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その親友、3分間

「じゃあ、今日はここまで」

 教師と生徒、お互いに緊張の糸がほぐれる。

「きりーつ」

 本日最後の号令を、日直が疲労感を声に上乗せしながら声を張り上げる。きょうつけれー、ありがっとーございましたー。

 ばらばらとクラスメイトが教室から開放されていく。が、同じように人の波に乗ることは許されないのだ。はぁーあ。

 大体生徒も帰り終わった頃。

 読んでいた本を閉じる。さて、「行きますか」

 机に出しっぱなしの教科書やノートを鞄に放りこみ、立ち上がって教室を出る。向かう先は校門じゃないっさ。

 自分の教室から、右に二つずれた教室。

 のぞくと、そこには騒ぐことがいけないことのような静けさに包み込まれた教室と。

「くぅ……」

 すやすやと寝息を立てる、教室と同化しかけている人間一つ。

 溜め息が出る。というか出したい。「はぁ……」コレのせいで毎回家に帰る時間が遅くなり、バイトに出る時間も遅くなる。大変迷惑きまわりない。

 近づいて、ゆさゆさと肩を揺らす。反応なし。

「起きんかいっ」頭をひっぱたたく。髪の毛さらっさら。

 ビクッと一回大きく体が痙攣し、それからゆっくり頭が持ち上がる。

「んぁ……? ふぁ……ゆーくん」

「…………」

「どしたのー? ふゅー……」こっくりこっくり……。

「起きろ」ぺしっ。

「いたーい! ゆーくんがいじめてくるー!」

「誰のせいで叩かなきゃいけないかわかってんのか」このバカめ。

 弘海友加里。幼馴染。以上。

 友達以上親友以下恋人未満、ってとこだろうか。俺達の関係は。漢字が多いからきっとおバカな弘海は読めんだろう。

 この高校に進学してからというものの、弘海はよく寝るようになった。

 それを見っけてしまった俺が親切に起こしてやれば、弘海の口から出た言葉は一言。

「これからも起こしてね、ゆーくん」

 俺はお前のなんなんだ。え?

 それから、不承不承毎日の放課後に『わざわざ』教室にやってきては、弘海を起こしてやっている。が。

「ほら、さっさと起きろ。帰るぞ」

「えー、やだー。……あとさんぷんー」

「3分てお前な……」「すー」「おい」

 毎日起こしに来ても、毎回口から出る言葉はあと3分。何歳児だお前。

 言ってやろうにも、すぐ寝る。いつか寝る前に何か一言いってやる。

 一旦寝ると、再度見るその寝顔を見る気力は失せる。

教室の窓辺に避難しつつ、律儀に3分間待ってやる。最近は慣れてきた。嘘だな、うん。

 だいたい、こいつの行動はまったくわからん。日中これだけ寝るってことは、夜間ずっと起きてるのか? こーこーでびゅーと共に昼夜逆転もでびゅーしたか?

 ……夜、なにしてんだろ? こいつ。

 遠くから弘海の寝顔を盗みしつつ、思う。結論はどうせ一つだけども。

「彼氏、かぁ……」他校の奴、らしい。ちょっと前に報告された。

 毎日毎晩真夜中でーと、ってか。はっ。ウラヤマシー。ヒガンジャウワー。

 話題中止。精神的に病みそうだ。キィー。

 というか、こいつは俺に毎日起こしに越させているのをなんとも思ってないのだろうか。だとしたら相当の悪女だなー、なんて思いつつ。

 やっぱり寝顔がかわいいな、なんて思う俺はバカなんでしょうか。じんせいむなしー。

 叶わない片想いほど、重いものはないのさ。……。うっわ。

 オヤジギャク寒っ。

[newpage]

