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第三話 初デートのお土産は婚約の会 前編

 机に向かって、今日の授業の復習をしていると。

 窓をたたく、コンコンって音が聞こえたの。

 お部屋の窓を開けると、手を伸ばせば届きそうな距離に良太さんの顔が。

「どうしたの?」

「明日は土曜日だろ、遊園地に行こうよ」

 ちょっとしたことなら、こうやってコンコンすれば顔を見て伝えられるの。

 これこそ、お部屋が隣同士だってことの一番の特権ね。

「遊園地に?」

「せっかく婚約者になったんだからデートだよ、初デート」

 婚約という事実を、受け入れてくれているのはうれしいですが。

 これまでも、二人で遊びに行ったことは何度もありましたよね。

 あれって、デートではなかったんですか?

 百歩譲って、今回が初デートだとしたら。

 わたしにとって、生まれて初めてのデートのお誘いですよ。

 女の子にとっては、一生の思い出だというのに。

 手軽にさらっと、コンコンで済まそうとしていませんか。

 このコンコンは、ちょっとしたこと専用じゃないんですか?

 しかも、わたしはついさっきまであなたのお部屋にいたんですよ。

 どうせデートに誘われるなら、一緒にいるときに言ってもらいたかったわ。

 初デートに誘われたこと自体は、とってもうれしいんだけれど。

 コンコンにより、感動の何割かが確実に失われた気がします。


「もちろん行きたいけれど、詩織ちゃんと菜摘ちゃんはどうするの?」

「土曜日だもん、母さんや父さんが家にいるよ」

「でも、お母さまたちだってお仕事でお疲れでしょうから」

「さっき母さんに聞いたら行っておいでってさ、だから行こうよ」




 何にしても初デートですもの、窓を閉めてからは気持ちを切り替えて。

 明日のお支度、張り切ってまいりましょう!

 おめかしをしておいで、なんて良太さんは言っていたけれど。

 髪のヘアピンに胸元のブローチは、良太さんからのプレゼントだから当然。

 足元は、白いサンダルがいいかしら。

 問題はお洋服よね。

 お母さまにいただいた、後ろに大きなリボンか着いた花柄のワンピース?

 それとも、春らしく一番お気に入りのピンクのブラウスに白いスカート?

 どっちかなあ、良太さんに気に入ってもらえるのは。

 もう、自分じゃ決められないっ!

 良太さんの好みをご存じでしょうから、お母さまに相談したいけれど。

 もう十二時近いから、お父さまもいらっしゃるお部屋には行けないし。

 ああ、時間だけが過ぎていく……。




 待ち合わせしている玄関に行くと、五分前なのに良太さんが待っている。

「ごめんなさい、待たせちゃった?」

「来たばかりだよ、先に行って待っていろって母さんに言われてさ」

「良かった」

「それより、朝食のときから疲れているように見えたけれど」

 いつもは気づいてほしいことにも気づかないくせに、こんなときに限って。

 二時過ぎまでお洋服選びをしていたからです、なんて言えないわよ。

「元気いっぱいよ、ほら」

 わたしったら、言うにことかいて元気いっぱいだなんて。

 しかも、意味不明な元気いっぱいのポーズまでしちゃって。

「ふうん、じゃあ行こうか」

 えっ、それだけ?

 かわいいよとか似合っているよとか、お洋服の感想はないの?

 もしかして、気づいていないのでは?

 朝ご飯の後で、さんざん悩んで選び抜いた服に着替えていることに。




 地下鉄を降りて、地上に出ると。

 都会の真ん中で回りはビルばかりなのに、目の前が遊園地。

「ここって、お母さまの会社へお使いに行ったときに見た遊園地よね」

「そうだよ、ここなら家から地下鉄で一本だからね」

 あのときは、地下鉄を乗り過ごしちゃって大変だったな。

 今日は乗り過ごさないように、良太さんは何駅も前から緊張していたもの。


 遊園地のマップを見て、どのアトラクションにしようかと話していたら。

「びっくりしないで、母さんたちがいるんだ」

 えっ、やっと気づいたの?

