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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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20/62

睡眠不足

 アレックスは木剣を軽く構えた。オリオンの様子を見るために後手に回る。

 冒険者として実践を繰り返し、得た経験は未だに体から抜けない。

 仲間から飛び散る鮮血、魔物から吐き出される生臭い息、痺れるような緊張の空気。

 子供の相手するだけで大金が入り、酒と女で遊べる悠々自適な生活を知ってしまった今、あそこに戻りたいと一度も思った覚えはない。

 温暖育ちのボンボンが実践練習などと、軽口を叩いているのが少々気に食わなかった。

 ここで、大人の恐ろしさと実践の難しさってやつを教えてやるかと、休日を守るために必死に生き延びてきた過去の自分を呼び覚ます。


「では、参るっ」


 オリオンは日々の運動で多少軽くなったが未だに重たい体を動かし、走り出す。


 実戦経験豊富なアレックスからしたら、遅すぎる動きだった。

 剣を振りかざして来たらすぐに掬い上げてやるかとカウンターを狙う。だが、自分の体が傾いている状況に気づく。体はオリオンの魔法によって滑っていた。


「隙ありっ」


 オリオンは木剣を躊躇なく振りかざす。


 アレックスはこのままだと攻撃を受けると察した。木剣を地面に突き刺し体の軸にする。浮いた足でオリオンが持つ木剣の腹を蹴りつけた。

 オリオンの手から木剣が離れる。


 アレックスは勝負に決着がついたと思い、気を抜いた。

 その瞬間、オリオンが軸の木剣を蹴り倒した。

 アレックスの体が地面に衝突する。それ目掛け、オリオンは飛び乗る。


「ぐあはははっ、どうだ。俺様の圧し掛かり攻撃は。動けまいっ」


 アレックスは本当に動けなくなった。

 生徒に負ける事態に直面し、軽く手ほどきしてやろうと思っていた自分が愚かだと気づく。


「もう一回だ。今のはたまたま足場が悪かったに過ぎない。もう一回勝負しろっ」

「もちろん、そのつもりだ。気が済むまで戦おう」


 オリオンとアレックスは互いに木剣を交わし、体を動かした。訓練は朝から昼間まで続いた。


「五〇戦中、四九勝一敗か。一回目もまぐれでしかないから、俺の全勝だな。これが、大人の凄さだ。わかったかっ」

「アレックス先生、一年生相手に本気を出して戦うとか、大人気ないぞ~」

「そうだそうだ。まだ、シアン流斬しか使えない相手に、何種類の剣術を使ったんだよっ」

「剣を弾き飛ばしたら勝ちって、実践であり得なくありませんかー」


 オリオンとアレックスが剣を交えていた音は、すぐ近くにある寮の中にまで聞こえていた。

 昼食の時間帯となり、多くの生徒たちが窓を開け、裏庭で戦う二名の姿を高みの見物している状態だった。


「うるせえっ。大人は譲れない戦いってもんがあるんだよ!」


 アレックスは秋ごろの低い気温の中、額に汗をぐっしょりと掻いた。

 実践形式とは名ばかりで、最初の一戦以降、剣を手放した方、加えて魔法を使ったら負けというルールを追加。剣術だけで戦う決闘形式に変えた。

 それでもオリオンの扱うシアン流斬が厄介極まりなく、マゼンタ撃斬、フラーウス連斬だけで押しきれなかった。


「くぅ~、やはり、シアン流斬だけだと攻め手に掛けるな。初見の技も完璧に防げない。それでは、シアン流斬を極めたとは言えないか」


 オリオンは大人が振るう本気の剣の威力と速度を体感した。剣が吹っ飛ばされるたび、実践ならば死んでいると察する。

 剣を手放さない握力や、初見の技を見切る洞察力、考えを体に反映させる身体能力の向上が課題と心得る。

 シアン流斬が受け身の型であるため、体力の消耗は小さい。だが、半日も本気で剣を交えていたため、疲労が精神と肉体に顕著に表れた。


「オリオン、これで満足しただろ。お前が思っているよりも実戦は厳しく、敵は無慈悲だ。つっても、これだけの剣が扱えるのなら、護身用と考えれば申し分ない技量だと思うぞ」


 アレックスは疲労困憊で仰向けに倒れているオリオンを引っ張り起こす。肩を叩き、正直に褒めた。

 俺の剣をいなせれば、大抵の人間の剣をいなせると大見え切る。その後、寮に戻った。

 ただ、今の段階で打つ手が限られた。

 今後成長したオリオンに自分の剣が届くのかと疑問が生まれる。成長速度の速すぎる学生と剣を交え、彼は実に数年ぶりに剣の訓練をやる気になった。


 オリオンはもう一本ほど、剣を交えたいところだった。だが、アレックスに逃げられてしまったため昼食を得に寮に戻る。

 すると、寝不足気味の生徒たちが食堂で苦い珈琲をがぶ飲みしている姿を目の当たりにした。日夜勉強に追われ、皆寝不足気味だった。


「ああ、リオン、おはよう……? いや、こんにちはか?」


 ライアンも勉強に追われ、睡眠がとれていないのか頭の回転速度が著しく落ちていた。

 オリオンはそんな状態で勉強に身が入るのかと疑問に思う。

 スキルを手に入れてから寝不足になった覚えが一度もなかった。そのため、どれくらい思考力が落ちるのか理解できなかった。


「ライア、一本だけ、剣を交えないか? 気分転換になるだろう」

「そうだね……。食後の運動に丁度良いかも」


 オリオンは昼食の前に、ライアンと裏庭で剣を交える。

 結果、オリオンの圧勝だった。準備運動や午前中に実戦訓練を積んでいたとはいえ、あのライアンが手も足も出なかった。

 オリオンだけではなく、ライアンの方も驚きを隠せなかった。


「なるほど、実に興味深い。人間は寝不足だと、弱くなるらしい」

「ほ、ほんとだね。僕も驚いているよ。いつもの実力の半分も出せていない気がする。徹夜で剣を振るってから試合に出るより、ちゃんと眠って迎えた方がいいね。え? じゃあ、勉強は?」

「俺様のスキルは身体能力も眠っている間に記憶できる。そう考えると勉強も運動と同じと考えていいだろう。ライアン、眠らないと勉強した意味がないかもしれないぞ」

「……きょ、今日は早めに眠ろうと思う」

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