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狂った博愛主義者を生んだある悲劇についての記録  作者: 栗山大膳
第三章 博愛主義者は死の宴の夢を見るか?
45/75

6.

   ***



 幻視から目覚めてまず気が付いたのは、煌々と輝く天井のライトだった。


 旧武道室はまぶしい光で満ちている。


 窓のそとはすでに昏かった。


 藍色のそらを背景に、外灯が瞬いている。



 手元には、鞘におさまった鉤箭剣があった。


 手触りはあるが半透明だ。


 鞘をにぎる手のしわが透けていた。


 それがより希薄になって、消えていく。


 しかし、鉤箭剣のことを考えると、また忽然と現れる。


 扇谷が、概念の具象化、というようなことを言っていたが、思考や思念によって現れたり消えたりするのは、そのためなのだろう。



 すぐうしろで、花が、とぅーりゃあー、と叫んでいる。


 振り返ると、扇谷が起こして支える畳にむかって、バニー・ガールっぽいネコマタが、ふわふわのファーカフスをつけた腕を振るっていた。


 鍼灸で使うような細長い針がタタタタンと小気味いい音をたてて、畳に突き立っていく。


 花は野獣のように天井をあおぐ。


 すると両手から鋭利な爪が伸びた。


 とびあがってその爪をふりおろす。


 畳の裏に四本の裂け目がはいった。



「うおおお、今なら誰にも負ける気がしねえ!」


 と、猫耳バニー・ガールがいきりたつ。



「君は、意外と、武闘派か……」


 と、扇谷が気圧されたように言った。



 遼はその様子を眺めながら、花の書く小説の主人公も近々ネコマタに変身していろいろな敵をハリネズミにしていくのだろうな、などと考えた。



「しかし、君を見ているとニューロマンサーのモリイを思い出すな」


 と、扇谷が言った。



 主人公のハッカーであるケイスの連れで、身体じゅうに改造を施した屈強の女戦士だ。


 指に鋭利な刃物を仕込ませ、短針銃を愛用している。



「わたしモリイ大好き」


 と、花が言った。


「へえ、扇谷もサイバー・パンクとか読むんだ」



「有名どころだからたまたま読んだことがあっただけだ」


 と、扇谷は言った。


「なるほど、君はその影響を受けたのかもしれん」



 ふたりのむこうで、うつくしい光が踊っていた。


 それは鎖帷子の蛮族が手にする両手剣だった。


 剣身が青白く輝き、厚みのあるライト・セイバーのように見える。


 強く振るたびにうなりをあげ、畳に衝撃波を走らせ、ガラス窓をびりびりと振動させる。



「フォースの導きを感じるぜ……」


 と、蔵人がジェダイになりきったようなことを言っている。



「ゲルマン族は早いうちからキリスト教化されていたというが、それ以前の古い信仰には、なにかジェダイの神秘性に通じるものがあったのかもな」


 と、扇谷は言った。


「それが現代に蘇り、あいつの趣味と相まって、ああいうスター・ウォーズ的な武器を生じることになったんだろう」



「四井さんも蔵人もノリノリじゃん」


 と、遼は言った。



「そっちはどうだ、長いこと宇宙と交信してたみたいだけど」


 と、蔵人。



「ああ、なかなかの電波をキャッチしたよ」



 遼は鉤箭剣を梁にひっかけて宙に舞い、つぎつぎと畳を突き刺して浮かし、それをまとめてうえから一直線に両断してみせた。



 このあいだ、恐らく三秒も経っていない。



 またつまらんものを斬ってしまった、的な気分で三人をふりかえる。



「おい、やりすぎだぞ」


 と、扇谷。



「わたし、知らない」


 と、花。



「備品をぶっこわすなよ」


 と、蔵人が言った。


「ここ取り壊しが決まってる訳じゃねーんだ。


 柔道部や剣道部がまだ使うかもしれねえ。


 学校に怒られたらおまえが弁償しろよな」



「……えっマジで?」



 遼は真っ二つになって重なっている畳を見つめて、いくらくらいするものなのだろうと考えた。



「テープで貼り付けとけばわかんないよね……」



「いやバレるだろ普通に……」


 と、蔵人は言った。

 視点が主人公に戻ります。

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