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第二十一話 あゆみちゃん目線で回想、してみました ~良太との出会い編~

 今回このお話は、いつもとは少し趣向が異なります。

 既に投稿してある「くまさんの春から 1st season」の第十五・十六話。

「春風のようなあの子」を、あゆみちゃん目線で再構成したお話です。

 あのとき、あゆみちゃんがどう考えていたのかに加えて。

 本編の事前や事後。

 大阪での、あゆみちゃんとお母さんのやり取りなども明らかにしています。


 この形式の評判が良かったら、同系統のお話。

 良太が大阪に出張した話や、くまさんの結婚式で良太と再会した話なども。

 あゆみちゃん目線で再構成してみようか、などと考えておりますので。

 どうぞ、お楽しみください。


 夏休み最後の日曜日、楽しかったデートから帰ってきて。

 身につけていた青いイルカのアクセサリーを外していると、良太さんが。

「このイルカたちも、ずいぶん種類が増えたね」

 まるで、イルカが子供を産んで増えたかのように言っているわね。

「記念になるようなときには、良太さんがプレゼントしてくれるから」

「ヘアピンとブローチにイヤリング、最近ではペンダントか」

 最初にもらったのは、一番お気に入りのヘアピンだったの。

 確か、三年前の夏休みだったっけ……。







 三年前の夏、大阪の実家でのことです。

「二人で北海道へ旅行するって、お母さんとお父さんだけで?」

 これは、わたしも連れていってほしいという抗議ではありません。

 家事全般が得意なわたしとしては。

 必要なお金さえ渡してくれれば、一週間ぐらいなら何とでもなりますので。

 お母さんもそれを承知ですから、涼しい顔をして。

「来週、四泊五日の予定でね」

「いくら夏休み中とはいえ、幼い娘を一人残して旅行するなんて」

「心配しなくても、あなたを預かってもらうよう夏樹に頼んでおいたから」

「お姉ちゃんが、大阪に帰ってくるの?」

「まさか、あの子がそんな殊勝なことをするものですか」

 でしょうね、あのお姉ちゃんですもの。

「羽田空港に、夏樹があなたを迎えに来るから」

「じゃあ、わたし一人で羽田空港まで行けってこと?」

「旅行の出発地を羽田にしたから、あなたはあたしたちと東京に行くの」

 わたしをお姉ちゃんに預けるために、わざわざ羽田を出発地にしたの?




 羽田空港で、お姉ちゃんと合流してから。

 千歳行きの飛行機に乗る、お母さんとお父さんを見送ると。

「ありがとう、わざわざ迎えにきてくれて」

「気にせんでええ、ウチにとってはラッキーチャンスやし」

 ラッキーチャンスって、何のことだろ。

「平日なのに、会社はいいの?」

「有給休暇を取ったんや」

「わたしを迎えにくるために、わざわざ?」

「まあな、ウチにとってはこっからが勝負やし」

 ラッキーチャンスに続いて勝負って何よ、たかが妹を預かるだけで。

「これからどうするの、お姉ちゃんの家へ?」

「いや、別んとこや」

「別のところ?」

 東京観光にでも、連れていってくれるのかしら。

「ウチらは、今夜から上司の家で世話になるんや」

 会ったこともないわたしを連れて上司の家に、しかもお泊まり?

「お姉ちゃんの暮らしぶりを見てこいって、お母さんから言われたのに」

「心配せんでも、自分ほどやのうても奇麗にしとる」

 まさか、その言葉を信用しろと?

「それに、暮らしぶりやったら今から行くとこを見といたほうがええやろ」




「一人で来るなんてどうしたの、後ろにいるその子は?」

 玄関には、お姉ちゃんの上司だと思われる女の人が出てきて。

 まだ若いのに上司なんだ、きっとお仕事ができるのね。

 そう思ったのが、お母さまとの初めての出会い。

「ウチの妹で、あゆみいいます」

 ざっくりした紹介の後に。

 今日から四泊五日の予定で、両親が北海道へ旅行すること。

 わたしを一人で実家に残しておけないから、預かったことなど。

 お姉ちゃんが、事情を説明すると。

「あなただって、明日から仕事じゃない」

 誰だってそう思いますよね、ちゃんとした人みたいで良かった。

「せやから、課長の家で預かってもらおうと」

「こんな小さな妹さんを、一人でうちに預けるつもりなの?」

「そこは心配おまへん、ウチも一緒に泊まるさかいに」

 なるほど、これがラッキーチャンスで勝負ってことか。

 わたしをだしにして、自分もここに泊まるつもりをしているのね。

「あたしだって、昼間は仕事でいないのに」

「良太がいてますやん、一人で留守番させるよか二人の方が安全やろ」

 誰だろう、良太さんって?