              ※  ※  ※


 3分後にまた叩き起こし、一緒に校門をくぐる。

 そのまま一緒に歩く。っておいおい。

「あ、新しいドーナツだってー!」

 弘海がドーナツ屋の前で立ち止まる。そして買ってほしいなビームでバシバシ俺に攻撃。うがー。……買えばいいんだろう買えば。

「……いつか返せよ」バイト代がー。

 弘海のとびきりの笑顔から顔を逸らしつつ店内へ。わっかドーナツがたて髪のライオンが目に入る。ってたて髪がドーナツならあの生き物はライオンではないだろ。

 弘海は人の金だと思ってばしばしドーナツを購入。人のバイト代を本気で食いつぶす気でいるらしい。

 俺はお得な水をコップに注いでレジへ。0円なり。弘海の分は財布の札入れから野口さん消すのに十分な額だった。こんちくしょーい!

 二人分の席を見つけて、向かい合う形で座る。

……本当にいいのかこれで。

「いっただきまーす」

 目の前にでっかく居座る俺のことなど関係ないのか、さっそく新作ドーナツにかぶりつく弘海。こっちとしては非常に緊張するようで実際あんまりしてないのですが。

 今さらながら、質問。

「弘海」

「んむ?」

「ドーナツなら彼氏と食えばいいじゃんさ。何故に俺と?」いや俺食べてないけど。

「むーっぉううーみみーふーん」「あーはいはい」食べてる時にしゃべらせるんじゃなかった。

 一旦口の中のものを飲み込んでから、弘海は再度口を開く。

「だって、今部活中だもん。彼氏」

「……もし、これが見つかったらどうするんだよ」

 俺個人としては、ケンカになることだけは避けたいのだが。

「べっつにー。必要ならゆーくんは幼馴染で私の下僕だよーって言うから大丈夫!」

「明日からは学校に目覚まし時計を持って行きなさい」

「? なんでー?」

 人の皮肉を理解できないとは。よく高校に進学できたもんだ。感心感心。

「もう明日から起こしてあげません」

「えー! なんでー!?」

 いつも親切心と幼馴染という腐れ縁だけで、毎日起こしてもらっているというのになんだその態度は。お兄さんおこったぞー。

 と。なにはともあれ。

いつものどーでもいい、くだらない話をして。

 先ほど同様、なんとなく幸せを感じる俺って。自分に軽蔑とため息を。はぁ。

 人生十六年、誰からの好意も悪意も感じずに図太く生きてきた顔とはよく言われる。

 でもさ、顔と心って、果たして一緒だろうかね? 意外に心は他人に対しちゃ敏感です。

 好意や悪意のベクトルなんて、いやってほどによくわかる。

 だから。

 弘海の俺に対するベクトルの中に、スキってベクトルは詰まってない。キライってベクトルもないけど。

 あいつのスキってベクトルは、俺の知らない誰かさんに向いていて。

 それを思うと、今こうして話をしててもなんの発展もないんだなーって思う。

 こんな雰囲気が、嫌いってわけではないけど。

 でも、空しいのさ。あっははのは。

[newpage]

              ※  ※  ※


 今日復習しなきゃいけないのはー、現代社会とー、数学Ⅰとー、古文―? あとはー、そだなー、世かぴろろろろりん「っの」っとと。

 静かな自室で静かに勉強を開始しようとした矢先の着信音。びっくりさせんなよー、ちきんはーとなんだからさー。ぷんぷん。

 ケータイを開くと、画面は「弘海」と叫んでいた。ヒロウミヒローミ! 

 着信音がなんとなくそんな風に聞こえ始めた。慌てて受話器取ってるよボタンを押す。

「もしもし?」

『あ、ゆーくん?』

「なんか用?」声裏返ってないよな? うん低い低い。

 片手で応対しつつ、椅子に腰をおちつけて勉強を開始。高校に入ったとしても復習せねば追いつけませんよ、おつむのほどは中間的だから。

『用事なかったら電話しないよー』ですよねー。『今からさ、ちょっと公園来てくれない?』「は?」何を言い出すんだこのバカは。

 うーんとか、えっとーとかごにょごにょ理解不能な言語をつぶやいた後、弘海はぼそっと日本語をしゃべった。

『星が、見たくなって』

「星?」そりゃまー突然。

『うん』「何度も言うが、俺じゃなくて彼氏を誘いなさい」『今から寝るっていうから』なんて彼氏だい。てか代替要員かよ俺。空しさ倍増だなオイ!

