いい加減こんな襲撃には辟易している①
俺は襲撃を受けていた。ゆく先々の地下街で、何ヵ月も……何年も襲撃は続いてきた。
俺を襲撃するのは無数の機械群だった。奴らは犬のように俺の匂いを辿り、猫のように闇の中で俺を捉え、しかしその姿は人間とさほど変わりなく、発砲するときは人間より遙かに容赦無いのだった。
俺の頭上を、掃射された弾丸が音を立てて通り過ぎていった。とっさにキッチンに飛び込んで隠れた。色々な物が割れ砕ける音がした。陰越しにそっと壁を確認すると、幾つか星座を結べそうなほどの弾痕が、無表情に並んでいた。俺は星なんてものは画像でしか見たことが無かったが。
俺は無線で、女に向かって言った。この街で俺をかくまっていた、若くて優しい女だ。彼女は先に家から逃がしてあった。もちろん、この家は彼女の家だ。
「オリオン座やおうし座がどうやって出来たのか、今わかった。知りたいか?」
「知ってもどうせ本物は見られないじゃない。私たち一生“上”には出られないんだから」
「ほとぼりが冷めたら戻ってきて、ダイニングの壁を見てみな。綺麗なのが出来てる」
「死なないでね。またどこかで会いましょう――」
無線は切れた。
彼女と“またどこかで会う”のだとしたら、それはこの家以外にはなかった。なにせ彼女にはここ以外に生活する場所が無いのだから。
そして俺は、一度迷惑をかけた者に、再びすがりたくはなかった。
結論を言えば、もう二度と彼女と会うことは無い。逃げて、次の街へ行かなければ。
ADX-5型――人型戦闘アンドロイド――の先陣が、屋内に突入してきた。
俺の武装は、とても奴ら全員を相手にできる代物ではない。拳銃が一丁、弾丸が六発、そして今キッチンの収納スペースから拝借した、出刃包丁が一本。
仮に今5型の部隊を殲滅したとしても、すぐに応援部隊が来るだろう。俺は彼らを“撒く”ことを考えなければならないのだ。