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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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スキル、完全睡眠

 一時間もしないうちにルークス帝国の大半が信仰している女神キリシアを祭る、聖パウロ大聖堂に到着した。


 ルークス帝国に住む者たちは成人になれば、女神からの加護(スキル)が送られる。内容は様々だが、その者に合ったスキルが与えられると言い伝えられている。

 オリオンは八月八日、今日この日に一五歳となり、成人を迎えた。

 平民でもスキルの内容で、大きく出世する可能性がある。そのため、信仰する者が後を絶たない。

 キリシア教はルークス帝国にて、絶大な権力を持つ。


 オリオンは聖パウロ大聖堂の入口前で馬車を降りた。ヴィミと共に内部に入る。


「これはこれは、オリオン様、無事に成人を迎えられたことをお喜び申し上げます」


 キリシア教、教皇のイエリスは真っ白なローブに身を包み、教壇の前でオリオンを待っていた。

 超絶好待遇である。普段は滅多に人前に現れないが、帝国で教会と同じく権力を持つ公爵家が相手となれば、本来神官の役目すら自ら引き受けざるを得ない。


「イエリス卿、俺様が女にモテモテになるスキルを授けてくれ」

「そ、それは、女神キシリア様が決められるので、何とも言い難いですねぇ……」


 イエリスは笑いながら顔にしわを作る。そのまま、ヴィミの方に視線を向ける。

 すると目を細め、汚物でも見るかのような冷たい眼差しになる。笑顔は一瞬崩れたが、すぐさま微笑み直し、オリオンの前で立ち止まった。


 ルークス帝国民の多くが植民地出身の者を毛嫌いする。

 ヴィミにとって嫌悪の視線は見慣れていた。

 だが、間に挟まっているオリオンは頬に空気を溜め、風船のように膨らませる。


「ヴィミのおっぱいと尻は、俺様のだぞ。たとえ、イエリス卿と言えど、ヴィミに触れたら許さんからな」


 オリオンは短い腕を左右に広げ、ヴィミを守るようにしてイエリスの前に立ちはだかる。

 その姿を見るイエリスとヴィミは目を丸くし、二人して鼻で笑った。


「まったく、オリオン様は本当にお優しい方だ。バーラト王国の者を庇護するとは。きっと、キシリア様もお優しいオリオン様に臨まれたスキルを授けてくださりますよ」


 イエリスは静かに両手を差し出し、指先を絡めるようにして祈りの姿勢を取った。

 誰にも聞こえぬほど微かな声で聖句を唱えはじめると、教堂を満たす空気が揺らぎ始める。

 ステンドグラスを通し、差し込む神聖な陽光が彼の身を包む。まるで呼応するかのように閉じられた瞼の内側、その奥から光を宿した瞳が現れた。

 いま、オリオンの前に立つのは本当にイエリスなのか。それとも女神キシリアそのものなのか。

 人の姿を保ちながらも、そこに感じられる存在は、もはや人間ではなかった。


「私は、オリオンのことが大好きよ」

「イエリス卿に言われても嬉しくないなぁ……」

「ふふふっ、オリオン、これからも大きくたくましく元気に育ってね。私はいつまでも見守っているわ」


 イエリスはオリオンの額にキッスし、一歩下がって瞳を閉じる。


 オリオンは、おじさんにキッスされて吐き気を覚えながら目を閉じる。

 すると『完全睡眠:レベル一。睡眠の質が上がる』と脳裏に思い浮かんだ。

 スキルの受託は無事完了したが、自分が欲しかった女にモテモテになるスキルや滅茶苦茶強くなるスキルを貰えず、鼻から息を吐く。


「オリオン様、スキルは受け取られましたか?」


 普通の人間の雰囲気に戻っているイエリスが微笑んだ。


「受け取ったが、俺様が欲しかったスキルじゃなかった。眠るだけのスキルらしい」

「眠るだけのスキル。聞いた覚えがありませんね。オリオン様、おそらくものすごく珍しいスキルだと思われます。よかったですね」


 イエリスは、ぱっとしないスキルを受け取った様子のオリオンを元気づけようと、無理して凄いスキルだと口にする。

 公爵家の子息のご機嫌を取るのも仕事の内だと飲み込み、植民地出身の亜人種を庇護する変人の彼に国を揺るがすような危険なスキルが渡されずにほっとした。


「オリオン様は良く悪夢を見られるので、睡眠の質が上がるのはいいことだと思われますよ。もしかしたら、いい夢が見られるかもしれません」


 主を頭がいい豚だと思っているヴィミは落ち込むオリオンを、無意識に慰めた。

 動機は不純だったが、庇護されて悪い気はしなかった。

 むしろ、こういうところがあるため、日ごろの痴漢も目を瞑れる。


「確かに、そうだなぁっ。沢山の女と一緒にお風呂に入る夢でも見たいなあっ」


 オリオンは夢の内容を脳内に思い浮かべ、豚のように鼻の穴を広げる。鼻の下を無意識に伸ばし、下品な顔を浮かべた。

 今朝も酷い悪夢にうなされたというのに、まったくこりていない。

 その様子を見て、ヴィミは彼の女癖は永遠に悪いんだろうなと、さげすむ瞳を向けながら思った。


「ぐへぇ、ふへへ、ぶひゃへへへへっ」


 女に囲まれる夢を想像したオリオンの不細工な笑い声が、神聖な大聖堂の内部で響き渡る。

 この時はまだ、イエリスやヴィミ、許嫁、国を揺るがす者たちも、神に愛された豚公爵に気を一切留めていなかった。


 ☆☆☆☆


 八月にスキルを貰ったオリオンは九月からルークス帝国で最も由緒あり才能にありふれた者たちが集う最高峰の学び場、ドラグフィード学園に通う。

 何だかんだいっても公爵家の嫡男。

 幼少のころより多くの家庭教師に勉強から、剣術、魔術、芸術に至るまで指導されており、要領は良かった。胃の容量も半端ではないが……。

 ただ、家庭教師が女でなければやる気を出さなかった。

 加えて息を吸うように痴漢するため、家庭教師たちが耐えられず、担当の者が何度も入れ替わった。

 最近まで選ばれし者だけが入り学べるドンロンスクールに通い、主席とまではいかないが、上から数えた方が早い成績を撮り続けた。

 親のコネがなくともドラグフィード学園に入学は可能だったが『金を学園に余分に払ってほしい』と頼んでいた。

 はたから見れば、賄賂に思われる行為。両親は疑問に思ったが、試験に自信がないのだろうと判断し、余分な金額を学園に支払った。

 そのため、オリオンは何の問題もなく、学園に合格し、入学の日まで悠々自適にヴィミに痴漢する。



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