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三十一、覚悟は必要ない

 数日経ちシユーランがロジュの側近になることを公表したあと。思った以上にシユーランの印象が良くなったという話をラファエルから聞き、ロジュは驚いた。


「そんなに変わったのか?」

「ロジュ様の評価が高いですからねー」

「そんなわけがないだろう」


 ロジュの存在だけで変えることができるとは思えない。絶対にラファエルが裏で何かの情報を流した。


「ラファエル、お前のおかげだろう?」

「何がでしょうー?」


 きょとんとしているラファエルをみて、ロジュはため息をついた。この顔は、何もロジュに教える気がない。

 不思議そうにロジュとラファエルを見ていたシユーランが口を開いた。

 

「ラファエルの評判がいいというのも関係していそうですが。ロジュ様の人を見る目がある、ということで」

「いや、それは関係ないだろうな。ラファエルを側近にしたのは、ラファエルの方から申し入れがあったからだから」

「そうなのですか?」


 シユーランが赤茶色の瞳をぱちぱちとさせた。ロジュは頷く。ラファエルに視線を送ると彼は満面の笑みを浮かべた。


「懐かしいですねー」

「そんなに前ではないだろう」

「そうですけどー。例えまだ短い期間だとしても僕はロジュ様の側近になれたのが幸せなんですよー。だから、ロジュ様との思い出ばかりが脳内に記憶されるんです! 特別なんですよ!」


 キラキラと目を輝かせて言い切ったラファエルを見て、ロジュは首を傾げた。

 

「これからは、何十年もだろう? もっとお前の記憶に蓄積されていくはずだ。俺との記憶が『普通』になるくらい」


 まだ一年も一緒にいないが、これからは何十年だ。ロジュと過ごす時間はどんどん増えていくから、『特別なこと』ではなくなるはずだ。

 ロジュの言葉に、ラファエルが薄紫色の瞳を見開いた。ラファエルの口から、浅い息が吐かれる。それを見て、ロジュは自分の言葉に気がついた。

 

「え、あ。悪い。お前を、縛り付けたいわけではないんだ。すまない」


 そして、未来が当たり前に来るというような考えはよくない、とロジュは自戒した。ラファエルにだって、選ぶ権利はあるのだ。「ロジュを裏切らない」という誓いはあっても、ラファエル自身が好きなように生きることを「裏切った」とロジュはみなさない。だから、ラファエルは選べる。

 呆然としていたラファエルが、口元に柔らかい笑みを浮かべながら口を開く。


「……ロジュ様、言いましたね」

「え、ああ」

「僕と、何十年も一緒にいる覚悟、しておいてくださいね」


 そのラファエルの言葉に、ロジュはまた首を傾げた。


「『覚悟する』必要なんてないだろう」

「え?」

「覚悟は悪い状態に備えることだろう? お前がこれからも側にいるのは、悪い事態ではない」


 呆気にとられたようにぽかんとしていたラファエルであったが、次第に彼の頬が朱に染まっていく。

 口元を手でおさえたラファエルが視線を落とした。

 

「……ロジュ様、それ以上は止めてください」

「え、何をだ?」

「僕を褒めないでください」

「この前はもっと褒めろと言っていたのに……?」


 褒めようとして言ったことではないが、ラファエルは褒め言葉として捉えたらしい。

 それにしても、褒めるなと言われるとは思わなかった。人の心は難しい。


 頬から手を離したラファエルが、軽く首を振ってから浅く息を吐いた。ロジュから目を逸らしたまま、口を開く。


「ロジュ様。明日はリーサ様とデートですか?」

「それは延期になった」

「どうしたんですか?」

「リーサが別の日がいいと言っていたから」


 ロジュがそう言うと、ラファエルが目を見開いた後に頭を抱える。


「ラファエル?」

「いえ、なんでもないです。それでロジュ様は明日何をなさるおつもりで?」


 ラファエルが話を逸らそうとしていることは分かった。どうしたのだろう、とは思ったがロジュは無理に聞き出すことはしなかった。

 

「シルバ国に行こうと思っている」

「僕も行ってもいいですか?」

「いいが……。明日はせっかくの休みだぞ?」

「行きます」


 ラファエルの薄紫色の瞳が、ロジュを真っ直ぐに見つめる。その瞳を見てロジュは頷いた。

 

「分かった。明日の昼くらいに来てくれ」

「はい!」


 元気よく返事したラファエルがシユーランへの方をみて尋ねる。

 

「シユーラン様も行きます?」

「すみません。明日はエドワードと約束があるので」


 ロジュは瞬きをした。ラファエルの方へ目を向けると彼も驚いたような顔をしていた。


 エドワードのことを呼び捨てにしているだけでなく、明日も会うという。この数日の間に何があったのか。

 

 ロジュはラファエルだけに聞こえるよう囁く。

 

「……少しずつ仲良くなってないか?」

「これ、2週間もかからない可能性も出てきますねー」


 同じように小声で返したラファエルに頷く。ロジュとラファエルは賭けをしていたが、その期間より圧倒的にはやくエレンとの婚約が許される可能性もありそうだ。


「シユーラン様。また別の機会に今度シルバ国へ行きましょう。ウィリデ様とは会って損はないので」

「ウィリデ国王陛下は、ロジュ様と親しいのですよね?」

「そうだな」


 ウィリデと会ってから、少し日が経っている。

 今回ロジュがシルバ国へ行く理由。それは、絵踏みで使ったルクスの礼を言うためだ。

 

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