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眠れば眠るほど強くなる、肥満少年の英雄譚  作者: コヨコヨ


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16/62

しっくりくる

「『ウィンディア(風よ上へ)』」


 ヴィミは「ひゃっ」という声を上げる。

 長いスカートは下着がギリギリ見えない辺りまで捲れ上がった。

 窓は開いていたがあまりにも不自然な風の吹きように、彼女は困惑の表情を浮かべる。


「や、やった。できた。見たか、ヴィミ、俺様、完璧に魔法が使えたぞ」


 オリオンは扉を勢いよく開け放つ。お使いに成功した子供のようにはしゃいだ。

 ヴィミの額に青筋が浮かぶのを見て、彼女の逆鱗に触れたと察する。

 豚骨スープのようにこってりと叱られた。

 日常で使ってはいけませんと、きつく釘を刺される。

 せっかく、面白くなってきたというのに。


「オリオン様が魔法を扱えたら、もう、手の付けようがありませんよ。でも、オリオン様は凄いですね。ちょっとしたことですぐにコツを掴んでしまうなんて」

「まあ、俺様は俺様だからな。もっと褒めてくれてもいいぞっ」


 オリオンは正座しながら胸を張る。


「にしても、ヴィミ。だいぶ機嫌が良さそうだったではないか。どうかしたのか?」

「オリオン様のせいで、いい気分が台無しでしたけどね。まあ、確かに機嫌は良かったですよ。私宛に手紙が届いたんです。もう、八年も会っていない兄からの手紙で、感無量でした」


 ヴィミは普段、滅多に見せない笑顔を浮かべた。菓子が入っていたブリキの容器に視線を向ける。


 ――ヴィミの兄ということは、バーラト王国に住んでいる者のはず。ヴィミは奴隷として父が買ってきた。手紙が届くということは実家にヴィミが仕えていると兄が知っていたことになる。どこで知った?


 オリオンの思考は睡眠の質が向上したことにより、以前よりも冴えていた。

 奴隷の行き先など、皇帝陛下や国の組織ですら追うのは難しい。個人情報は厳重に保管されているはずなのだが。

 この違和感に父が気づかずにホイホイと実家から送りつけてくるだろうか?

 実家を経由せず、ヴィミの居場所(ドラグフィード学園寮)に手紙を出すなど、どういう仕組みなんだ。


「ヴィミの兄は字が書けたのか?」

「もう、バーラト王国の民をバカにしないでください。確かに、昔は識字率が悪かったですけど、今はルークス帝国の教育機関のおかげで識字率は高いそうですよ。癪ですけど……」

「そうか。返事は書くのか?」

「もちろんです。もう、何枚も書くつもりですよっ」


 すでに便箋を用意していたヴィミは持てあました時間を使い、実の兄と文通するらしい。

 オリオンはヴィミをずっとこの寮にいさせるのも忍びないと思っていた。

 気がまぎれるなら問題ないかと考える。

 少し引っかかった疑問は自分の思い過ごしだろう。


 オリオンは午後九時にふかふかのベッドの上に寝転がる。

 寝間着のヴィミの裾を魔法で浮き上がらせようとする。だが、夜中に叱られても面倒だと思い直し、素直に眠りにつく。


 頭や首、両肩、胸、鳩尾、腕、手の平、腹、腰、脚、足先に至るまで、血液が巡る感覚と近しい魔力の循環を得る。

 自分が自然の一部のようになる。鼻から吸った空気が肺に入り、吐き出される過程の中で、この世と一体になる。

 赤子のような自然そのものの眠り。息を深く吸い、長く吐き出すたび、自然や肉体の魔力と順応した。


「ん、んぅん……、へ? な、なんだこれは……」


 オリオンが目を覚ますと体がキラキラと光って見えた。寝汗が聖水のように清らかな存在に思える。

 体の汗を布で拭く。いつも通り裏庭を走った。木剣を握り、教えてもらったルークス流剣術の基本型を繰りだす。


 マゼンタ撃斬を放つと「こ、これだ」と声が出るほど手ごたえを感じた。

 シアン流斬も試す。「これだっ、へ?」と変な声が出た。マゼンタ撃斬と同じくらい手ごたえがあった。

 フラーウス連斬も繰り出すと「どれだぁああっ」と叫ぶ。三種類ともこれだっと体に来てしまった。


 アレックスから「これだ」と感じた剣技を練習するようにと教えられた。

 どうすればいいか、迷った。同じく早朝から訓練していたライアンのもとに駆けた。


「ライア、俺様、天才過ぎてどの基礎型を訓練したらいいかわからないんだがっ」

「え……、どういうこと?」


 ライアンはオリオンからわけのわからない質問を受け、適当に流さず理由を聞いた。


「なるほど、全ての基礎型でしっくり来てしまったのか。じゃあシアン流斬から練習したらどうかな。他の二種類より、攻撃力は落ちるけど受け身の型だから自分の身を守る護身術になるよ。魔物と戦う必要がないリオンなら丁度いいんじゃないかな?」


 オリオンが魔物と戦う可能性は低い。戦争に行く軍人でもない。ならば、護身術を身に着けるのが一番だとライアンは伝えた。


「ううむ、それで強くなれるのか? 俺様、魔物を倒せるくらい強くなりたいのだが」


 オリオンは強くなればモテモテになれるという母の教えを信じた。アルティミスが自分にメロメロになってほしい。受け身の型と聞いて、少し考える。


「強い者は敵を倒せるだけではなく、自分の身も守れないと駄目なんだよ。自分も守れないやつが、他人を守れると思うな、って父さんがよく言っていた」

「自分も守れないやつが他人を守れると思うなか。確かに、その通りだ。ありがとう、リオン。俺様、シアン流斬を極める」


 オリオンは他の二つの基本型は後に回す。シアン流斬の訓練を繰り返した。その際、ライアンも手を貸した。

 実戦経験を積んでいる彼の剣は、オリオンにいい刺激を与えた。マゼンタ撃斬とフラーウス連斬を何度も見せられ、木剣が吹っ飛ばされる。


 たった一日の訓練で綺麗なクリームパンだった手に血豆ができる。

 その後も、オリオンがライアンの攻撃をシアン流斬で何度も受け流して行く。

 次第にライアンは手加減していると一本が取れなくなった。


「す、すごい、リオン、一週間しか経っていないのになんでそんなにシアン流斬が上手く扱えるようになっているの」

「体や剣、力の流れを意識できるようになってきたからというのだろうか。ライアンの攻撃に反応できるようになった」

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