 二階のリビングに案内されると。

「しょうがないわね、あゆみちゃんは引き受けてあげるわ」

「よろしゅうお願いします、自分も礼を言わんか」

「ご迷惑を……、おかけします」

「言っておくけれど、鹿山が泊まっていいのは今日だけだからね」

「そないなことを言わんと、課長」

 いったい、何日泊まるつもりをしていたのよ。

 それにしても、部下を自宅に泊めるほど仲がいいのかしら?

 さっきは泊めるのを嫌がっていたようだし、とてもそうは思えないけれど。


「あたしは鹿山の上司で森野美波、この子はあたしの子供で良太」

 この人が、良太さんか。

「良太は、自分よかひとつ上の小学五年生や」

「あなたも、あゆみちゃんにごあいさつなさい」

 お母さまに促されて、良太さんが。

「はじめまして、よろしくね」

「よろしく……、お願いします」

 家族以外とは、あまり話そうとしないわたしは。

 話したとしてもひと言かふた言、ワンセンテンスずつくぎって。

 声も、消え入るように小さいの。

 そんなわたしなのに、良太さんは気にせず話しかけてくれたのよね。

 ひとつ年上で、とても活発そうで元気があり余っているように見える。

 それが、初めて良太さんに会ったときの印象だったな……。




 荷物を運んでくれた良太さんに連れられ、三階の寝室へ。

「鹿山さんはいつも奥のベッドで寝るから、手前のベッドを使うといいよ」

 いつもって、お姉ちゃんはそんなにこの家に泊まっているのかしら?

「下で何かもらってくるから、僕の部屋でちょっと早いおやつにしようか」

 えっ、あなたのお部屋に?


