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狂った博愛主義者を生んだある悲劇についての記録  作者: 栗山大膳
第二章 亡霊と踊る博愛主義者は血の匂いを厭わない
38/75

15.

「この際、そもそもの話をしておくか」


 と、扇谷は言った。


「もう気づいているかもしれんが、この学校は星宮家を中心とした、≪魔≫と≪魔界≫の絡む諸問題に対応するための組織によって運営されている。


 神明幽賛会というのだがな。


 室町の頃から続く、修験者や密教僧、陰陽師の組合、相互扶助会みたいなものが前身になっている。


 かれらは古くから各地で助け合って≪魔≫と戦っていたんだ」



「『神明幽賛会』なら学校のホームページに出てたぞ」


 と、花。



「名前出して大丈夫なのかよ」


 と蔵人。


「影の組織とかそういうんじゃねーの?」



「いちおう公益法人として認可を受けている団体だからな」


 と、扇谷は言った。


「各地の神道・仏教の祭祀を支援・振興するというのが表向きの活動の名目になっているんだ。


 コネクションのある国会議員が幾人もいるし、役員には天下りの官僚も名を連ねている」



「で、その組織の実働部隊におまえと広瀬先生はいたんだな?」


 と、遼。



「そういうことだ」



「≪討魔衆≫っていうんだっけ」


 と、花が言った。


「中二病のハートをくすぐられるな!」



「中二病とはなんだ中二病とは」


 と、扇谷。


「とてもシリアスな活動なんだ。


 茶化さないでくれるか。


 ……それに、最近は≪魔≫どもに押し込まれ気味でな。


 人員は足りないし、離脱者も多い」



「怪我したり……死んだり、ってことか」


 と、遼。



 扇谷は頷いて、



「≪魔物≫に精神を破壊されることも少なくない。


 廃人にちかい状態になり、長いあいだ入院を余儀なくされる。


 そのまま回復しないことも……間々ある」



 遼の傍で、蔵人が顔をしかめていた。



「≪討魔衆≫は≪魔≫を見つけだして祓魔・調伏するほかに、≪魔≫から人々を守ることも伝統的に行ってきた」


 と、扇谷は続ける。


「それで我々も≪魔≫に襲われそうな危険のある人物の見守りなどもしているのだが、最近は人手不足で、到底おいつかない。


 それで数年前に、学校法人を買収して、そこにその懸念がある未成年をかき集め、まとめて保護しようという計画が立案された。


 そうして設立されたのが、この神明舎学院だ」



「なるほどな……で、≪魔≫に襲われそうな奴はたいてい、赤い靄が見える……」


 と、遼。



「クロサキさんや広瀬さんは、その保護のために派遣されてきた。


 クロサキさんなんかはここに赴任してくるまでは≪討魔衆≫のトップを務めていたし、広瀬さんも捜査チームの主任だった。


 つまり学院は本腰をいれて生徒を守るつもりでやっているんだ」



「どうりでな。


 クロサキはタダモンじゃねえと思ってたわ」


 と、蔵人。



「でもさ、このへん赤い靄が多すぎない?」


 と、花が言った。


「立地的にどうなのよ」



「むかしはそんなことはなかったらしいんだがな」


 と、扇谷。


「赤い靄が頻繁に出るようになったのは、ここ半年一年のことらしい。


 原因はクロサキさんたちが調べているようだが、まだよく分かっていない」


 そうして窓から寮のむこうにそびえる山の稜線を見やって、


「玄蕃山のほうから赤い靄が流れてきているからには、あの山になにかあるんだろうが」



「こないだ、山のむこうで『ヒグマ』が暴れたんだっけ」


 と、遼が言った。



「それも、無関係ではあるまいな……」



「ところで、なんで俺たちは生徒会室に呼び出されたんだ?」


 と、蔵人。


「午後の授業サボっていいとか普通じゃねえよな」



 昼休みが終わる五分前のチャイムが鳴った。



 遼は階段を駆け足で昇っていく生徒たちを見上げながら、



「新・生徒会長の星宮さんは星宮家の令嬢で≪能力者≫。


 役員の人事は会長の指名で決まる。


 寮の防衛体制を破られて死人が出た。


 で、扇谷は人間火炎放射器だし、俺たちは前世由来の≪力≫に目覚めつつあるらしい……


 たぶん、『そういうこと』だと思うけど」



「ちょっとまってよ!」


 と、花が叫ぶ。


「わたしただのひきこもり少女なんだけど!


 それ以前に学校にくるので精一杯なんだけど!」



「……バックレるか?」


 と、蔵人。



「事が事だし、止めはしないぞ」


 と、扇谷。


「それに、こういうのは使命感みたいなものがないとどうしても務まらないからな。


 ま、俺は立場上、いかざるを得ないが……」



「俺も行くよ」


 と、遼は言った。


「≪魔≫を金属バットでブン殴ってこいって話なら聞いてやってもいい」



「マジか……」


 と、蔵人が金髪をかきながら言った。



「ただ、四井さんは無理することないと思う」



「そうだな」


 扇谷はひきこもり少女を振り返って、


「おそらく君には負担の大きすぎる活動になろう。


 気が乗らないなら、俺からも学校側に説明しておく」



「……でも、槙島も扇谷もいくんだろ」


 花は手をぐっと握っている。


「とりあえず、話だけは、聞いてみる。


 むりそうだったら、おへやに帰る」



「そうか。


 で、竜崎は」



「……ヤバそうな話だったら、俺もおへやに帰る」


 と、金髪のヤンキーは情けない声で言った。


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