ボクシングやってみた
榊くんに連れられて来たのは、静岡市内にあるこじんまりとしたボクシングジム。
ロッキーもそうだが、有名ボクサーの原点はどうしてこんな場所なんだろうか。
「お久しぶりです、有村さん。」
前触れもなくドアを開けた榊くんは、選手の練習を見ていた中年に声をかけた。
振り返ったその人を見て俺は強いと本能的に感じた。
「いきなり電話が来たからびっくりしたが、リングを貸してほしいということだったがどういうことだ?ケンカに使ってほしくはないんだが。」
「違いますよ。悟さんが見出した人がボクシング始めたいって言うんで、実力を確認してあげようと思いまして、ここの存在を思い出したってわけです。」
「その始めたいって子がそこのガタイがいい子かい?」
「そうです。これでもまだ中学1年なんですよ。それでも高校生や社会人のチンピラ複数人を一人で病院送りにするほどの実力はあるんです。ケンカの腕に関しては、自分も実際確認しているので、間違いありません。階級はミドル級ってところかと思います。」
「そうか。ならまずは、とりあえずミット打ちから確認してみようか。その後、軽くスパーリングでもしてみるとするか。榊、せっかく来たなら後輩の面倒でも見てやれ。」
「良いですよ。じゃあ、冴島さん。あとは、こちらの有村コーチに聞いてください。」
そう言って、榊くんは俺をおいて二階にあるという選手コースの練習施設に行ってしまった。
「じゃあ、先程の説明通りミット打ちからしてみようか。だが、まずはグローブのはめ方からやってみようか。」
「それは自分でできます。親に教わりました。」
「親御さん、ボクシングしてたの?」
「ボクシングはしてないですけど、総合格闘技の選手経験があって、警察の特殊部隊にも所属していたので、その経験で昔から死後荒れてきましたので。」
「それは凄いな。じゃあ、とりあえずミット打ちから始めよう。」
俺は、グローブを付けながら一抹の不安を感じていた。俺のパンチを受けて生きたのは、バリバリの戦闘班だった両親だ。この人が榊くんを育てたとしても、俺が本気でミット打ちなんかしたら肩が壊れてしまうのではないか。
そんなことを時間が得ながら、俺はミット打ちを始めたのだがそういう不安を当たりやすいもので。
「うがぁっ!?」
一撃でコーチの肩を脱臼させてしまった。
相当でかい声でコーチが唸ったので、榊くんが飛んできたのだが、状況を把握した榊くんはアイシングをすぐに用意してコーチを座らせていた。脱臼自体は、コーチが自分ではめていた。
「お騒がせしました。さすが、冴島さんです。やはり私がお相手します。」
「でも、体重差あると思うし、正直言って榊くんを怪我させると嫌だからとりあえずまず3分間俺が榊くんのパンチ避けるから本気で打ってみてよ。手加減とかしなくていいから。」
「本気ですか?」
「ここでよけきれれば、中学ボクシングなんて余裕でしょ?」
「それはそうですけど。」
俺の提案により、スパーリングが行われることとなった。ルールは、3分間榊くんのパンチを避けきれたら俺の勝ち。貰っちゃったら俺の負け。
「じゃあ、良いですか?はじめ!」
榊くんは、想像していた以上の存在だった。ジャブのスピードは、母さんに匹敵するし、フットワークは父さんみたい。でも、みたいってだけ。二人の下位互換みたいな存在って思った。1分が立つ頃には、榊くんの攻撃パターンと癖を見切れるようになってきた、
榊くんはジャブを打つときには一瞬止まる癖があるし、フックを打つときには軽くジャンプする癖がある。よく見ていないと気づかないし、気づいても普通は試合中に判断なんかできない。普通なら。
俺の場合は、それができるように鍛えられてきたから。相手の動きに合わせて最適な攻撃を与える。
攻撃の意識をすべて回避に回せるなら、避けきるなんて造作も無いこと。結局、榊くんがへとへとになって3分間のスパーリングは終了した。
「そこまで!」