 どうしよう……。

 良太さんが戻ってきたら、男の子のお部屋で二人っきりになるのよね。


 シュークリームと紅茶を乗せたトレーを持って、戻ってきた良太さんは。

 緊張しながら、お部屋の入口で固まっているわたしを見ると。

「どうしたの、立っていないで座ればいいのに」

「男の子の……、お部屋に入るなんて初めてだもの」


 でも、そんな緊張感はすぐに吹き飛んだの。

 座ると目についたのは、お姉ちゃんも写っている何枚もの写真。

「何……、この写真?」

「この間ね、旅行をしたときの写真だよ」

「お姉ちゃん……、どうして変な水着を着ているの?」

 変な水着っていうなら、お姉ちゃんだけじゃなく周りの人もだけれど。

「いろいろあってね、鹿山さんたちは水着を現地調達したんだよ」

 かいつまんで、前後の事情を説明されたけれど。

「お姉ちゃんは、この家でそんなことをしているんですかっ!」

 つい大声を出しちゃった。

 しかも、対家族モードの話し方で。

「まあ、そんな感じかな」

「じゃあ、さっき言っていたお姉ちゃんが寝室のベッドを使うっていうのも」

「隔週で、うちに泊まりに来ているんだよ」

 あきれた……。




 翌日、みなさんがお仕事に行ってからは良太さんと二人きり。


 お昼に作ったのは、オニオングラタンスープとポテトサラダにエビフライ。

「これ、全部自分で作ったの?」

 そう言った良太さんが、喜んでくれていたのがうれしかったな。

 作ったお料理を食べてもらうだけで、幸せな気持ちになるなんて。

 あんな気持ちは、家族への料理では味わったことがなかったから。




 その日の夜には、近くの焼き肉屋さんで。

 お姉ちゃんとお母さまが、とんでもないことを言い出したのよね。


「良太はどないな子が好みやねん」

「大人しくて控えめな子がいいな」

「ほかに、条件は?」

「あと、料理が上手だとうれしいな」

「だったら、あゆみちゃんがピッタリじゃないの」

「ほんまやな、せやったらあゆみで手を打ったらええんちゃう」

 耳まで真っ赤になっているのを、良太さんに見られていると思ったら。

 とてもはずかしかったな。




 お母さまの会社へお届け物をしたときは、良太さんのいつもと違う一面が。


 降りる駅を通過したり、お母さまの会社が見つからなかったりなど。

 トラブルがいくつもあったからか。

 連れていってくれると言っていた、東京案内は取りやめになったし。

 帰りの電車でも無言のままで、良太さんは落ち込んでいるみたいだったの。


 せっかく東京へ来たのに、おうちの中にいるだけで満足していたわたしを。

 連れ出してくれたのが、頼もしく感じていたし。

 初めて男の子と二人きりでのお出かけは、ドキドキして楽しかったから。

 わたしを楽しませてくれようとした結果、良太さんが落ち込んでいるなら。

 楽しかったと、ちゃんと伝えなきゃって思ったのよね。


 駅を出てからハンバーガーを買って、帰り道にある釣り堀公園で。

 木陰のベンチに、並んで座って食べているときに。

「ありがとう……、お出かけに連れていってくれて」

「楽しくなかっただろ、地下鉄とビルしか見ていないんだから」

「とても……、楽しかったわ」

「じゃあ、今度はちゃんとしたところに連れていってあげるよ」

「ほんと?」

「本当さ」

 元気が戻ったみたいで良かった。

 またお出かけに連れていってくれるって、約束してもらえたし。




 他に印象に残っているのは、グラタンを作ったときのことね。


 グラタンをオーブンに入れて、片付けをしていたら。

 良太さんが指で、お鍋に残ったホワイトソースをわたしの鼻の頭に。

「えいっ!」

 わたしも負けじと、ソースを指に付けると良太さんのほっぺにぺたり。

「やったな、じゃあ僕も」

 数分間の攻防の末、ソースだらけとなったキッチンの真ん中で。

 二人してソースまみれになりながら、息を切らして笑っていた。

 それまで、わたしが良太さんをどう思っていたかというと。

 知り合って間もない友達……、とは少し違うか。

 優しいお兄さんにしては、年が近いし。

 ひとつ年上のいとこ、って感じだったかな。

 それが、もっと近しい人って思えるようになったんだもの。




 どこか行きたいところがあるかと、お母さまに聞かれたときに。

 わたしがリクエストしたのは、サンシャインシティの水族館。


 良太さんと二人で、館内を回ったけれど。

 水族館が好きなわたしは、ついつい没頭してしまうから。

 いつも、人を待たせたり退屈させたりするのに。

 良太さんは、わたしが満足するようにゆっくり巡ってくれて。

「魚が好きなの、それとも水槽を見ているのが好き?」

「どっちも……、好きです」

「ふうん、一番好きなのは何?」

「一番は……、イルカかな」

「そんなに魚が好きなのは、どうして?」

「わたしと同じ……、お話しをしないのに楽しそうに泳いでいるから」

 そう言ったわたしに。

「君も楽しそうにするじゃない」

「わたしが……、楽しそうに?」

「料理をしているときは、いつも楽しそうだよ」

「ほんと?」

「それに、しゃべるときは小さくてもかわいい声でしゃべるし」

「わたしが……、かわいい声で?」

 そう言ってくれたの。

 このときよね、良太さんって優しい人だなって思ったのは。




 大阪へ帰るときは、お父さまがわざわざ出張を入れて同行してくれたの。

 東京駅でお別れするときに、良太さんがくれたのが。

 青いイルカが付いた、かわいいヘアピン。

 ヘアピンをもらったこともだけれど。

 イルカを好きだと言ったのを覚えていてくれたことが、うれしかったな。

「また遊びにおいでよ、今度は好きなところに連れていってあげるから」

「ほんと……、じゃあ約束」

 また良太さんに会いたいって思ったら、思わず右手の小指を出していたの。




 大阪に帰って、東京での出来事をお母さんに話したら。

「夏樹ったら本当にしょうがないわね、上司の家に妹を泊めるなんて」

「最初はわたしもそう思ったけれど、いい人たちばかりで楽しかったわ」

「だからって」

「お料理を褒めてくれたし、水族館にも連れていってもらえたし」

「そのヘアピンはどうしたの?」

「良太さんっていう、ひとつ年上の男の子がいて」

「へえ」

「イルカが好きだと言ったら、プレゼントしてくれたの」

 ヘアピンを外し、見つめていると。

「あなた、その子のことをよっぽど気に入っているのね」

「えっ!」

「そんなに大切そうに、ヘアピンを穴が開くほど見つめているんだもの」

 このときはまだ、良太さんに対して好意はあっても。

 恋愛感情まではなかったのに、お母さんのこのひと言で……。







 はっ!

 すっかり思い出に浸っちゃった、急いでお洗濯桃を取り込まなくちゃ。

 そうか、主婦のみなさんは。

 こうやって、夢の世界から現実に引き戻されているのね。




Copyright 2025 後落 超


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