決意
「おお~、メリア、アルティミス、実に綺麗なドレス姿ではないか」
藍色のフロックコートを身に着けたオリオンは、後ろ姿だけを見ただけで二名を言い当てた。
誰からも気付かれなかったアメリアは声が出なかった。頬に熱がこもる。
「わたくしのドレス姿など、見飽きているでしょう。なにを今更」
素直に喜べないアルティミスは、長くて鬱陶しい金髪を手で払い、そっぽを向く。
「見飽きる? 何を言う。どんどん美しくなっていくアルティミスを見飽きるわけがないだろう。今日も実に美しい。まるで、月の下で舞う星の精霊のようではないかっ。いや、それ以上に……ううむぅ」
オリオンは両手を振り上げ、アルティミスの美しさをどうにかして伝えようと最大限の語録を紡ぐ。
だが、どうしても彼女の美しさを言葉で言い表せず、口をもごもごと動かす。
「どうせ、どの女にも似たようなこと言っているんでしょ」
「もちろん、どの女も実に美しいからな。だが、いつもいつもアルティミスの美しさだけは、言い表せない。それが心苦しいよ」
オリオンは視線を下に向け、丸いお腹を撫でる。大好きな人を前に食欲が減った。
彼に背を向けているアルティミスは耳がシャンデリアの明りに照らされ、トマトのように赤くなった。
振り返るタイミングを逃し、高鳴る心臓をどうにかこうにか抑えようと、胸に手を当てる。
彼女の横顔が見えるアメリアは、むふふっと微笑んだ。その後、オリオンに少し近づく。
「どうして、私だとわかったんですか? 誰も気付かなかったのに」
「メリアの髪の質と、姿勢の良さ、実に良い腰つきを見れば、見間違えるわけがないだろう」
「もう、オリオン様に褒められても、ほんと全然嬉しくありません」
アメリアはオリオンの肩を小突く。突拍子もなく腕に抱き着いた。当たり前のように大きな胸が彼の腕に当たり、形を変える。
「でも、ありがとうございました。やっぱり、気づいてもらえないのは寂しいので」
「にょほほっ~、この胸を普段から曝していればメリアに気づかないなどありえないんだがなっ~」
オリオンは放漫な胸の感触を得て、鼻の下を完全に伸ばした。
アメリアはアルティミスが背中を向けている状況を利用し、バークレイズ商会の顧客である彼が好む挨拶をこなした。実に計算高い女である。ただ、ほんの一瞬、国随一の美女と並んでいてもおかしくない女として見てもらえる快感に酔いしれる。
アルティミスが振り返ると同時、彼女はオリオンからさっと離れる。自分も大得意な作り笑顔の仮面を被り、特に何もしていませんよというアピールを忘れない。
「アルティミス様、休日でしたが、今日はいかがお過ごしになられましたか?」
クリーム色のフロックコートを着込んだライアンが、同じクラスのアルティミスに話しかけた。
ダンスに誘うつもりはなく、パーティーの時間を少しでも潰したかっただけだ。
「特にこれと言ってやっていたことはありませんわ。まあ、しいて言うなら、花壇のお手入れくらいかしら」
「へぇー、アルティミス様はお花がお好きなんですね。僕の故郷に、視界一面が自然の花で埋め尽くされている花畑がありまして、とても綺麗だったのを思い出しました」
「あら、ライアン様もお花に興味がおありで?」
ライアンとアルティミスはパーティーに対して思い入れがないため、雑談に花が咲く。
その姿をオリオンはジト目で睨んだ。
女子生徒のドレス姿を眺め、大量の料理に食らいつくしかできないのが、歯がゆい。
女子の方から寄ってきて、話しかけてくれないかなと思いながらも、そんな者は皆無。逆に避けられる始末。
「もしかして、俺様がカッコよすぎて、話し掛けづらいのかも。まったく、モテる男はつらいぜっ」
食べていた肉を飲み込んだあと、世の中の心理に気づき、一人ごちる。
食べることに集中しようと気持ちを切り替え、ビュッフェ方式の料理をとりあえず一皿ずつ平らげた。
料理人が度肝を抜かれるほど料理がなくなっていくため、慌てふためく。
そんな中、アルティミスはオリオンにダンスに誘われず、イラ立ちを隠せない。
皇帝の娘として誰とも踊らないわけにもいかず、近くにいたライアンと一曲だけ躍った。
こっちは踊る気満々なんだから、早く誘いなさいよという、彼女なりのサインだったが、そう都合よくとらわれるはずもなく。
「アルティミスが、ライアと踊っている。や、やっぱり、ライアの方がいいんだ……」
オリオンは自分よりも先にライアンがアルティミスと踊っている姿を見て、完全に敗北したと現実を突きつけられた気分に陥る。
彼女と視線が何度も合うが、その度に視線をそらされる。頭が真っ白になり、食が止まる。
ルークス帝国は広い、自分がどれだけカッコよくてもそれ以上にカッコいい奴は沢山いる。
そうなると、カッコいいだけではだめだ。ライアンが持っていて自分が持っていないものは何だと考えた時、戦える強さ、男らしさだと結論付けた。
それさえ手に入れられれば、アルティミスは自分に振りむいてくれるはずだと。
魔物を倒せるくらいにならなければと、柔らかかった信念が固まる。
「強くならなければああああああああああああっ」




