理解不能
一週間、ライアンと訓練していたオリオンは相手の動きを完全に覚えた。
動きの癖や技を繰り出す拍子など、何度も戦っているうちに体と頭で理解できた。そのため、ライアンが本気を出しても攻撃は一切届かなくなる。
ライアンは剣をまじめにやりだして一週間足らずの相手に勝てなくなった。その焦りと不安が彼にのしかかり、ずっと使わなかったスキルが突拍子もなく出た。
その瞬間、オリオンが持っていた木剣が粉々に粉砕した。彼の体も勢いよく吹っ飛んでいた。
「リオンっ!」
ライアンは木剣を放り投げ、全身砂まみれになっているオリオンのもとに駆ける。
「な、なんだ今のは。俺様の体が吹っ飛んだぞっ」
オリオンは体術の指南書で読んだ受け身を取り、大きな傷はない。近寄ってくる友の顔を見る。
「ご、ごめん、僕のスキルが出てしまった……」
「武器を破壊して相手を吹っ飛ばすスキルか? 凄い威力だったな」
「えっと、そんな限定的じゃなくて、スキルを使うと僕の攻撃は確実に急所に当たるんだ」
「急所に当たる? だが、俺様は特に何ともないぞ」
「木剣の方にスキルの判定が向いたからだよ。リオンにスキルの判定が向いていたら」
「お、俺様、バラバラになってたのか……」
「わからない。でも、魔物はそうなる……」
「ひへぇえええっ~」
オリオンは木剣のおかげで命拾いしたと知るや否や、身を震わせた。腕に鳥肌が立つ。
十月中旬になり、寒さが増してくるころでも半そで半ズボンでいられる体が否応にも縮こまった。
「本当にごめん。僕、むきになって……」
「気にするな。今、俺様はこうして生きているんだからな。にしても、同じスキルでもここまで性能が違うとは、不思議なものだな」
オリオンはスキルを話してくれたライアンに自分のスキルも打ち明けた。
詳細ははっきりとわかっていないが、ある程度の効果は知っている。自分の剣術が一週間で飛躍的に成長した理由を伝えた。
「眠って体が覚える。だから、すぐに成長したんだ……」
「何年も剣を続けているライアからしたら憎たらしいスキルかもしれないな。すまん」
「いや、スキルは女神の寵愛だ。同じくスキルを貰っている僕が疎むのは恥ずべきことだ。リオンのスキルはちゃんと学ばないと進化を発揮しないし、リオンの努力が全部スキルのおかげじゃないと知っている。ありがとう、話してくれて。凄くすっきりした」
ライアンはオリオンの努力を認めた。スキルを正しく使用し、着実に強くなっている友を尊敬する。
スキルの効果に怯え、真面に使えていない自分と正反対。
成人してから成長が停滞していたが、オリオンを見習い、自分も次の一歩を踏み出す時だと決心がついた。だから、感謝した。
「僕、スキルをまだ上手く使えないんだ。どうしても威力過多になってしまう。人に向けるわけにもいかなくて。武器も壊れるから、スキルを扱う訓練ができなかった……」
「なるほど。ならば俺様が練習相手になろう」
ライアンの口から「へ?」と一言飛び出した。もし、体にスキルが当たったらどうするのか。危険すぎる提案に頭を左右に何度も振った。
「木剣など、いくらでも壊せばいいじゃないか。練習のためなら学園長も心置きなく木剣を差し出してくれるはずだ。それに危険という感情があれば俺様にとっても良い練習になる。単純な訓練は実践に全く向かないはずだ。ライアのスキルだって木偶人形に放てた所で何ら意味がない。実践で使えるようになってこそ、本当の成長だろう?」
オリオンは体に着いた砂埃を叩きながら、立ち上がる。せっかく友になったなら、助け合わないのはもったいない。
一人で強くなるなど、はなから考えておらず、使える知識技術物資、何もかも全てを利用する算段だった。
「リオン……、うぅぅ……、ありがとう」
ライアンはムチムチ体型のオリオンにぎゅっと抱き着く。溜まっていた涙を流す。
オリオンとライアンは互いに強くなるために早朝と放課後に剣を交わした。
ライアンのスキル『確定急所』によって怪我を負う可能性は、二人にほど良い緊張感を与え、技術の成長を促す。その成長速度は、他の生徒の比ではなかった。
☆☆☆☆
一〇月の中旬、オリオンがルークス流剣術の訓練を始めて二週間が経った頃。
アレックスは体育の時間で自分を疑う光景を目にする。
ライアンは「フラーウス連斬」と掛け声を言い放つ。地面を抉るほどの速度で駆けだし、太った男に木剣を向け、勢いよく振りかざす。
瞬きの間に四回切り込んでいた。
「シアン流斬」
オリオンは木剣を振るい、ライアンの木剣をすべて受け流した。
「なにが起こっているんだ……」
アレックスは何も理解できなかった。
昨晩の酒が残っているとはいえ、その程度で理解が追い付かなくなるほど教師の人生は短くない。
オリオンとライアンは明らかに実践レベルの戦いをこなしていた。
一年生の体育(剣術基礎)の授業で実勢レベルの戦いが繰り広げられる状況があり得ない。
一ヶ月前まで、走ってぶっ倒れていた豚が、自分よりもはるかに上手くシアン流斬を扱っているのも理解不能。
どう声を掛けたらいいか迷っている間に、オリオンが持っていた木剣が勢いよく弾かれた。
普通の試合ならば、ライアンの勝ちとなり、戦いは終わる。
しかし、彼は未だに剣を握り、オリオンに切り掛かろうとした。