 窓越しに外を見る。雨は降りそうにないけど、まだ肌寒い春の夜だ。ちょっと厚着し

ていくか。

「って」なに勝って行く気になってんだ俺。大丈夫かおい。

『ゆーくん、ダメ?』

「あー……」黙考。ちらりと勉強の山を見る。「どこで見たいんだ? 星」

 行く気以前に、一人じゃ危ないだろう。最近不審者多いし。

 っていう言い訳。

『おお! 来てくれるの! ありがとー!』

 場所は、昔よく遊んだ公園だった。いやー近い近い。

 はぁ。気乗りする体と重くなる心。やれやれ。

 いいかげん、踏ん切りをつけないと「いけませんなぁ」親父からもらった革のコートを羽織る。いやーでかいでかい。

 親に出かける旨を伝え、玄関から表へ出た。途端吹きつける風。寒さに思わずコートの前をしっかり閉じてしまう。

 ちょっと大げさだなぁと一人でにやけつつ、ゆっくり歩いて公園へ。

 近所のいつもやかましい犬や、どこかに住みついている野良猫も見当たらない夜道を通り抜け、あっというまに目的の公園へ。

 ここの公園、公園だというのに電灯がない。おまけにちょっと住宅地からも離れているので、ほとんどまっくら。

 というわけで、お母様方には夜は嫌われている公園だが、星や月を見るときには最適ってわけで。

 しっかし暗いなー。ベンチどこだよ。

 しばらくして暗闇に目が慣れて、ようやくベンチを発見。にしても遅いなー弘海のやつ。ほんとどこほっつきあるいて「ゆーくーん」といってたら来た。呼ばれたときに飛び上がってベンチにすねぶっけたのは内緒。

