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プロローグ

 大都市の煌びやかな夜景に、光のつららが降り注ぐ。


 光球が膨張し、取り込んだ高層ビル群を、一瞬のうちに骨組と瓦礫へと分解して、その黒い残影を天へと浮遊させる。


 自衛隊だかマスコミだかのヘリが次々に飲まれて消滅していった。



 碁盤の目のように走る道路が赤く輝いている。


 高架道路が傾き、トラックからバイクまで、ありとあらゆるものが滑り落ちていく。



 内から外へ、放射状に崩れゆくドミノのように、大都市が破壊されてゆく。


 徹底的に。



 その模様を、高層ホテルの空中庭園から見下ろす、二人の男がいた。



「派手にやらかしてくれものだ……」


 と、昔ふうの丸いサングラスをかけた、巌のような体躯の男が言った。



「美しいと思わないか」


 と、黒髪をうしろに束ねたダーク・スーツの男が言った。


「ありとあらゆるものは、滅び去るときにもっとも優雅に煌めくのだ。


 例外はない」



「ならば、おまえもそうか……」


 サングラスの男の額が憤怒にゆがむ。


 そのレンズには、輪を描いて大都市を飲み込んでいく殺戮の光芒が写しとられていた。


「その様が見たくなってきたな……なあ、見せてくれないか、冷泉れいぜい



「そういきりたつな、黒崎」


 ダークスーツの男は喉で笑う。


「おまえは敵を間違えている。


 俺とおまえが手を組めば、こんな汚濁にまみれた世界など、すぐに滅ぼせる。


 ……なあ、あんなゴミどものために戦って、なんの意味がある。


 おまえは幾度、裏切られてきた。


 こんな世界に、おまえほどの男が命をかけて守ろうとするほどの価値など、始めからないんだよ」



「つくづく、哀れな男だな、おまえは」


 サングラスの男は、顔をそむけた。


「くだらないと思ったのなら放っておけばよかろう。


 放っておけなかったのはなぜか。


 おのれの胸によく聞いてみるんだな」



「……俺はおまえと戦いたいとは思わない」



 黒崎と呼ばれた男は舌打ちをする。



「たしかに、ここでおまえをブチ殺したところで、取り返しがつく訳じゃない……」



「そういうことだ」



 冷泉と呼ばれた男は、手すりの縁に立った。


 その姿が六つのおおきな翼を背負った悪魔のすがたに変じる。


 ルビーのように輝く瞳を、黒崎にむけた。



「……これからどうするんだ」



「おまえのおイタの後始末だよ……収拾がつくかは俺にも分からんが」



「ほうっておけ」


 と、悪魔は吐き捨てるように言った。


「この世は砂の城に過ぎん。


 おまえが命がけで取り繕っても、いずれ波にさらわれる定めだ」



「行けよ、冷泉」


 と、サングラスの男は言った。


「俺にも我慢の限界というやつはある」



 悪魔はだまって男を見つめていたが、やがて翼をおおきく広げ、夜のビルの谷底めがけて身を投げ出した。


 大きな黒い影が、荒廃した大都市を背景に、すべるように遠ざかっていく。



 男は大きく息をつき、『滅び』の模様を眺めた。



 地平線にオーロラのような光がゆらいでいる。


 都市の残骸から幾条もの青い煙がたちのぼり、風にたなびいていた。



 あの男が言うように、滅びの美というものはあるのかもしれない。


 しかしそれは、悲しみの美しさに過ぎない。



 男はやがて、手すりから身体を起こす。



「……俺は人間の可能性を信じるよ、冷泉」



 そうして、塔屋の扉をひらき、ひかりの届かない闇のなかにうもれていった。

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