スカートを捲りイメージ
「ライアン、その調子だと派生形も扱えるだろう」
「父から剣術に頼り過ぎず、成人するまでは基本型しか使わないようにと教わりました。もう、成人したので他の剣術も練習中です」
「なるほど、実に腕の立つ父だな。子供の成長を熟知している」
アレックスはライアンの素質ならば学園に通っている間に八種類程度の剣術を実践レベルに扱えるようになると察しがついた。「育てがいがあるな」と思い、顔がにやける。
「はぁあ、マゼンタ撃斬っ。シアン流斬っ。フラーウス連斬っ。マゼンタ撃斬っ。シアン流斬っ。フラーウス連斬っ。とりゃあああっ」
オリオンは剣を振るうたび、体がぽにぽにぷりぷりと震える。掛け声はよく出ているが、アレックスからすれば子供のお遊びに見えた。
どんな人間でも基本型を一種類は扱えるが、絶望的に才能を見いだせない。
勉学の成績は良いため、落第させるほどではない。
これから豚の面倒を見るのは面倒だなと思いながら、溜息をつく。
「リオン、もっと腰を入れて振らないと駄目でしょ」
見かねたアルティミスはオリオンの尻に木剣を叩きつけた。無理やり体の傾きを修正する。
足の向きや剣の持ち方など、幼少のころから嗜みとして覚えた剣術を最近頑張っているっぽい将来の夫に指導した。
本当は優しい口調で手取り足取り教えたいところだが、周りの目を気にして丁寧とは言えない口調になる。
オリオンはアルティミスの手厳しい指導で動きが劇的に良くなった。ただ、基本型を覚え、剣を振るだけなら子供でも出来る。実践で使えるかは別問題だ。
「ありがとう、アルティミス。何となく、コツがわかった気がする」
「ま、これくらい出来てもらわないと困るもの。後は自分で頑張りなさい。これ以上リオンに構っていると時間がもったいないわ」
アルティミスは周りの目線を感じ、オリオンから離れる。
苦渋の決断だった。汗が滴るオリオンをもっと見ていたかったが、切りの良い所で指導をやめた。
「よし、動きを少しでも体に覚え込ませるぞ……」
オリオンは体育の時間一杯、剣を振るった。体に基本型をしみ込ませる。
肉体に披露が溜まるが、眠れば治るとわかっていた。そのため、ある程度無茶が出来た。
授業が終わった後、重い足取りで教室に戻り、机の上にへたり込みながら眠る。
肉体を大きく扱い、炎の如く勢いよく燃え上がるような攻撃的な剣技のマゼンタ撃斬。
攻撃の流れを意識した、激流のように止まることなく進み続ける受け身の剣技、シアン流斬。
攻撃速度に重きを置き、雷の速度で何度も攻撃を繰り返す剣技、フラーウス連斬。
眠っているオリオンの体に、先ほど練習したルークス流剣術がしみ込んでいく。睡眠により記憶は定着する。
運動も体の記憶といい換えられ、睡眠によって定着する。
オリオンは休み時間が終わると同時に目を覚ました。体育の疲労感はすでに抜けた。シャワーを浴びた時やコーヒーを飲んだ時のような爽やかな気分だ。
「それでは、魔法学の授業を始めます。体育のあとだからと言って、眠らないように」
授業をこなす教授の声が教室に響く。運動後の授業故、半分以上の者が夢うつつの状態で授業を聞いた。
――魔法学も強くなるために大切な知識だ。誰よりも上手く扱えるようになれば、アルティミスも褒めてくれるかもしれない。
オリオンは睡魔が一切ない状態で、教授の話を一言一句聞き漏らさないように耳を傾けた。
「剣だけが戦いの技術ではない。肉体や自然に存在している魔力を利用し、魔法という超常現象を起こし戦う魔導士という職業もある。剣術よりはるかに才能に左右されるため、優秀な者となれば皇帝のそばに仕える近衛騎士以上の立場に上り詰めるのも難しくないぞ。次男、三男の者は、実家をしのぐほどの位につける可能性もある」
オリオンはもちろん魔法の才能もなかった。初級魔法もまともに扱えない。
ただ、ドラグフィード学園に通う者の多くは魔法が当たり前のように扱える者ばかり。
得意な者と不得意な者の差は顕著に表れ始める。
知識としてならば、頭の中に入っていても魔法が扱えるかどうかは素質の問題。
弓の原理を知っていても扱えるかどうかは人間次第というのと同じだ。ある程度練習すれば扱えるが、スキルを持つ者と持たざる者の差は大きい。
そんな話を魔法学の教授は口酸っぱく言う。
「教授っ、女の子のスカートを捲る魔法はありますかっ」
「……ミスターオリオン、今は授業中ですよ。口を慎みなさい」
オリオンは授業中、何度も醜態をさらして教師から苦笑いを向けられる機会が増えた。真面目に質問しても、拒否されるため魔法が使える知り合いに助けを求めた。
放課後、彼は大量の本が所せましと保存されている図書館の中にいた。
勤勉な者たちが読書や勉強に励んでいる。
その中で『女の体』という図鑑の『胸』の項目を開きながら近くにいる巨乳の膨らみを見比べる変態がいた。オリオンだ。
「はぁ、魔法で風が起こせたら、女子のスカートをめくり放題なのに……」
「オリオン様が魔法を使おうとする理由は実に不憫ですね」
アメリアはオリオンに頼まれて魔法の勉強に付き合っていた。商会の娘ながら、魔法の扱いが得意だった。実践で扱えるほど器用ではないが、才能はある。
「服に水をかけて、下着を透かせられるとか魔導士、最高じゃないか……」
「私、帰りますよ?」
「ああ、すまん。ちょっと妄想に深けてしまった。続けてくれ」
アメリアはこの男に魔法を教えていいのかと、とまどった。だが、彼が努力している姿は今まで見た覚えがなかったため、興味本位で付き合っている。
「魔法は才能の部分が大きいといいますけど、それはコツを掴むのが早いか遅いかというだけです。コツさえ掴んでしまえばオリオン様も、きっと使えるようになります」
「そのコツとやらはどうやって掴むんだ? おっぱいを掴むのと訳が違うぞ」
オリオンは手をにぎにぎしながら、アメリアの胸を凝視する。
「コツは一人一人違います。オリオン様は何度も魔法を使って感覚を掴んでください。何事も練習が大切です。近道はありませんよ。風属性魔法が一番安全だと思いますから、まぁ、女子のスカートを捲るイメージを持って試行錯誤してみてください」
「なに……、女子のスカートを捲ってもいいのか?」
「あくまでもイメージですよ。本当にやったら、学園長先生に怒られますからね」
アメリアの教えは、オリオンの魔法に対する意識に劇的な変化をもたらした。
彼は寮に帰って風属性魔法の練習にさっそく取り掛かる。
「ふんふふん~、ふふんふふん~」
気分良さそうに部屋の掃除をこなしているヴィミを扉の隙間から覗き込む。三〇センチメートルほどの杖を持ち、彼女のスカートを捲るイメージを持ちながら口ずさむ。