「おまたせー。待ったー?」

「ああ……いや……ぜんぜん」いてぇ。すねが。弁慶だって泣く場所だぞ。

 真っ暗闇なのでどうにか涙目はばれずに済んだ。それでいいのかって話でもあるけど。

「では、さっそく星をみましょー!」

「お、おー」

 なんとなく拳を突き上げた弘海にならって拳を空に。でも肝心の星はあんまりみえねー。月もイマイチな形です。

 ベンチに二人で座る。意識しないように、少しだけ俺が離れて。

 それから、お互いあんまり話すことなくただ上に光る点を見つめる。隣の弘海は嬉しそうだけど、俺はそこまで気が弾むわけじゃない。

 というか。

 最近、イライラしてきた。鈍感っていうか、バカっていうか。

 わざと誘ってないか? こんな夜に、いちいち俺を誘って。

 もう、叶わないって諦めたんだから。

 せめて、綺麗にただの友人に戻してほしいものだ。これ、切実に希望。

 本人に話す気はさらさらないけどねー。ふははは。

 もう彼氏の話なんて聞いても俺が幻滅するだけと悟ったので、学校の話を。

「な、勉強追いつけてる?」

「べんきょー? んー、どーだろ」自分のことだろ。それぐらい知っとけ。

「毎日寝てるっぽいけど、大丈夫なのかよ?」

「むー、ひどいなゆーくんは。ちゃんと私だって起きてるよー」「そりゃ失礼」「一時間目だけ」「おい」それHRだけってことかい。

「でもさー、ほんと高校なんて私行きたくなかったんだー」

「……は?」

 何を唐突に。

「いや、なんてーかー。ぬー……」

 隣で腕組したり頭を抱えたり、忙しそうな奴だ。頭の中の国語辞典が少ないとこうなるんだな、きっと。あー星きれー。星座しらねーけどー。

「誰か、知ってる人と一緒にいたかった、から」

 夜空を見上げていた目とは別に、耳は静寂以上の何かと共に弘海の言葉を拾い集めた。

 唐突過ぎて、隣に顔を向けられない。金縛り。

「だから、私は、ゆーくんとおなじ学校に行けてよかったと思ってるよ」

「……それだけで学校行くなら、」喉が変に渇く。

 これじゃまるで。

「彼氏のいる所にすれば、……よかったじゃんさ」

 思ってることとは別に、口と舌は勝手に動くようだ。言ってから目がじわっと染みる。

 まだ顔を下げられない。恥ずかしすぎて体が熱い。冷たい風よ吹けーい。

「むー。いっつも思うんだけど、ゆーくんって私を遠ざけるよねー」そりゃね。

 彼氏彼氏な弘海は、よっとちいさく呟いて立ち上がり、公園の真ん中へ。

 俺が視線を向けると、突然回りだした。ダンスかなんかのつもりか。

「だいたいさー、ゆーくん私に彼氏はどうしたとか彼氏はいいのかとかいっぱい聞いてくるけどさー、それって何? 彼氏に気、使っちゃってるー?」

「あ……当たり前だろ。面倒ごとになったら嫌だから」「でもさー」人の話をきちんと聞きなさい。

 くるくる右足を軸にして回っていた弘海は、惰性でずずずとまわりながらも動きを止め。こっちとちょうど視線が合う。

「ゆーくんの言ってる彼氏、どこにいる彼氏だい?」

「どこにいるって……はぁ? なに言ってんの?」

「さぁ? なんだろーね?」

 くすくすと、面白そうに笑う。たいそう面白そうに。

 その顔に、いつかの記憶レコードが脳内再生された。あぁ、あの時あいつ――

「…………弘海」

「昔みたいに、ゆかりんって言ってくれないんだね、ゆかりんしょーっく。しくしく」

「まてまて」いつ呼んだそんなあだ名。


              ※  ※  ※


「きょーつけー」

 あざっしたー。

「気をつけて帰れよー」

 だらーっとした生徒の号令に、これまただらーっとした先生の注意喚起。まーだらけてるほうが息がつまらなくてちょうどいい。

 机の上の教科書を片付けずに、本を開いてゆっくり読む。高校にあがって三冊目だ。ちょっと小難しい辺りが気に入っている。意味はなんとなくわからないけど。

 しばらくしてから、ふと顔を上げるともう教室には俺以外に誰もいなかった。

 では、動きますか。いつものように教科書、ノートを適当に詰め込む。

 自分の教室を出て、隣の隣の教室へ。

 いつもの静寂の中、ほとんど教室の一部になった頭を見つける。

 近づき「起きろ」叩く。

 いつもなら体が痙攣するはずなのに、今日はない。故障か?

 不思議に思って何度も叩く。ぺしぺし。

 それでも反応がない。

「お?」弘海の机から落っこちたと思われる本。拾ってみる。

 白雪姫だった。昔こいつが好きだった話。

 毒りんごを食べた白雪姫は、現れた王子様のキスによって息を吹き返す。……。

「いい加減にしろ」するかボケ。

 本の角でちょっと強めに叩く。「イタ」さすがに声が出た。ざまみろ。

「うー……ゆーくんいじわる」

「どっちがだ。さっさと準備しろ。帰るぞ」

 今度は白雪姫の表紙でぽすぽす。弘海はイヤイヤしながら顔を両腕枕の中へ。

「やだーやだー」

 くぐもった声。その次に続く言葉は、

「あとさんぷーん」やっぱり。

 溜め息混じりに誰かの椅子に座る。あと3分。

 ちらりと弘海の寝顔を盗み見る。すやすやと寝息をたてて、本当に寝入ってしまっている。

 もう、大丈夫。

 これから3分間は、ゆっくりこの本を読み終えるとしよう。

 [newpage]

