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第十四話 あなたって、グイグイくる系なんですね 後編

 お買い物を終えて良太さんのおうちに着いてから、優紀さんに。

「そんなことを羨ましがるより、大事なお話があります」

 わたしなりに考えていたことを伝えておかないと、不親切よね。

「どうしたの、そんなに真面目な顔をしちゃって」

「わたしたちと一緒にいて、こんなことを続けるつもりなら……」


 優紀さんに、ひどく面倒な話をし終わると。

「言われてみれば、確かにそうね」

 理解してもらえたと安心していたわたしは、気づいていなかったんです。

 優紀さんの目が、これ以上ないってほどいたずらっぽく輝いていたことに。




 翌日は、お昼休み中に例の体育倉庫の横で優紀さんと二人。

 今夜のプランの、最終確認をしているんだけれど。

「まずは、隼人さんとお付き合いするための下地として……」

 優紀さんは、そう切り出したわたしの話を遮るように。

「それだったら、もういいの」

「もういいって、どうしてですか?」

「今夜は、石田君のお母さんがうちに来るでしょ」

 そうなんです。

 今夜は、お母さまが優紀さんのご両親と会う約束をしていて。

 だから、こうして最終確認をしているんです。

「あゆみちゃんと石田君の話をした後に、峯岸君のことを話すのよね?」

「ええ」

「当然、あたしの親は峯岸君って誰なのか聞いてくるわ」

「でしょうね」

 今夜の主な目的はそこではなくて、わたしと良太さんの関係の説明なのに。

「そんな状況で中途半端なことを言っても、かえって逆効果でしょ」

 逆効果、とまでは。

「これから付き合うつもりです、ぐらいは言えなくちゃあたしの負けよ」

 勝った負けた、ではないと思いますが。

「そもそも、石田君のお母さんがうちに来ること自体が変じゃない?」

 誰がどう考えても変ですよ、今になって気がついたんですか?


「だから、付き合っているって言えるように事前に告白しておいたの」

 どや顔、しかも過去形でいきなりそんなことを言われても。

「告白って、誰に何をです?」

「昨日、あたしから峯岸君に付き合おうって告白したんだってば」

 ええっ!

「峯岸君に家まで送ってもらう途中の公園で、付き合おうって言っちゃった」

「どっ、どっ」

 何を慌てているのよ、わたしっ!

「OKしてもらったから、今じゃあたしと峯岸君は晴れてカップルってわけ」

 何なんですかあなたは、単刀直入が過ぎるでしょ。

「でね、今夜は峯岸君にも同席してもらうことになっているの」


「だから、石田君のお母さんにはあなたたち二人のことを説明してもらって」

「はあ……」

「説明の後で、峯岸君への太鼓判を押してくれるだけていいの」

「それだけで?」

「ええ、それだけであたしと峯岸君は両親公認の仲になれるんだから」

 あなたの素晴らしい行動力には感服します、でも。

「びっくりしているのね、もう少しトラブルに慣れていると思ったのに」

 慣れたくないですよ、トラブルになんて。

 そもそも、これってわたしたちのとは質が異なるトラブルですし。

 自らトラブルの先回りをする人なんて、わたしは知りませんから。

 やっぱりあなたは、グイグイくる系だったんですね。




 次の日、わたしが学校から帰ってくると。

 午前中に病室へ検診に行っていた良太さんは、もう帰っていて。

「経過はどうだったの、お医者さまは何ですって?」

「先生は、あさってにはギプスが外せるって言っていたよ」

「良かったわね、夏休みの前にギプスが外れて」

「遊ぶのも制限されるし、お風呂と階段が面倒で困っていたから助かるよ」

 わたしがいろいろとお手伝いしているでしょ、どこが面倒なんですか。

「何より、こんなものをしているとめちゃくちゃ暑いし」

 もう初夏なのに、まるで厚手のブーツを履いているみたいですものね。

「ギプスが外れたからって、急に激しい運動をしてはだめよ」

「お医者さんからも言われているからね、当分の間は大人しくしているさ」

 そうか、ちょっぴり残念かも……。

 ギプスのせいで、ちょっぴり弱っているように見えていた良太さんって。

 少しかわいかったのにな。


 急に、真面目な顔をした良太さんが。

「そんなことより、母さんが昨日の夜に委員長の家へ行ったって聞いたよ」

 嫌ねえ、もう耳に入っちゃったの?

