ボクシング経験無いのに…
「ハァハァ…。まさか、一発も当たらないなんて。」
「まさかこれほどとは。まさに神童じゃな。」
「榊選手のパンチを全部見きるなんてそんなことできるやつがいるなんて。」
俺達のスパーリングは結局、そのジムにいた全員が見ていたようだった。そうだ!負けた罰に榊くんの弱点をここで大っぴらに公表したやるか。
「なあ、榊くん。君には大きく2つの弱点があるんだけど把握できてる?」
「弱点…いいえ、わかりませんが。」
「正直、おれはそれを見抜いたおかげで簡単に回避できたんだけど。」
「教えて下さい!今後の試合に向けて参考にします。」
「まず第一に、ジャブを打つときにいちいち止まる癖直したほうが良いよ。」
「え?」
「ほれみろ。強いやつには見抜かれんだ。アマのときからさんざん注意してきただろ。打つ前に思考すんじゃなく、モーションに入る前に考えとくんだ。昔に比べたら、随分増しになったがまだ改善できるようだな。」
「…すいません。気をつけます。」
「第二に、フックとかジャブ以外を狙うときに軽くジャンプする癖も直すべきだな。」
「結局、私から言われたところが直ってないということだな。しかもそれをボクシング未経験の人間に見破られて負けたとなれば、チャンピオンどころか、プロ失格だな。」
「ここでイチからやり直せば?」
「ここでやり直す?」
「どうせ、俺もここでボクシングやるつもりだから。休みの日とかさ、ここに来ればスパーリング付き合ってあげるよ。俺もアマ相手ばかりだと飽きるからさ。」
「榊、そうしろ。彼は明らかにお前よりもポテンシャル面で格上だ。ここにボクシングのスキルが身につけばお前では到底勝てない存在になるだろう。そんな相手がいることはこの先お前が世界を目指す上で大切なことだ。」
「わかりました。冴島さん、今後とも宜しくお願いします。」
「おう。」
「冴島くん、来月から全国アンダージュニアボクシング大会の地方大会が全国各地で開催される。静岡の開催場所は清水総合運動場だ。君の実力があれば、地方大会で優勝することなんて造作も無いことだろう。簡単なルールと基礎を学べば楽勝だ。君の了承がもらえるなら、ボクシング連盟への登録と大会出場登録も済ませておくよ。ボクシング連盟の登録用紙に親御さんに記入してもらう項目があるから書いてもらえるか?」
「冴島さんなら、大丈夫だよ。榊くんのパンチを全部避けた上で、弱点を看破できる人が中学生レベルで負けるわけがないっすよ。」
その場にいるジム生たちは口を揃えて俺を後押ししてくれた。まぁ、誰が考えても日本チャンピオンのパンチを飄々と避けているやつが中学生レベルの大会で負けるわけがないと思うんだろうな。
「それなら、出てみようかな。」