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四、太陽

 ずっと黙って二人の会話を聞いていたヴェールが警戒を隠そうともせず、ウィリデをかばうようにウィリデの前に立つ。彼の黄金の瞳が強い敵対心を秘めながら輝く。周囲の木の葉がザワザワと音をたてながら揺れ動いた。


「大丈夫だ、ヴェール。ロジュはこの国を滅ぼさない」


 焦りを隠さないヴェールとは違い、ウィリデは微笑を保ったまま表情を変えない。


「兄上、どうして分かるのですか?」


 ロジュへの警戒心を弱めぬまま、ヴェールはウィリデへと問いかける。ウィリデにとってロジュは得体の知れない存在。いくら敬愛する兄が大丈夫と言ったところで簡単に警戒をとくことはできない。


 ヴェールはロジュから感じる空気に恐怖をおぼえている。今までに感じたことがないくらいの恐怖。ロジュの表情から柔らかさも明るさも抜け落ち、纏う空気が重苦しいということだけは分かる。


 この人は、一体。どのように生きていたらこのような空気を身につけることができるのか。彼は無表情であるはずなのに、藍色の目はどこまでも深く、深く底が知れない。ヴェールは思わず一歩後ろへと下がった。


 ヴェールの緑にも金にも見える髪にぽん、と後ろから手を置かれた。そして落ち着かせるようにゆっくりなでられる。


「大丈夫だ、ヴェール。ロジュが本当にこの国の王族を滅ぼして乗っ取るつもりなら、とっくにやっているだろう。それをしていないということはただの脅しだ。そうだろう?」


 ウィリデがロジュに話しかける。その表情に怯えなど一切ない。


「外交をしていなかったわりには、察しの良さは弱まっていないみたいだな」


 口角を上げてロジュが笑う。彼の纏っていた重苦しい雰囲気が一瞬で霧散した。


「その通りだ。俺の判断はこの国を制圧することじゃない。ただ、隠し事をするなという警告のみだ。ソリス国の人間として言うと、それくらい重要なことは伝えてもらわないと困る。調べきれなかったこちらの落ち度も認めるが」

「それはシルバ国として謝罪する。他の国にはともかく『太陽』のソリス国には伝えるべきだった」

 

 この世界の中でソリス国が一番偉いというわけではない。しかし、世界は太陽を中心に回っている。生物も植物も太陽がないと生きていくことはできない。その太陽に守られているソリス国の影響力が世界の中で強くなることは必然ともいえる。


 太陽だけではなく、ソリス国のフェリチタには火もある。燃やし尽くそうとソリス国の人間、特に力が強い王族が思ったのならおそらく可能だ。


 ソリス国がこの世界のリーダー的な存在だということは事実だった。



 ソリス国が燃え尽くせるような力を持ちながらも、連絡もなく鎖国をしたシルバ国が滅ぼされていないのはシルバ国の王族がまともな人間だったからだ。五年間、シルバ国は音信不通となっていたがソリス国は事情を調べる人間をしっかりと送ってくれた。


 しかも王族の中でも地位が高い第一王子を。

 ソリス国の力を持ってすれば、いや、ロジュ一人の力があればシルバ国を燃やし尽くすことも、王族を全員捕らえることも難なくできただろう。しかし、ソリス国は冷静に対応した。


 これが強大な力を持ちながらもソリス国が他国から信用されている理由の一つだろう。


 この世界のリーダー的存在であるソリス国には伝えておくべきだった、というのがウィリデの口にした言葉の意味だ。ロジュは口の端だけを持ち上げるようにして笑う。


「次はないと思っておいた方が良い。次に同じようなことをしたらこの国はソリス国の一部となる覚悟をしておいてくれ」

「ああ、肝に銘じる。それで?」

「……? 何のことだ?」


 急なウィリデの雑な問いかけにロジュは首をかしげる。その仕草からは先ほどまでは感じなかったはずの幼さがにじみ出た。


「さっき、『ソリス国の人間としては』と言っていただろう? ロジュ自身としての意見は?」

「細かい部分まで聞いているな。だが」


 ロジュは一度躊躇するように目線を下に向けた後、再びウィリデの方に藍色を向ける。


「それを知ることに意味があるのか?」


 問われたウィリデの方には躊躇など一切ない。


「『シルバ国の王』としてではなく、『ウィリデ兄さん』としては知りたいかな」


 その言葉にロジュはふわりと笑う。彼の藍色の瞳が緩やかに細められる。先ほどまでの炎のような苛烈な印象とも冷酷な印象とも打って変わって、暗闇の中にあるただ一つのろうそくが灯す火のような雰囲気。

 その変わりように側で見ているヴェールは戸惑うばかりだ。その一方でウィリデは慣れているような顔をしている。


 ウィリデとヴェール、二人の間反対の反応など一切気にせずロジュは口を開く。


「俺個人の意見としては、そうだな。太陽は緑がなくても生きてはいけるが、ないとやはり寂しいものがあるな」


 ウィリデに会えなくて寂しかったというのがウィリデにも伝わったのだろう。ウィリデは少し罪悪感があり、口を開くことができなかった。


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