伝説の始まり…か?
授業を邪魔する馬鹿どもを重症を追わせて、警察病院行きにした後、俺はいつも通り授業に出て、面倒になったら、屋上に出てゴロゴロしていた。
俺の日常は、退屈でしかない。暴走族でもいい。不良でもいい。俺の日常に刺激を与えてくれるやつはいないものか…。
…数日後
「早く来てよ!」
「うるせぇなぁ…。無理やり起こしておいて、調子の良いことばっか言ってんじゃねぇ。」
「早くしないと始まっちゃうでしょ!」
「どうせ、当分は広告と放映予告が流れんだから大丈夫だって。」
「それも合わせての映画でしょうが!」
「へいへい」
俺が授業を終えて帰ろうとしたとき、校門に停められた高級車を見つけて嫌な予感がよぎる。この学校内でロールス・ロイス ゴーストを呼べる人間は一人しかいない。
咲子の父親は、国際企業の海外支店の支店長を務めるスーパーエリートで、実家も国内の大企業というサラブレッド。そして、咲子を超溺愛している。
俺が昔から咲子全く興味がないことで、父親とは大変仲が良く、両親が捜査で帰れないときには、快く迎えてくれて、鈴木家には俺の部屋さえある。もはや、咲子とは兄妹同然なわけだ。
そして、ロールス・ロイスで迎えに来るときには大概、自分が忙しいから娘をかまってやってくれという、回りくどい考えのもとの行動なのだ。俺も世話になってきたし、そのたびに結構な額の謝礼金を後に貰うから嫌々でも付き合ってやってるわけだ。
「というか、映画くらい女子友達誘って見に行けよ。」
「普通の女子がゾンビ映画についてきてくれるわけ無いでしょ!」
どうしてこいつがこんなに自信満々に威張り散らしてるかは、長く一緒にいる俺でも全く理解できない。頭の思考回路のネジがぶっ飛んでるんだろうか。
あぁ…そういえばこいつ、中間テストの結果平均点にすら届いてなかったっけ。ちなみに俺は、数学以外は全科目満点で、総合でも学年トップの成績を誇っている。
その後、大して面白くもないゾンビ映画を横で興奮しているバカ女を眺めながら、時間が過ぎるのを待っていた。
2時間後…
「いや〜想像以上に面白かった!そう思うでしょ!?」
「どうしてそう、全く面白くもない映画でそんなに興奮できるかもわからんけどそれ以上にお前の思想を押し付けてくんな。」
「何が気に入らないの?」
「何が?そもそも俺は、男子メンバーと野球しに行く予定だったのよ。それをお前が無理やり連れてきたんでしょ?せっかく部活休みだったのに。」
「私といるのがそんなに退屈なわけ!?」
「永らくそう言ってきたはずだけど、今更気づいたのか?少なくとも小5の時点で言い始めてたけどな。」
「…」
「気分を害したか?悪いけど、俺はお前の親でもなければ実の兄弟でもない。お前の父親から仲良くしてくれと頼まれてはいるが、それはあくまでも俺が暇なときだ。」
「いつも付き合ってくれてたじゃん!」
「いつも?いつもじゃない。お前の父親が俺が来れなくなったといった時は大概事前に予定があったときだ。そもそも、女子友達が来てくれないってさっき言ってたが、お前友達いたのか?あれだけ女子メンバーからはぶられてんのに。」
「それは…」
「言っとくけど、これまで女子たちが付き合ってくれてたのも、親のお陰ってこと忘れんなよ。我儘言えば許されんのは、お前の両親だけだかんな。」
「もういい!!」
「ほら、すぐキレる。」
「うるさい!」
そう言って咲子は、俺に回し蹴りを食らわせていた。まぁ、
これまでは俺の善意で防いでいたが、そもそもたかだかお遊びで合気道やってるやつの回し蹴りなんて当たらん。こいつが倒したって言うチンピラも親が用意した俳優だ。
完全な温室育ちの箱入り娘が、両親からバンバン鍛え込まれた俺に当てにくい回し蹴りを当てられるわけ無いだろう。
俺は、こいつがつかれるまで付き合ってやることにした。
映画の撮影と思ったのか、多くの方々が見ていた。
5分もしないうちにバテバテになった咲子は、肩で息をしていた。俺はこいつが俺に公共の場で回し蹴りを放ってきた段階から撮影し、その動画をこいつのパパンに送っておいた。