「隼人との交際を許すように、委員長の両親に言ったんだって」

「はい」

「その返事だと、あゆみも知っている話なの?」

「ええ、知っています」

「どうして止めなかったのさ、これって隼人と委員長の問題だろ」

「お母さまが勝手に、ではないからです」

「委員長が頼んだとでも?」

「優紀さんが頼んだんでもありません、わたしがお母さまに頼んだんです」

「あゆみが頼んだ?」

 良太さんったら、これ以上ないってぐらい驚いているわ。

「わたしが頼まなければ、いくらお母さまでも優紀さんの家に行きませんよ」

「どうして、そんなことを頼んだのさ」

「これが、最善手だと思ったからです」

「委員長の家に乗り込むなんて、ただのお節介おばさんだろ」

「そんな言い方って」

 お母さまは、無理なお願いを聞いてくださったのに。

「僕らの婚約騒動のときもそうだよ、学校に乗り込んで騒ぎを大きくしてさ」

 わたしたちの婚約を騒動だなんて、さらっと言わないでください。


「隼人が自分で行けばいい話だろ、委員長の家に」

「そんな簡単な話じゃない、と思ったんです」

「どうしてさ?」

 分からないのかしら、良太さんったらこの手の話には本当に鈍いのね。

「良太さんとわたしが、極めて特殊なケースだからです」

「極めて特殊って」

「優紀さんは、隼人さんと一緒にいたいからわたしたちといるんですよ」

「だから?」

「障害を突破するためには劇薬、お母さまの行動力が必要だと思ったんです」

「おおげさだな、障害や劇薬なんて」

 やっぱり、分かっていないのね。

「優紀さんは、尋常じゃないスタートを切っちゃったんですよ」

「尋常じゃないスタートって、ますます分からないな」

 もう、当の本人はまったく自覚していないのよね。

「詩織ちゃんと菜摘ちゃんのお迎えや、この家に出入りしているんですから」

 こんな、オブラートに包むような言い方じゃなくて。

 がつんと言ってあげなきゃ、だめかなあ。

「中学生で婚約したと話題になっている、わたしたちと一緒に過ごすんです」

「それが、何なのさ」

「周りとあつれきが生じるでしょうし、優紀さんのご両親だって心配します」

「そんなこと、いちいち心配するかな」

 するんですよ、普通の親御さんなら。

「で、わたしが大阪の実家を離れてここにいられる理由を思い出したんです」

「理由って?」

「お母さまが一生懸命に両親を説得してくれたから、でしょ」

「母さんが動いたからって、良い方向に向かうとは限らないだろ」

「それだけじゃありません」

「他に、何さ?」

「わたしたちといるからには、何かしらのお墨付きが必要だと思ったんです」


「お母さまは、優紀さんのご両親にわたしたちのこれまでの経緯を説明して」

「どうして、僕とあゆみのことを?」

 余計な質問には答えず。

「その上で、隼人さんは真面目な良い人で優紀さんも真剣だと伝えて」

 ここで、しっかりと良太さんを見て。

「そして、お願いしてくださったんです」

「何を」

「自分が見守るから、節度のあるお付き合いを許してあげてほしいと」


「どうしてそこまでするの、たかが中学生の交際なんだから反対しないだろ」

 さらにしっかりと、良太さんを見て。

「問題は、そこではありまさん」

「じゃあ、何が問題なのさ」

「わたしたちこそ、隼人さんと優紀さんにとっての障害そのものだからです」

「僕らが障害って」

「わたしたちは、周りから見れば中学生らしい関係とは言いにくいですから」

「周りからどう見えていたって、実際は中学生らしい関係だろ」




「もうええやろ、そないに良太を責めんとき」

 お姉ちゃんったら、いつの間に良太さんのお部屋に。

「良太さんとわたしが話しているんだから、横から口を出さないで」

「あんなあ、良太はよぉ知っとるんや」

「何を」

「課長が乗り出すんがプラスに出るかマイナスかは、一種の賭けやさかい」

「やっぱりそう思うよね、年上だけあって鹿山さんは分かっているなあ」

 良太さんったら、どっちの味方なの。


「けどな良太、優紀っちゅう娘の両親の耳にかて入っとるやろ」

 あれ、お姉ちゃんの口調が今までと違うわ。

