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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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往復びんた

「ちょ、待て待てっ」


 やっと出た言葉と手の平を振る行為。

 人間、理解が追い付かないと行動もヘンテコになってしまうらしい。

 ライアンの行動を止めようとするが、距離が離れており間に合いそうになかった。

 オリオンの頭部に木剣が向かう。本気で殺す気のように見えた。

 殺気だった攻撃にライアンの戦いの素質を肌で感じた取る。

 オリオンは振りかざされた木剣を両手で挟み、身を捩じる。

 ライアンの体が剣の軸と共に回転。武器を手放す。とっさに距離を取った。


「ふぅー、危なかった。まさか、剣をはじいてまで追撃してくると思わなかったぞ」

「今のも受け止めるの。ほんと頭の回転速度、どうなっているのさ」


 アレックスは二人ともまだ一年生だよね? 歴戦の猛者じゃないよね? と疑うほど、度肝抜かれた。口がぽっかりと開いたまま、塞がらない。ライアンはいずれ強者になるだろうと思っていた。だが、一ヶ月半でここまで実力を身に着けるとは。それよりも驚かされたのは、オリオンの身のこなしが、熟練者のそれだった。

 本当に一ヶ月半前と同じ人物なのか疑わしいほど、別人だ。

 体育の授業を終え、皆を集めた後に皆の前に立つ。


「あー、皆が入学して一ヶ月半が経った。早いと思うか、長いと思うかは人それぞれだろう。おそらく、皆も同じ気持ちだと思うが、オリオンとライアンの成長速度は俺から見ても異常だ。あれを目指せという訳じゃない。皆も十分成長している。気を落とすなよ。いいか、何も心配する必要はないからな。あいつらが異常なだけだ」


 アレックスは長い教師生活の中で、貴族の性質をよく熟知していた。奴らは実に嫉妬深く、やたらと他人と比べたがる生き物だ。何かと鼻に突けばすぐに攻撃する短気な者が多い。

 だからこそ、落ちこぼれに見えていたオリオンと他の貴族より貧乏なライアンの急激な成長を見て妬む者がいると警戒した。速やかに鎮静化にかかる。


「俺は二人に贔屓して教えているわけでもない。だから、俺をひがむのは止めてくれよ」


 笑みを浮かべながら子供たちに伝える。教師という立場だが、世界がひっくり返っても貴族の子息たちより立場が上にならない。女や酒で造った借金がある中で首が飛ぶのは勘弁だった。


 アルティミスは授業終わり、オリオンとライアンのもとに足を運んだ。


「二人共、体の成長を促すような危険な薬物をやっているわけじゃないわよね?」


 アルティミスの冷徹な視線を向けられ、オリオンとライアンは顔を左右に思いっきり振るう。


「じゃあ、なんで短い期間でそこまで成長できるわけ?」


 オリオンとライアンはアルティミスに自分たちがして来た訓練を包み隠さず話した。その内容を聞いた彼女は二人の頬に容赦なく平手打ちをくらわす。


「おバカっ。考えようによっては薬より危険よ。訓練中にリオンが死ぬかもしれないじゃない。何を考えているの!」

「アルティミス、落ちついてくれ。見ての通り、俺様はピンピンしている。ライアもスキルをある程度制御できるようになってきたんだ。不意に俺様にスキルが当たっても死にはしない」

「落ち着けるわけないでしょ。私の知らない所でリオンが死ぬかもしれない訓練をこなしているなんて、真面な精神で居られないわ。リオンは私の前で死ぬって決まっているのよ!」


 アルティミスは顔を真っ赤にしながら怒り声を上げる。それだけにとどまらずオリオンのパン生地のように柔らかい頬を叩きまくる。

 その発言を近くで聞いていたアイリアは、姫の一種の告白を理解し、はわわ~っと胸のときめきを覚えた。

 アルティミスの前で死ぬというのは、死ぬ瞬間まで一緒にいるという意味がある。言い換えれば、一緒に老けて妻の前以外で死なないでと同義である。

 だが、ロマンチックもくそもないオリオンにアルティミスの愛は簡単に届かなかった。


 ――ほ、頬、叩かれ過ぎて、死ぬっ。い、息ができないっ。


 オリオンはアルティミスに連続ビンタされ、こんなに嫌われているのかと身に染みた。

 ライアンとアイリアが止めに入り、無理やり離された。

 ライアンは瀕死のオリオンを保健室に連れていく。


「アルティ……、不器用にもほどがあるよ」

「だ、だって、だって、リオンが死んじゃったらと思ったらいてもたってもいられなくて」

「オリオン様はアルティのために強くなろうとしているんだよ」

「え。う、嘘でしょ。リオンがわたくしのために? 死ぬかもしれない訓練に手を出してまで強くなろうとしているの」


 アルティミスの中で、オリオンの株はもともと高かった。だが、愛という名の時価総額が二倍、三倍と急激に増加する。


「わ、わたくしも、リオンの好みに合わせて、おっぱいを大きくして、お尻もふっくらとさせた厭らしい体型にならなきゃ……」

「いや、ならんでいい」


 ☆☆☆☆


 オリオンは保健室のベッドの上で頬をパンパンに膨らませながら横たわった。

 保険医が超絶美人で色気むんむんの女医ならよかったのにと悠長な考えができるほど元気である。

 実際の保険医はお婆ちゃんだった。膨れた頬に湿布薬を張られ、少しの間安静にしているようにと言われる。


「アルティミス、怒っていたな。死ぬかもしれない危険を冒したのが不味かったか。だが、あの訓練以上に俺様が強くなる方法がないからな」


 腕を組みながら新たな訓練の方法を考えていると、ベッドを囲うカーテンが開く。

 美女……ではなく、老人が見舞いにやって来た。


「オリオン、元気そうだな」

「学園長……、何でここに?」

「自分に甘く他人に厳しいアレックスがお前の成長について驚いていたんでな。興味が湧いた」


 ドラグフィード学園の学園長スミスが椅子に座る。八〇代の老体で、未だに学園長の座に居座っている人。ただ、オリオンは名前程度しか彼を知らない。

 スミスはオリオンと会話し、何がこの者の中で変わったのか探るつもりだった。だが、話して行く中で、少しずつ主旨がズレていく。

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