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狂った博愛主義者を生んだある悲劇についての記録  作者: 栗山大膳
第二章 亡霊と踊る博愛主義者は血の匂いを厭わない
35/75

12.

 午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、数学の教師にうながされて日直が起立と礼の号令をかける。


 ありさの機嫌はまだ直らないようで、遼を一瞥するとこれみよがしにため息をつき、教室を出ていった。



「遼が女子を怒らせるなんて珍しいな」


 と、蔵人が肩に腕をまわしてくる。


「……支倉になにをしたんだ? 教えろよ」



「まあ、その、なんだ。


 聖徳太子のデコレーションがお気に召さなかったらしい」


 遼は眼鏡をはずして畳み、ケースに仕舞いながら言った。



「は?


 なんだそれ」



「おおかた、遼が女子の誰にでも優しいものだから、やきもちでも焼いたのだろう」


 うしろからやってきた扇谷が遼の机に腰かけながら言った。


「はやくも修羅場の様相を呈してきたな。


 この先が楽しみだ」



「女子どもがヒソヒソ話してたぞ。


 おまえと支倉のあいだにナニがあったんだって。


 俺もしつこく聞かれて困ったわ。


 竜崎くんなにか知ってるんでしょってさ」



「それでも、赤い靄だの、寮の事件だのの話に較べたらまだマシだろ」


 と、遼。



「たしかにな」


 と、扇谷が言った。


「ところで昼飯はどうする」



 どうすると言っても、この辺りにはコンビニどころか食事をできそうなところすらない。


 購買部でパンを買うか、学食に行くか、のふたつにひとつだった。


 寮で弁当を作ってくる者もまれにはいたが、遼は自分で作るなど考えたことすらない。


 おそらく扇谷や蔵人もそうだろう。



「いつもどおり学食でいいんじゃない」



「だったら俺、提案があるんだけどさ……」


 と、蔵人がやや声のトーンを落として言った。


「今日、めずらしく四井が来てるじゃん」



「ほんとに?」


 遼は驚いて花の席があるいちばん後ろの廊下側の席をふりかえる。



 前髪の揃った、セミロングの、小学生みたいな女の子が、ちょこんと座っていた。



「朝、いなかったよね」


 遼は眼があったら手を振ろうと思ったが、花はすこしも気づかず、じっと机の木目を見つめていた。



「ああ、そういえば三時間目の途中に、そっと教室に入ってきたな」


 と、扇谷。



「一緒に飯を食うやつ、いないみたいだし、誘ってみねえ?」


 と、蔵人。



「俺はかまわんが……話があわず、かえって気を使わせたりしないか?」



「バカそこはこっちが合わせンだよ」



「そ、そうだな」



 遼は小走りになって花の傍までいき、



「重役出社、おつかれさまでーす」


 と、話しかけた。



 花はハッと顔をあげ、しばらくこわばった眼つきで遼のことを見上げていたが、



「う、うるせー!


 こっちは命がけなんだよ!」



「がんばったじゃん」



「うん……」



「よかったら、一緒に飯食いにいかない?」



 ひきこもりの少女はこっちに歩いてくる金髪のヤンキーと不愛想な黒髪の男を恐ろしげに見やって、



「き、気を使わなくてもいいって。


 竜崎くんたちと食べてきなよ」



 肩をすぼめ、俯いてしまった。



「お、なんだ遼って四井とも仲よかったの?」


 と、蔵人。



「おいそこの金髪ヤンキー、四井さんビビらせてんじゃねーよ」


 と、遼は言った。



「自分のガラの悪さをすこしは自覚したほうがいいぞ」


 と、扇谷。



「お、俺のどこがガラ悪いんだよ?


 地元じゃこれくらい普通だったぜ?」



「じゃあ地元がまるごとガラ悪いんじゃねーの」


 と、遼。



 花は、ぷふっと、笑いをかみ殺していた。



「ちなみに四井さんを飯に誘おうって最初に言い出したのコイツ」


 と言って、遼は蔵人を親指で示した。


「見た目ほど凶悪じゃないから安心して」

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