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サイバーパンクの浮浪者  作者: 藤二井秋明
2/10

いい加減こんな襲撃には辟易している②

 俺は四つん這いになり、奥の廊下に向かって進んだ。その先には裏口があり、彼女が仕事場にしていたガレージがあるからだ。


 侵入してきた奴らの足音は既に五人分程度に増え、暗がりや、隠れられそうなスペースを片っ端から銃で撃ち払っていた。

 奴らは互いに発声することも、ハンドサインを送ることもない。全てはデジタルの、無線の、0と1の情報のやり取りで事足りる。

 モブアンドロイドAが発砲し、そこに誰も隠れていないと認知したのであれば、それはモブアンドロイドAからEの全てが認知したのと同じだ。だから彼らの戦術能力は、単純に5体だから5倍、と都合よくはいかない。言うなれば5の5乗倍の情報処理能力で、圧倒的な効率性を発揮することが出来るのだ。


 結論、俺が持つ選択肢は二つ。

 一つは奴らに見つからずにこの家を出て、可及的速やかにこの街を退散すること。可能であるなら最も望ましい展開だ――そして限りなく不可能に思えた。

 もう一つは、奴らに戦術をとらせる暇を与えず、一撃で全員を葬り去ること。これは現状不可能だが、ガレージまでたどり着けば可能かも知れなかった。


 俺は気付かれないまま、キッチンから廊下へと出た。そして暗い奥の方を見つめた。思わず舌打ちが出た。ドアが閉まっていたからだ。


「……いつも閉めないくせに、今日に限って閉めてやがる」


 が、閉まっていようといまいと実際大した違いはなかった。廊下の直線が少々長過ぎたのだ。四つん這いで進んでいては、裏口にたどり着く前に奴らが廊下に来てしまっただろう。そして俺がケツを向けているとわかると、余分な尻穴を弾丸で作ってくれようとするのだ。


 銃声は絶え間なく聞こえてきた。そして、段々こちらに近づいてきていた。

 俺は壁際に積まれた段ボールを見た。立ち上がって一番上の箱を覗くと、中に炭酸飲料の瓶が2、3本残っていた。

 俺はそれらを全て片手で掴むと、奴らが既に確認を終えたスペースに向かって投げつけた。瓶は大きな音を立てて割れた。

 

 奴らはアンドロイドだ。アンドロイドは賢い。

 賢いとはどういうことか? 全てに疑ってかかるということだ。


 既に“俺はいない”とされていた位置から反応が出たことで、奴らはそれまでの情報を修正した。AIの脳みそというのは、これまでの思い込みを簡単に捨て去ることが出来るのだ。


『BカラEニ告グ。モウ一回最初カラヤリ直シ』


 きっとこんなやり取りをしているのだろう。賢過ぎるとこうなる。

 奴らが玄関の方に戻っていったので、走って裏口のドアを開けるだけの時間を稼げた。


 俺は全速力で走り、ドアと枠との境目を見て一瞬で押し引きを判断し、押してガレージに入ると急いで閉めた。無意味ではあったが鍵もかけた。


 ガレージには彼女が修理していた自転車が1台あった。周りのコンクリートの壁には棚がグルリと打ち付けられ、工具や部品が並んでいた。

 鋭い足音が廊下から迫ってきた。二人分だった。


 ADX-5型は俺の予想よりも少しだけ賢かったようだ。再確認を3体に任せ、2体は俺を追ってきたのだろう。

 

 俺はシャッター付近の棚に置かれた、大きな2つの袋を見た。


 先にシャッターを開け、逃げ道を確保した。外は汚い、地下世界の夜だった。


 鍵を閉めたドアが勢いよく蹴破られた。2体のアンドロイドが俺の姿を捉えた。すぐさま二つの銃口が俺を見た。まるで1対の瞳が焦点を合わせるようだった。


 俺は横っ飛びでガレージの外に転がりながら、2つの袋を力いっぱい奴らにぶん投げた。

 奴らの掃射は空中で袋を穴だらけにし、中から石灰がもうもうとたちこめた。


 ガレージは真っ白になり、視界は遮られた。

 奴らは粉塵爆発を恐れて発砲を中止した。ので、俺は拳銃を5秒後発砲にセットしてガレージに投げ入れ、走ってその場を後にした。


 彼女の家は爆発した。俺は走りながら振り返った。

 ガレージの屋根が吹き飛び、開いたところから空に向かって、部品だの自転車だのが飛び出した。


「悪い。お前の家吹き飛ばしちまった」


 無線をオンにして謝ってみた。応答は無かった。

 逃げる途中でボロい自転車を見つけた。鍵を壊して盗み、それに乗って俺は街を去った。

 

 次の街へ続く唯一の道はスクラップ連峰だった。自転車を捨てて歩かねばならなかった。

 道中でラクダの行商を見つけたので、一晩休ませてもらった。

 翌日目が覚めると、彼女が拷問にかけられて殺害されたというニュースを聞いた。


 俺の脳みそは最初寝ぼけていて、大した反応が出来なかった。

 俺は行商に礼を言って先に発った。

 泣きながら歩いた。高々3ヵ月の付き合いだった。その3ヵ月の付き合いが彼女の命を奪った。

 

 どうして襲われるのか俺には分からなかった。地下世界の全ての街が、俺を狙っていた。きっと次の街でも狙われるだろう。

 もうたくさんだった。


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