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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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19/62

休日出勤

「やはり、ボンキュボンのお姉さんが至高ですよっ。あの、包み込んでくる感じが溜まりません」

「ほほほうっ。その年で女の魅力がよくわかっとるなあ。その感覚はわしくらいの年齢になるともう味わえん。今、たっぷり味わっておくといい」

「はいっ師匠」


 オリオンとスミスは趣味嗜好が実に似ていた。会話するだけで互いの相性がいいと察する。驚くことに、スミスもメイドのスカートを捲り上げたいがために魔法を覚えた過去があった。


「気づかれないためには窓際から魔法を放つのがコツじゃ。下着が見えるか見えないかの加減を考えて放つとなおよい」


 スミスは若かりし頃の自分を見ているようで、親近感を覚えた。

 一つの物事に対して実に真剣に前向きに取り組んでいる姿勢が、高評価。たとえそれが、おなごへの悪戯だとしても。


「ふむふむ、実に勉強になります」


 オリオンはスミスから沢山の悪戯魔法を教えてもらった。足元が滑る魔法、体を擽る魔法、手足を縛る魔法など様々。

 いきなり沢山の魔法を教えられても、すぐに扱える者はいない。何度も練習し、使いこなす必要がある。

 だが、それは一般人の場合。『完全睡眠』を持つオリオンに当てはまらない。ひと眠りした彼の脳に記憶が定着する。


「むふふ、むふふふっ。誰に悪戯しようかな」


 保健室から出たオリオンはスミスから教えてもらった魔法を使いたくて仕方がなかった。

 授業終わりに寮に戻った後、窓際から自分の部屋を覗く。


「ふんふんっ、ふふんっ、ふ~ん」


 兄から届いた手紙を何度も読み返して気分を上げているヴィミの姿が見えた。

 杖を持ち『ティックル(体を擽る)』と詠唱を放つ。

 ヴィミの尻尾がピンっと伸び、笑い始めた。擽られるのに弱いらしい。

 そのまま『スリップロー(滑る床)』と詠唱を続ける。

 ヴィミは靴を履いているのにつるりと滑り、ベッドの上に転んだ。ベッドの上で擽られ続け、涙が出るほど笑う。メイド服のスカートが乱れ、脚をばたばたさせる。艶やかな太ももがちらついた。

 オリオンは善がる彼女を見ると、無性にぞくぞくした。


「あはははははははっ、オリオンさまあっ、もう、やめてくらさいっ。か、体が、おかしくなっちゃいますっ」


 オリオンは魔法を解除する。ベッドの上で涙目になったヴィミを窓際から見た。

 彼女の大きな胸が粗い呼吸により上下に動く。存在を今まで以上に主張する。

 彼が見入っていた隙に、ヴィミは獣族の俊敏な動きで窓を開け放つ。即座にオリオンの体をがっしりと捕まえた。まるまる太った豚を与えた虎の如く微笑み、部屋の中に引きずり込む。

 そのまま、体をコショコショと擽りまくり、反撃した。

 ぶひゃひゃひゃひゃっという汚い笑い声が、寮全体に響き渡った。

 互いに笑いあって一息ついたころ、オリオンはヴィミにこっぴどく叱られた。


 ☆☆☆☆


 一〇月一九日日曜日、中間試験を来週に控えた最後の休日。多くの者が勉学に勤しむ中、オリオンは裏庭で木剣を振るっていた。

 自称天才のため、一度勉強した内容は授業を聞いているだけで全て覚えた。すでに試験勉強は必要ない。時間を有意義に使うため、今日も剣を振る。


「ううむ、やはり、一人で訓練するのは味気ないな」


 ライアンも試験勉強に勤しんでいるため、今日は練習相手がいなかった。だが、こんな日でも暇な人間はいるじゃないかと考えが浮かぶ。

 そう思い立ち、とことこと走り園舎に入る。

 職員室の扉に試験前生徒立ち入り禁止という張り紙が見えたが、入らなければ問題ないと判断。

 扉を勢いよく開け放ち「アレックス先生はいますか」と叫ぶ。数名の教師はいるものの、アレックスの姿はなかった。

 体育の教師だからか、試験を作る必要がなく休日出勤していない。万年人手不足の学園で、堂々と休んでいる。とことん自分に甘い先生だ。

 アレックスに嫌味を抱いている教師たちは、オリオンに彼が寝泊まりしている寮と部屋番号を伝えた。


 オリオンは早速学園の敷地内にあるアレックスの住居まで走る。自分が寝泊まりしている寮より少し小さめの寮に到着した。

 騎士や冒険者志望の学生が寝泊まりしている寮だ。貴族の三男や優秀な成績を収めて学費の低減を受けられた平民が多い。

 当たり前のように試験勉強に打ち込んでいる。この時期にオリオンの存在を意識する者は皆無だった。

 アレックスの部屋の前に来ると扉を強く叩き名前を呼ぶ。

 扉が開くと無償髭を生やし下着と内着だけを纏った実にだらしない姿の男が現れた。


「うぅ、なんだなんだ、こんな日に……」

「アレックス先生、俺様の訓練に付き合ってください」

「すまん、俺は美人で超可愛い女が相手じゃないと付き合う気になれないんだ」


 アレックスは休日に生徒の相手など面倒臭かった。自分に甘い考えでオリオンの頼みを断る。扉をすぐに閉めようとした。

 だが、オリオンは使い慣れた相手を擽る魔法でアレックスを笑い転がす。アレックスは気持ちが悪い笑い声を出し、耐えかねた。了承せざるを得なかった。


「たく、休日が台無しじゃねえか……」

「他の教師たちは、休日出勤していたが?」


 アレックスは口笛を吹き、一切返答しない。他の教師の事情など知ったことではなかった。

 冒険者時代から使っていた服に着替える。訓練用の木剣を掴み、オリオンと共に裏庭に出た。


「訓練と言っても、何をする気だ?」

「そりゃあ、もちろん実戦訓練に決まっている。実践で使える技を身につけなければ訓練の意味がないからな」


 アレックスは公爵家のボンボンが何を言っているんだかと思わざるを得ない。オリオンの成長速度は他の生徒と比べても抜きんでているため、多少なりとも興味は持てた。


「実戦ねぇ……。まだまだ青臭いガキンチョが実践を意識するのは、早すぎると思うがな」

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