 お母さまは、電車の中でもずっとわたしたちを見ていたじゃない。

「ほら、向こうの柱の影からのぞいているだろ」

 得意げにそう言うと、ズカズカとお母さまのところに歩いていっちゃった。

「何をやっているのさ、こんなところで!」

「あ~あ、意外と早くばれちゃったわね」

 もしかしたらお母さま、ばれていないとでも思っていたのですか?

 子は親の鏡とは、よく言ったものだわ。

「あなたたちの初デートでしょ、心配で心配で」

「子供のデートに、親がついてくるなんて」

「だから、こっそりと」

「何がこっそりだよ、いきなりばれているじゃないか」

 むしろ、よくぞここまでばれなかったと言うべきでは?

「だから言ったろ、すぐにばれるんだから放っておいてあげようって」

 お父さまからは、至極まともな発言が。

「父さんまで連れてきちゃって、詩織と菜摘はどうしたのさ?」

「三人娘に預けたわよ、休日なのに暇そうにしていたから」

 それはそれでよく黙って居残りを承諾したわね、お姉ちゃんたち。

「とにかく別々に行動してよ、親と一緒に遊園地に来る年じゃないんだから」

 年齢の問題ではなくてデートだからですよ、良太さん。

「悪かったな良太、くまさんは俺が連れていくから」

「父さんだけでもまともで良かった」

「昼飯はその先にあるホットドッグ屋がうまいから、行ってみるといいよ」

「うん」

「五時にそこの噴水で待ち合わせをして、夕飯を一緒に食べよう」

 そう言ったお父さまは、渋るお母さまの手を引いてその場を離れていく。




 広場に向かって、歩き出した良太さん。

 わたしは、良太さんのシャツの肘をちょこんとつまんでついていく。

 本当は腕を組んで歩いてみたいけれど、今のわたしにはこれが精一杯かな。

 広場のベンチで、アトラクション選びを再開すると。

 ようやく、大好きな良太さんと初デートしていますって感じ。

 思い出の一日を満喫したいわたしは、空に向かって必死のお願いを。

 どうか、体を使わない乗り物系のアトラクションでお茶を濁してください。

 だって……。

 自分で言うのも何だけれど、家事なら満点だと思うし勉強だってまあまあ。

 唯一かつ致命的な欠点が、運動能力が著しく欠落していることなの。

 去年の夏のプールでは、たいした深さもないのに。

 浮き輪から手を離して溺れかけて、良太さんに助けてもらったし。

 秋に行ったフィールドアスレチックでも、綱を伝って池を渡る遊具で。

 良太さんの手をつかめずに落下して、ずぶぬれになるし。


 わたしのお願いは、聞き入れてもらえなかったようで。

 体を動かすのが大好きな、良太さんが最初に選んだのは。

 ランプの点滅に合わせて、ハンマーでたたくアトラクション。

 満点が五十点で良太さんは四十三点、なのにわたしは八点だもの。

 しかも、見かねた良太さんが最後に手助けしてくれてだし。

 お次はお化け屋敷ですって?

 初デートでの、中一女子の正しいお化け屋敷での在り方か……。

 声をあげて怖がって、思わず抱きついたら満点とか?

 普通の中二男子だったら、そんなことを考えるんでしょうけれど。

 良太さんは、そんなことを期待しない感じだし。

 さんざん悩んで入ったお化け屋敷は、思った以上に怖くって。

 キャーキャー叫んでギュッとしがみついて、出口ではしっかり涙目だもの。

 まだ二つ目のアトラクションなのに、すでにへとへとになっているけれど。

 この先、大丈夫かな?




