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三、森の真相とロジュの目的

「まあ、いい。それよりもウィリデ陛下の側に小動物がうろついているということは、解決したのか?」


 ロジュがウィリデの側にいる動物に目をやると、動物は怯えたように一斉にウィリデの元へと逃げ出した。


「俺は何もしていないんだが。なぜ逃げる?」

「本能的に感じ取ってしまうんだよ。動物は自分よりも強い存在に敏感だから」


 ウィリデの言葉になるほど、とロジュは頷く。動物が本能的に自分を強いと認定して怯えるのは、自分が強いということの証明のようで嫌な気はしない。


「解決したか、していないかで答えるとまだ途中という段階だ。根元は絶ったが小動物は完全には元の数に戻っていない」


 ウィリデがウサギをなでながら、思い出したかのように伝える。


「小動物が減少した理由は他国から入ってきた密輸者だった。ペットとして売ったら高額で売れるらしいから」


 五年以上前にはシルバ国は気がついていなかったが、シルバ国の小動物を勝手に捕まえて外国に持ち出す、ということが大量に行われていたらしい。シルバ国では動物を捕まえることは禁止されている。シルバ国の動物は捕獲が禁止されているため、質の良い動物がたくさんいるのだ。


 シルバ国の鎖国によって、この国に密輸者が入ってくることは少なくなった。もし入ったら森の中で迷子になり、森の中を長期間彷徨ったすえ、気がついたら動物を一匹も捕まえることができずに外にいる、という状態にさせた。そのようにすることで、密輸を激減させることができたのだ。


「他国のフェリチタを勝手に持ち出すなんて、命知らずなやつがいるのか」


 ロジュが驚いて声を上げる。ロジュにとって、フェリチタは最大限の敬意を払わなくてはならない存在。そして他国の大切な存在を勝手に持っていくなど、外交問題に発展しうる。もしロジュがシルバ国の人間だったら、戦争を起こしていたかもしれない。


「ソリス国の王族であるロジュはそうだろうが、そう思っていない人もいる。例えばシルバ国の動物は食べなくても、ソリス国の動物を食べることはある。これはシルバ国でも認められていることだ。あくまで手を出してはいけないのはフェリチタであるシルバ国の中での話。しかし、そこの線引きを上手くできない人が、手を出してはいけないはずのシルバ国の動物に手を出したということだと考えている。シルバ国に動物は他国よりたくさんいるからな」


「もしかして、その密輸者の中にうちの国の人間もいたのか?」


 おそるおそるといった様子でロジュが尋ねる。ウィリデは軽く首を振った。彼の肩よりも少し長い深緑の髪が首の動きに合わせて揺れる。


「ソリス国はいなかったよ。安心していい」


 ロジュはウィリデの答えにホッとしたように小さく息をついた。もしいたと言われたら、その瞬間にロジュは逃げようと思っていた。この場で攻撃されても、さすがに文句は言えない。


「それでどうして五年経っても鎖国を止めなかったんだ? それを突き止めるために五年かかったわけではないだろう?」

「察しがいいな。シルバ国の内部にいた密輸者は二年以内で全て見つけ出した。自国にもう帰ってもらったよ」

「罰せずにか? もしそうだとしたら、お優しいことだな」


 ロジュのその言葉にウィリデは声を出して笑う。


「そんなわけないだろう。その密輸者と密輸者たちの出身国にはしっかり損害賠償請求をしている」

「は?」


 ロジュが驚きで大声を出す。


「うわ、してやられたな。二年前に行われた国際会議では他の国はシルバ国がどうして公に姿を現さなくなったか、知らないと言っていたぞ。心当たりがあった国もいたはずなのか」


 ロジュが焦ったように髪をかき上げた。彼の藍色の目が鋭くのぞく。他国の王族も顔色を隠すのが上手いのだろう。全く、気がついていなかった。


「まあ、その該当国は隠すだろうな。自分の国民への教育が足りていなかったことになるから」


 慰めるようにウィリデが言うが、ロジュは頭を抱えたままだ。


「父上に他国に送っている密偵を見直すように伝えないとな。それか俺には伝えられていなかっただけか?」


 ボソリ、とロジュは呟く。シルバ国が鎖国し始めてから、他国に原因を知っている国はいないか密偵を送っていたのだ。しかしその密偵からはそのような知らせはきていないはずだ。


 そして、実はロジュも時間があるときに自身の手で調査をしていた。シルバ国が急に鎖国を始めた理由を求めて。それがシルバ国外に原因があったというのに、それを見つけられなかったことは、どこかで見落としている情報があったのかもしれない。



「情報を掴めなくても今回は仕方がないよ。シルバ国側としても非常に内密に行っていたから。自分の国のフェリチタを守れなかったというのはシルバ国側にとっても恥だからな。できるだけ知られない方がいい」

「俺なら見せしめのように他国に大々的に知らせるかもな。俺には全部教えても良かったのか?」


 ロジュからの問いに対してウィリデは躊躇なく頷く。


「ソリス国には伝えても大丈夫かと思って」

「ソリス国にそんな信頼があるのか?」

「ソリス国に信頼があるのは事実だ。それからロジュだから伝える、というのもあるな。ソリス国の次期王に近いとされているロジュには言っておいた方が良いと思ったのも理由の一つ。それから納得できる理由を言わないと、ロジュはこの国を乗っ取ったかもしれないだろう」


 ウィリデの言葉にロジュは首を振る。


「さっきヴェールにも言ったが、俺は王からは一番遠い存在だ。だが、後半は正解だ」


 ロジュの纏う雰囲気が一層威圧感を帯びる。太陽の強い光を一身に浴びながらロジュは口を開く。


「俺がソリス国の王から指示されたことは、シルバ国とその王族を見極めること。もし国を守る王族として不適格で、シルバ国の王族は国を守るに値しないと判断したら国を制圧してしまえと言われた」


 それこそがソリス国の王族であるロジュが一人でこの国まで来た理由。護衛や付き人がいたところで、圧倒的な強さを持つロジュの前では足手まといだ。


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