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三、ロジュと王の座

 もしも。ロジュが行動力のない人間であったのなら。彼の思いつきはただの希望で終わっていただろう。仮に計画を立てる段階まで進むことができたとしたら、行動が速いと評価されるだろう。

 ロジュの行動力には、目を見張るものがあった。

 ロジュはその日のうちに出発をしたのだから。


 行こう、と決めてまず彼がするべきことは、自分の仕事を片付けることだった。学生といえども彼は王族だ。与えられている仕事はたくさんある。ソリス国では現在王太子が決まっていないため、王太子がするべきである仕事を誰かが行う必要がある。


 その仕事のほとんどはロジュへとまわってくる。その理由は単純で、王の子どもの中では大学生であるロジュが時間に余裕があるからだ。ロジュの弟であるテキューと妹のクムザは学院生であり、特に勉強に集中しなくてはならない。

 ただ、来年はテキューが大学に進学する。その後はほとんどの仕事がテキューに渡るはず、とロジュは考えている。


 ロジュは自分に分配されていた仕事を片付けた。その資料を持って、王である父の仕事場へと向かった。

 彼は王の仕事場の前であっても緊張の素振りを全く見せない。彼は躊躇なく扉を叩いた。コンコン、という音が静まりかえった廊下に響く。十秒ほど間が空いた後に、どうぞ、という声がした。


 中からスッと扉が開けられた。父の側近が扉を開けてくれたようだ。ロジュは足音なく部屋へと入る。


「失礼します。完了した分を持ってきました」

「ああ、助かる。そこに置いておいてくれ」


 山のように置かれている書類。その書類の奥からロジュの言葉に返事を返した人がいる。ロジュの父、コーキノ。現在のソリス国の王だ。オレンジがかった赤色の髪、そして赤と金が混ざった色の瞳。

 ロジュの訪問にコーキノ国王は驚いたような表情を浮かべた。


「もう終わったのか?」

「はい。終わったので少し出掛けてきます」

「ああ、分かった。気をつけて」


 ロジュは、自分の父親がロジュに対して無関心だと感じている。実際、王太子を誰にするか公言していない様子から、無関心さが伝わってきている。


 一礼をして王の部屋を出て、自分の部屋への道を一人で歩きながら、ロジュは考える。早く引導を渡してくれればいいのに、と。


 ロジュは自分の能力、そして国を守ってくれる存在であるフェリチタから強く愛されている、という両点を理解している。このことを正しく理解していながらも、自分は王に相応しくないと思っている。


 この国の慣習だから、というのは理由の一つだ。ウィリデの弟、ヴェールが以前言っていたように、時代遅れという声はある。

 しかし、ロジュは慣習ができたということはそれなりの根拠や事情があるのではないか、と考えている。例えば、瞳の色が赤の人の方がこの国において長生き、というような理由があるのかもしれない。瞳の色が赤い人の方がこの国を正しく導くという統計があるのかもしれない。


 公表されている情報を探してみても見つからなかったが、王に代々伝わる理由がありそうだとロジュは予想している。だからこそ、慣習があるという事実は逆らえないものだと考えている。

 

 他の理由としては、ロジュは人との交流が少ない。人が嫌いなどは思っていないのだが、人と自分との間に見えない線がある、ということをロジュは気づいている。気をつかう人が多いというのは王子である以上仕方がないと思うが、ロジュと親しい人間はほとんどいないことが問題だ。側近だっていない。


 ロジュが心を許して話すことができるのは、シルバ国の王であるウィリデだけだ。そのような自分が王になると、人々は納得しない、とロジュは考えている。


 だからこそ、父であるソリス国の王には「ロジュを王にしない」の一言が欲しい。それさえあれば、ロジュは様々なしがらみから解放されるのだ。

 もし、王太子にしない、と明言されたら、どうしようかとロジュはぼんやり考える。



 何も、思い浮かばない。その事実にロジュは愕然とした。自分のやりたいことも望む未来も思い浮かばない。その空虚さに、ロジュは困惑した。しがらみから解放されて、自分は何になれるのだろう。何にも、なれないのかもしれない。


 ロジュは、軽く息を吐きながら自分の部屋に入った。これ以上、答えのない問いを考えるのは、止めておこう。今目の前のやりたいことを考えよう。


 そして、彼はその後十分も経たないうちに部屋から出てきた。向かう先は、シルバ国。


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