 お父さまが教えてくれた、ホットドッグのお店でお昼を食べてから。

 午後もたっぷりと遊んで。

 夕方にお母さまたちと落ち合うと、ドームの隣のレストランへ。

「自分だけ座るんじゃないの、まずはあゆみちゃんを座らせてあげなさい」

 さっさと座ろうとしている良太さんに、そう言ったお母さまは。

 メニューも見ずに、チキンバスケットとソーセージを注文している。

 お母さまの会社が近いから、お仕事の帰りに二人で寄っているのかしら。

 良太さんは、まったく迷わずエビフライとカキフライをチョイス。

 さんざん迷ったわたしは、ハンバーグを。

 お父さまが、サラダとオニオングラタンスープも頼んでくれた。

 こうやって四人でテーブルを囲むと、家族になったみたいでうれしいな。


「で、婚約者として初めてのデートはどうだったの?」

「楽しかっ……」

 お母さまに聞かれて、良太さんが答えようとすると。

「あなたに聞いているんじゃないわ、あゆみちゃんはどうだった?」

「楽しかったです、とっても」

「本当に、良太ったら女の子に対して気が利かないでしょ」

 女の子に対して、だけではないと思いますが。

「いいえ、ずっと優しかったですよ」

「ふん、どうせ父さんと比べているんだろ」

「当然でしょ」

「だったら、母さんもあゆみぐらい優しくなってよね」

「二人ともよしなよ、あゆみちゃんが困っているじゃないか」

 絶妙なタイミングで、お父さまからの助け船。


 自分のお料理を、ペロリと食べ終わった良太さん。

 手助けと称して、お母さまたちのチキンやソーセージにも手を出している。

 わたしのハンバーグだって、半分あげたのに。

 こうやって、いっぱい食べているせいかな?

 良太さんったら、この一年で身長もぐんぐん高くなって。

 小柄なわたしは、見上げないと顔を見られないくらい。

 それに、とってもかっこよくなっていると思うんだけれど。


 お店を出た後は、良太さんにお願いして観覧車に乗せてもらったの。

 観覧車で都会の夜景を見られるのは、この遊園地ならではの特権ですもの。

 狭いゴンドラには、良太さんと二人っきり。

 ずっと続くんじゃないかと思うぐらい、ゆっくりと時間が過ぎるのね。

 ドキドキしっぱなしのままで観覧車から降りると、お母さまは心配そうに。

「顔が赤いし息遣いが荒いけれど、大丈夫?」

「すみません、狭いゴンドラの中に良太さんと二人でいたら……」

「かわいいわね、魔法の時間を過ごしましたって顔に出ているわよ」

 本当かしら、だったら正面に座っていた良太さんには丸見えだったわよね。

 わたしが、ずっとドキドキしていたのが。

 婚約者として初めてのデート、授業参観みたいだったけれど楽しかったな。




 おうちに帰り、詩織ちゃんと菜摘ちゃんをお姉ちゃんたちから引き継いで。

 あやしながら寝かせてからは、良太さんのお部屋でまた二人きり。

「疲れたんじゃない?」

「ううん、観覧車から見た夜景が奇麗だったしとても楽しかったわ」

「良かった、そう言ってもらえて」

「緊張しちゃって、おしゃべりもあまりできなくてごめんなさい」

「それでいいんだよ、あゆみらしくてさ」

「今度は近くの公園でピクニックにしましょ、わたしがお弁当を作るから」

 よそ行きの場所で特別なことをするんじゃなく、普通の場所に二人でいる。

 それが、今のわたしたちには楽しいのよね。


「お取り込み中のようだけれど、失礼するわよ」

 そう言って部屋に入ってきたお母さま、わたしの前に座ると。

「来週の土曜日にご両親がいらっしゃるから、そのつもりでいてね」

「両親が、どうして?」

「あなたたちの、正式な婚約のためによ」

「正式な婚約って、何だよ?」

 昼間にも気になったけれど、お母さまへの口調が荒っぽいわ。

 良太さんって、反抗期なのかしら。

「うるさいわね、人があゆみちゃんと話している途中に」

「あゆみだけの問題じゃないだろ、僕も当事者なんだから説明してよ」

 邪魔しないでちょうだいって顔をしながら、お母さまが話してくれたのは。


 わたしたちと別れてからは、遊園地に隣接しているスパに行く予定で。

 その前に、ドームホテルのレストランで和食を食べたんですって。

「でね、すてきなお店だったからここでしちゃおうかって」

「何をさ」

「婚約式、っていうほどじゃないから婚約の会ね」

 諦めたって顔をしている良太さん。

「あゆみちゃんのお母さまに都合を聞いてから、お部屋を予約したわ」

「そんな騒ぎにしなくても、みんなを巻き込んでいるじゃないか」

「こういうことは、女の子のためにちゃんとやるものなの」

 どうだとばかりに胸を張るお母さま。

「当日は、あなたがしっかりしてみせなきゃだめよ」

「どうして僕が」

「あゆみちゃんのご両親に、安心してもらうための場なんだから」


 良太さんにとっては、とんだお土産付きの初デートでしたね。




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