ばせ、手招きした。実に一〇年近く会っていなかったが、懐かしい香りは未だに忘れていなかった。


「やっぱり、ここいたか。怖いくらい、情報が正確だな……」

「ん、情報?」

「いや、こっちの話だ。皆に折り入って頼みがある」

「頼み? なんだ、可愛い女がいる娼婦でも教えてほしいってか?」

「イイ女がそろっている店なら、いくらでも教えるぜ!」

「バカ野郎、子供に……って、もう、国を出てから一〇年は経っているか。カルティクも成人しているなら、まあ、そう言う話も悪くはないな」

「ルークス帝国の皇帝を殺すために、手を貸してほしい」

「「「なっ……」」」


 男達は酒気が一瞬にして飛んだ。声を荒らげそうになったが一瞬で黙り込む。

 バーラト王国民の男達にとって叫ぶのは弱い者の行為であり、自分は弱い男です~! と名乗りを上げているのと変わらない。


「どういうことだ。理解できん」

「知っているだろう。ルークス帝国がバーラト王国を切り捨てた。そう言うことだ」

「いや、もうちょっとわかりやすく伝えてくれ。俺たち、もう、一〇年は国に返れていないんだ。いきなり、そんなこと言われてもな……」

「命の恩人であるアシットさんの息子の頼みと言えど、さっきの頼みは聞き入れられない」


 カルティクはドンロンまで来た流れを三人の男達に話した。

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