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狂った博愛主義者を生んだある悲劇についての記録  作者: 栗山大膳
第一章 狂った博愛主義者を生んだある悲劇についての記録
17/75

14.

「すこしくらい関心のあるフリはできんのか」


 扇谷はやれやれという風に首を振って、


「女子には誰彼かまわず優しいくせに、友にはそのひとかけらさえ示すのが惜しいらしいな」



「で、その占術でなにを占ってくれるんだ?」


 と、遼は挑むように言った。


「なんなら、俺の下着の色でも当ててみる?」



「なにが悲しくてそんなものを占わなきゃならんのだ」


 と、扇谷はもともと眼つきの悪い左目をさらに凶悪にゆがめた。


「……まあいい。好きな数字をひとつ選んで言ってみてくれ」



「十八」



 扇谷はしばらく虚空をにらみつけたあと、


「……青、もしくは紺ではないか。


 柄は文字……たとえば、英単語を散りばめたようなものだと思う」



 遼はハーフ・パンツをすこしおろして示し、


「正解」


 と言った。



 フフッ、当たりか、と扇谷は不気味に微笑む。



「俺の部屋に仕込んだ隠しカメラをいますぐ外してくれないか」



「気になるなら好きなだけ探せばいい」



 扇谷は口の端に得意げな色を漂わせたまま、ゆっくりと立ち上がって伸びをし、それから洗濯機の蓋をひらいて中身を籠にうつしかえ始めた。



 その後姿に、赤い靄がかかる。


 すると彼は――



 浅葱の狩衣に烏帽子を冠した、髪のながい若者のすがたに変じた。


 そうして靄が抜けると、また部屋着をまとった長身痩躯の青年にもどる。



 遼は眼をこすり、それから欠伸をして、自分になげやりに言い聞かせた。


 もうなにも気にするな、と。



 寮の階段をならんであがりながら、扇谷は、



「ところで、君にもこれが見えているはずだが……」


 と、ふと脚をとめた。


 その足元を、濃い靄が流れてゆく。



「ワタシ、ナニモ、ワカリマセーン」


 遼は外国人の片言を真似て言った。


 それから手を振って赤い霧を追い払おうとする。



「気持ちはわかる。


 あんなことがあったのだからな。


 ……有川さんと言ったか、かわいそうな子だった」



 遼はなにも言わなかった。



「しかし、俺たちはそろそろ、『この問題』について話し合ったほうがいい。


 いいか遼、寮の窓に頑丈な鉄柵がとりつけられているのも、食料が豊富に備蓄されているのも、男女を分けず入寮順に部屋が割り当てられているのも、そしてオートロックの扉がとり付けられているのも、たまたまそうなっている訳ではないのだ」



「ああ……なんとなく気付いてはいる」



 二人はそこで会話を止めた。


 言葉を選ぶのが難しかったということもあるが、それより、寮の廊下を全力疾走する足音に気付いたからだ。



 ジャージを着た金髪色白の美少年が、赤い靄を裂くようにして迫ってくる。


 すれ違いさま、ふたりに


「よう」


 と言って手を軽くあげ、階段を駆けおりていく。



 クラスメイトの、竜崎蔵人だった。



「そんなに慌ててどうした、歩く校則違反」


 と、扇谷が蔵人の後ろすがたに声をかける。


 金髪はもとより、蔵人は学校指定のワイシャツもネクタイもしてこない。


 洒落た開襟のシャツを堂々と身にまとい、インディアン・ジュエリーを胸元にひからせていた。


 授業に出ず、屋上で昼まで寝ていたこともある。


 当然、寮の廊下を全力疾走するくらい、なんとも思っていない。



「うるせえ」


 と、蔵人は手すりによりかかり、階段を見上げて言う。


「amazonから届いた荷物をまだ受け取ってねえんだよ」



「べつに逃げたりしないぞ、荷物は」


 と、扇谷。



「おまえらスマホ見ろよ、スマホ」


 と、蔵人は言った。


「学校の連絡用のアプリに、あと五分で消灯だから全員部屋に戻るようにって、出てるだろ」

(´・ω・`)

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