すぐに関係者が飛んでくるだろうな。こんなお転婆娘のことが知られれば株価にも影響してくる。
そうこうしていると、エスカレーターを駆け上がるようにして、こいつの家の執事が飛んできた。そして、俺に会釈すると暴れる咲子を遅れてきた仲間と担ぎ上げて連行していった。
まぁ、自業自得だが今回は相当怒られるだろうな。最悪、引っ越すことになるかもな。
俺は、彼らを見送った後、コーヒーを飲みながら海を眺めていた。今更野球しにいっても遅すぎるし、とは言えゲームをやる気分にもなれん。
さて…どうしようか。
そんな事を考えていると俺の視界の片隅で気弱そうな女子二人をナンパする馬鹿共を見つけた。…気晴らしに潰すか。
俺は、親父に連絡をいれると現場に向かった。
「なぁ、いいだろ?こんな何処にいてもつまらないからさ、俺等と遊ぼうぜ?」
「金なら俺等が出してやるよ。こう見えても俺は御曹司なんだ。少し位いいだろ?」
「い…いやです。」
「なんでよ、まぁ一緒に来てもらうから関係ないけどね。」
馬鹿どもが無理やり彼女たちの腕を摑もうとしていたので、
俺は着ていたパーカーのフードを被り、こういうときのために常備している夜叉面をつけ、特殊警棒を抜くと彼らに近づいていった。
「おい、そこまでにしとけや。」
俺はそう言って、一人の肩に手を置くと後ろに引き倒した。
「うがぁ!」
「何しやがるてめぇ!」
「腰が随分と引けてるが?女には凄めるくせに、夜叉面にはびびんのか?」
「ざけんな!」
振りかぶった手を特殊警棒で絡め取るとそのまま腕をへし折った。そのまま、そいつの首元に手刀をぶちこみ意識を刈り取った。
「凄い…。」
「君等危ないから施設に入っててもらえます?あぁ、警察は呼んであるので大丈夫ですので。」
「あ…ありがとうございます!行こう!」
逃げる子達を捕まえようとしたやつの手を掴み、そのまま一本背負いで叩きつける。ただし、やり過ぎて殺してしまわないように柔らかい場所に軽く落とす。まぁ、それでも骨は折れると思うが。
「い…いてぇ!」
「んで?まだやります?」
「ぶ…ぶっ殺してやる。」
腰が引けてるやつの一人が、ポケットから折りたたみナイフを取り出した。
「俺も警棒使ってるから別にとやかく言わねぇけど、それ取り出した時点で殺人未遂つけられるけどいいのかい?君、御曹司じゃなかったっけ?親御さんの会社の株が暴落しちゃうよ?」
「う…うるせぇ!」
そいつがまっすぐ突き出したナイフを警棒で叩き落とすと、ゴルフのスイングの要領で、海に向かって打ち上げた。
「え…」
俺は呆然としてるやつの意識を刈り取り、残るは一人となった。なったが、残ったやつは明らかにこれまでのバカどもとは雰囲気が違う。
「お前、すげぇな。一人で無傷でコイツラをのしちまうなんて。それも一人も重症を負ってねぇ。まさに喧嘩の天才ってとこか?」
「あんたは来ねぇのか?」
「俺は、勝てない喧嘩はしないタチでな。それに、そろそろ警察来んだろ?こいつらは、世話してやってるだけで、仲間でもなんでもないからな。」
「そうなんだ。」
「お前だろ?この前、黒狼達を病院送りにしたって言う中学生は。名前は、冴島大輝っていったっけか。」
「だとしたら、あんたは?」
「俺は、不死鳥"フェニックス"の頭張ってる成川悟だ。お前は見たところ、喧嘩に飢えてるってところだろ?強すぎるがゆえにまともに相手にできるやつを探してるってところか?」
「よく分かるな。」
「俺とおんなじ匂いがするんだな。」
「で?何が言いたい。」
「うちに来ねぇか?」
「あんたに下に入れってか?」
「チームに入らなくてもいい。正直、俺でもお前に勝てるビジョンが見えん。だが、協力関係にはなれる。お前は強いやつと戦える。俺等はチームを拡大できる。そんな関係よ。」
「面白そうだが、まずはお前のチームを見てみないと考えられないな。」
「そりゃそうだ。今度、改めて迎えにいく。これ、俺の連絡先だ。」
「あぁ、楽しみにしておく。」
「それじゃ、またな。」
そう言って、成川悟という男は足早に立ち去っていった。
この男との出会いが、俺の日常に変化をもたらしていく。