「中学生で婚約しとるっちゅう、自分らのうわさは」

「そうだろうね」

「娘が、そんな連中と毎日のように一緒におるんや」

「僕らと一緒にいたら、何がまずいの?」

「両親かて、娘が感化されんか心配するやろ」

「でも、あゆみは僕らが障害だって……」

 もう、良太さんったら必要以上にショックを受けているじゃない。


「親やったら、心配をせぇへん方がどうかしとるぞ」

 お姉ちゃんったら、良太さんを諭してくれるつもりなのかしら。

「なんぼ自分らは清く健全や思とっても、周りから見れば心配だらけやろ」

「そうなの?」

「しょうもないうわさかて立つやろし」

「そう、だね……」

 うわさについては、良太さんにも思い当たるふしはあるみたいね。

「せやさかい、あゆみが気ぃつこて課長を行かせたんや」

 良太さんったら、珍しく真剣にお姉ちゃんの話を聞いているじゃない。

「しゃんと説明して、両親を安心させるためにな」

 素直にうなずいちゃって。

 わたしの言葉より、お姉ちゃんの言うことに納得するんですか?

「今回は、母さんが珍しく役に立ったんだね」

 だから、わたしのときもだと言っているでしょっ!

「後で課長には礼を言うときや、もちろんあゆみにもやで」

「うん、そうするよ」

 お母さまが優紀さんの家に行ったのには、こんな理由があったんですから。

 ご立派だと感謝こそしろ、お母さまを非難したらだめですよ。


 まだ何か言いたそうにしている、お姉ちゃんったら。

「少しはウチに感謝しぃや、自分」

「別に、お姉ちゃんが出てこなくても良かったのに」

「良太には障害やら劇薬やら言うても分からん、ずばり言うたらんと」

「盗み聞きしていたのね、わたしたちの会話を」

「あんだけ大声で話しとったら、めっちゃ筒抜けになっとったで」

「ふん、どうだか」




 お姉ちゃんがリビングへ行き、二人だけになると。

「そういえば、隼人と委員長が付き合うことになったんだってさ」

 もちろん知っていますよ。

 当人たちを除いて、最も知っていると思われるのがわたしですから。

「母さんが委員長の家に乗り込んだのって、それと関係があるの?」

 逆ですよ、正しい順序は。

 優紀さんが告白して、二人がカップルになってからの。

 お母さまの訪問が、正解です。


「それにしても、あゆみはだんだん結婚前の母さんに似てくるな」

 またそれですか、最近はやたらと言われるけれど。

「どこが似てきたって言うの」

「あの委員長にやきもちを焼いていた、なんてさ」

 お洗濯物をたたんでいるわたしの横で、そんなことを言っている良太さん。

 確かに、優紀さんに対してやきもちを焼いてはいたけれど。

 わたしは、お母さまほどエキセントリックではありませんよ。

「目を三角にして敵意を丸出しだっただろ、口調もとげとげしかったしさ」

「ふんだ、そういう良太さんだってお父さまにそっくりだったわ」

「僕が父さんに、どこが?」

 決まっているでしょ。

「常に奇麗な人が寄ってくるし、誰かれ構わずもてるところよ」

 われながら、不毛な言い合いだけれど。

 その後に、良太さんのひと言があったから帳消しにしてあげるわ。

「でもさ、僕が父さんに似ていてあゆみが母さんに似ているなら」

「似ているなら、何よ?」

「僕たちも仲がいい夫婦になるのかな、母さんたちみたいに」

 いい夫婦か、えへへ……。



 でもね、よく考えてみれば。

 こんな騒動のきっかけになった、良太さんがけがした日。

 木の上の仔猫を見つけた時点で。

 とりあえず、良太さんは待ち合わせをしているわたしのもとへ行かせて。

 隼人さんと優紀さんが二人だけで、はしごを使って仔猫を助けていれば。

 良太さんがあんなけがをすることもなかったし。

 仔猫がかすがいとなり、隼人さんと優紀さんは仲良くなれて。

 四人とも幸せだったんじゃないかしら。


 まあ、今さらそんなことを思ってもね。




Copyright 2025 後落 超


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