             ※  ※  ※


 踏ん切りは、ついたから。

「まだまだ寒いねー。春なのに」

「だからって人の足を枕にするんじゃない」

「とか言いながら、本当は心臓ばっくばくなんじゃないのー?」

「そんなわけないだろ」嘘。心臓ばくばく。

 踏ん切りは、ついたから。

 ……たぶん。

 あれから3分後。

 弘海を起こし、起こした弘海に誘われ、昨日と同じ公園、同じベンチに二人で腰掛けている。

 俺の膝を枕にして寝てるけど。いや横になってるけど。

 しっかし、本当に寒いなー。これで自販機でもあればカッコつけられるのに、電灯がないのと同じように本当になんにもない。フラグクラッシャーな公園だな。うむ。

 弘海の頭がもぞもぞと動くたびに、ただでさえ敏感になっている足の感覚がさらに鋭敏に。もうぴりぴりしすぎて足が痛い。

「やめよっかー?」にやにやしやがって。

「別に。好きなようにすれば?」

「んふーふふ。じゃあしばらくこのまんま」

 もう一度しっかり確認させるようにばすばす。モウヤメテー。

 きっと変な色になってる俺の顔を覗き込みながら、楽しそうに。

 笑うこいつは、やっぱり悪女だ。

「しばらくって、あと何分だよ」

 足の神経がもちそうにない。思わず聞いてしまった。しまったー。

「んー」まさか何時間とか「じゃ、あと3分」

「……3分、ね」へー。

「あれ? なにかご不満? もっと長くしようか?」「いや結構」

 即答。いやはや、本当に敵わない。

ただ「ちょっと、驚いた」「何―に?」何ってそりゃ。

「初めて、しっかり3分って言葉を聞いたな、と思ってさ」

 いままで、ひらがなに聞こえてましたからな。

「お。新しい私の一面を見てうれしいのかーい?」

「そーでもない」「ぷー」

 悔しがる素振りは見せずに、ただ頬を膨らませる。なんとも思っちゃいないのだ、こいつは。

しばらくぼけっと動かない。あー、弘海あったけー。

 なんてアホなこと考えてたら、突然弘海の頭が跳ね起きた。

「ねー、ゆーくん」

 立ち上がり、くるくると昨日と同じように回り。

「私がフリーってわかったのに、なんでアタックもコクりもないのー?」

 夜じゃない、でも夜へと変わる茜色の世界の中。

 逆光少女が語りかけてくる。

あきらめた境界線を壊すように。

その問いに、一瞬だけ「しねーよばーか」もう決めたんだっての。

 ――昔から、そう。

 いっつも、いじめられてた。弘海に。

 ずっとキライだったのに。

 いつからスキになったんだろう?

 分からない。人なんていつでも曖昧にできているから。

 曖昧な中で勝手にスキになったけど。弘海は。

「俺に好きなんてベクトル、向けてないだろうに」昔から。

「なんだー。わかってたんだ」ニブチンとでも思ってたか。

 わかってないと思って、わざと嘘をついてきた。結局は振り回されただけの俺。

 だから、肩に乗っかった片想いはここで降ろす。

「弘海」

「ん?」

 これからも「起こすぐらいはさせてくれよ」せめて、3分間くらいは。

 仲の良い友達でありたい。

「なんだよー、私あの学校じゃゆーくんぐらいしかいないんだよ? 起こしてくれそうな人」

 くるくるまわりながら、こっちに近づいてきて。

「てやっ」「イテ」頭を叩かれた。ついでに鞄を盗まれた。まてそれ財布が。

「もらったー! 早くしないとゴミ箱に捨てちゃうよー?」

「なっ!? まてこらー!」

 本当にゴミ箱どころか池にでも捨てそうな勢いで駆け出す弘海の背中を追いかける。

 あきらめのついた、この時間で。


 せめて、あと3分。


 3分間は、弘海を追いかけるとしよう。

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