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二十四、懺悔のような

「それで、話を戻してもいい?」


 ウィリデの言葉に、ロジュとラファエルは頷いた。


「最初から、話をきかせてもらいたいな」


 ウィリデは、お願いをするように微笑むが、彼の纏う空気は逆らいにくいものだ。ロジュはウィリデに少し視線を向けた後、諦めたように頷いた。


「分かった。それじゃあ、ウィリデはどこまで知っているんだ?」


 ロジュからの問いに、ウィリデは少し視線を彷徨わせた。彼が顔を少し上に向けたことに連動して、彼の深緑の髪もフワリと揺れる。


「私が知っているのは、自分がテキュー・ソリストに殺されたこと。そして、ロジュが犯人はテキューである、という事実にたどりついたこと。そして、太陽が墜ちたこと」

「結構知っているわね」


 アーテルが驚いたように声を出した。ウィリデが知っていることはウィリデ自身が殺されたことまでくらいだと思っていた。


「そして、なぜかアーテルのことが記憶から消えていた、ということ」


 ウィリデはアーテルに探るような目線を向けた。アーテルが何かを知っていると確信している。アーテルは気まずそうにウィリデから視線を逸らす。


「ウィリデもこう言っていることだし、アーテルから説明をしたらどうだ?」

「ちょっと、ロジュ。面倒になってない?」


 アーテルがロジュをジトッとした目で見つめるが、ロジュは呆れたように首を振る。


「そうじゃない。相当大事なことを自分の口から恋人に伝えた方がいいんじゃないか、っていう配慮じゃないか」


 ロジュのその言葉に、アーテルは少しだけ恥ずかしそうに頬をそめた。そしてチラリ、とウィリデに目線を向ける。


「恋人、でいいの? ウィリデ」


 まだお互いにはっきりと言葉にしていない。アーテルは祈るような視線をウィリデへと向けた。ウィリデは口を開こうとして、一度閉じる。そして少しの間を置いて、開けた。


「ああ、勿論。私はそうしたいと思うし、アーテルがそれでいいなら」


 アーテルは顔を輝かせた。満面の笑みを浮かべるが、その後に表情を引き締めた。


「ウィリデ。私が何を言ったとしても、見放さないって約束できる?」

「え、そんなに危ないことをやったの……? まあ、いいけど。約束するよ」

「約束よ?」


 アーテルはウィリデへ念を押してからアーテルは目線を下げた。震えそうになる口をゆっくりと開く。


 これは、懺悔に似たものかもしれない。


「私が、ロジュに提案をしたの。時を、戻さないかって」


 ウィリデは目を見開いた。そして、背もたれに背を預けながら、天井を見上げた。彼は、知っていた。時が戻っていることを。それでも、その原因は知らなかった。それをはっきりと人の口からきくのは妙な気分だ。この現実味がない話を実現させた張本人だというのだから。

 また、自分がいない世界を耐えられなかった人間がいるということになる。それも二人も。そのことに喜べばいいのか、憂えばいいのか。


 ウィリデの表情が考え込むようなものであることに、アーテルは気がついていたが、アーテルは話を続ける。


「それで、私は、月のフェリチタと会って、お願いしたの。『時を戻してください』って」

「フェリチタに……」


 ウィリデはほぼ無意識のうちに呟いていた。フェリチタの影響は、このラナトラレサにおいて大きい。それは認識していたが、まさか時を戻すほどのエネルギーを持っているとは思っていなかった。

 それでも、これが現実だ。時が戻った。その事実は覆らない。だから、受け入れることしかできない。


「そのときにね、月のフェリチタから言われたの。代償を払う覚悟はあるかって」

「代償。ロジュがさっき言っていたのが、ロジュが払った代償っていうことで間違いないよね」

「ああ」


 ウィリデからの問いに、ロジュは短く答えた。ウィリデは頷くと、再びアーテルへと向き直る。


「その、代償は?」

「ウィリデ、貴方の記憶よ」

「私の、記憶。ということは……」


 ウィリデが納得したように言葉を発した。アーテルは頷く。


「ウィリデの察している通りよ。貴方が私のことを覚えていなかった。それは、フェリチタの力が働いていたからよ。私は、貴方の中の私を犠牲にして、時を戻した」


 アーテルは少し泣き出しそうに微笑んだ。ウィリデを見つめるその金の瞳には濁りはないが、何も考えていない無知なものではない。アーテルはたくさん悩んだ。時を戻すという常軌を外れたものに手を出した自分が正しかったのか。ウィリデをまた愛せるのか。たくさん悩んだが、アーテルの中で残った事実はたいした変化はなかった。


「ねえ、ウィリデ。私には、無理よ。貴方がいないと生きていけない。もし、貴方が先に死ぬなら、私は正気では、いられない」


 アーテルはウィリデなしでは生きていけない。その事実だけが残るのだ。


「アーテル……」


 ウィリデは何を言えばいいか分からず、彼女の名前だけを呼ぶ。そんなウィリデを見て、アーテルはまた微笑む。



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