14.
「すこしくらい関心のあるフリはできんのか」
扇谷はやれやれという風に首を振って、
「女子には誰彼かまわず優しいくせに、友にはそのひとかけらさえ示すのが惜しいらしいな」
「で、その占術でなにを占ってくれるんだ?」
と、遼は挑むように言った。
「なんなら、俺の下着の色でも当ててみる?」
「なにが悲しくてそんなものを占わなきゃならんのだ」
と、扇谷はもともと眼つきの悪い左目をさらに凶悪にゆがめた。
「……まあいい。好きな数字をひとつ選んで言ってみてくれ」
「十八」
扇谷はしばらく虚空をにらみつけたあと、
「……青、もしくは紺ではないか。
柄は文字……たとえば、英単語を散りばめたようなものだと思う」
遼はハーフ・パンツをすこしおろして示し、
「正解」
と言った。
フフッ、当たりか、と扇谷は不気味に微笑む。
「俺の部屋に仕込んだ隠しカメラをいますぐ外してくれないか」
「気になるなら好きなだけ探せばいい」
扇谷は口の端に得意げな色を漂わせたまま、ゆっくりと立ち上がって伸びをし、それから洗濯機の蓋をひらいて中身を籠にうつしかえ始めた。
その後姿に、赤い靄がかかる。
すると彼は――
浅葱の狩衣に烏帽子を冠した、髪のながい若者のすがたに変じた。
そうして靄が抜けると、また部屋着をまとった長身痩躯の青年にもどる。
遼は眼をこすり、それから欠伸をして、自分になげやりに言い聞かせた。
もうなにも気にするな、と。
寮の階段をならんであがりながら、扇谷は、
「ところで、君にもこれが見えているはずだが……」
と、ふと脚をとめた。
その足元を、濃い靄が流れてゆく。
「ワタシ、ナニモ、ワカリマセーン」
遼は外国人の片言を真似て言った。
それから手を振って赤い霧を追い払おうとする。
「気持ちはわかる。
あんなことがあったのだからな。
……有川さんと言ったか、かわいそうな子だった」
遼はなにも言わなかった。
「しかし、俺たちはそろそろ、『この問題』について話し合ったほうがいい。
いいか遼、寮の窓に頑丈な鉄柵がとりつけられているのも、食料が豊富に備蓄されているのも、男女を分けず入寮順に部屋が割り当てられているのも、そしてオートロックの扉がとり付けられているのも、たまたまそうなっている訳ではないのだ」
「ああ……なんとなく気付いてはいる」
二人はそこで会話を止めた。
言葉を選ぶのが難しかったということもあるが、それより、寮の廊下を全力疾走する足音に気付いたからだ。
ジャージを着た金髪色白の美少年が、赤い靄を裂くようにして迫ってくる。
すれ違いさま、ふたりに
「よう」
と言って手を軽くあげ、階段を駆けおりていく。
クラスメイトの、竜崎蔵人だった。
「そんなに慌ててどうした、歩く校則違反」
と、扇谷が蔵人の後ろすがたに声をかける。
金髪はもとより、蔵人は学校指定のワイシャツもネクタイもしてこない。
洒落た開襟のシャツを堂々と身にまとい、インディアン・ジュエリーを胸元にひからせていた。
授業に出ず、屋上で昼まで寝ていたこともある。
当然、寮の廊下を全力疾走するくらい、なんとも思っていない。
「うるせえ」
と、蔵人は手すりによりかかり、階段を見上げて言う。
「amazonから届いた荷物をまだ受け取ってねえんだよ」
「べつに逃げたりしないぞ、荷物は」
と、扇谷。
「おまえらスマホ見ろよ、スマホ」
と、蔵人は言った。
「学校の連絡用のアプリに、あと五分で消灯だから全員部屋に戻るようにって、出てるだろ」
(´・ω・`)




