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博多市狂想曲  作者: 如月 睦月
8/13

特撮みたいな戦い(3)

 建物に沿って走る。地下の駐車場の出口のスロープを一台の車が上ってくる。轢かれないように逃げようとするが、車がスピードを上げてきた。

 運転席に見えたのはおかしなセキュリティガードだった。

 言葉が出ない。口が何かを発する前に車が緋奈子の体に突撃して襲いかかる。反射的に目を閉じ、緋奈子の左足が地面を踏みしめる。そのおかげでとばされる事はなかった。

 緋奈子にしたら台風の突風に押されたぐらいの衝撃。その割にぶつかってきた車が大きく凹んだ。

「何今の」

 目を開いて見ると自分の横に動かなくなった車が一台。そして続々と集まるセキュリティガードが車からも出てきていた。

 多勢に無勢。殴って蹴って倒せるにしても時間がかかりすぎるし、一体に対して一撃じゃ掴まえられてしまう。せめて近づけないようにしないといけないと脳が働く。

「武器があればなぁ」

「あるぞ。今送る」

 思わず呟いた言葉の返答に驚いて「へ?」と変な声が漏れると同時に目の前に焚かれたフラッシュの中から一本の変な剣が出てきた。両手握りに真っ白な両刃、そして柄からなぜか一本のコードが延びていた。

「腕の所に接続するところがあるから繋げ」

 言われた通りにカチッと音がするまで填める。瞬時につないだ剣の空気が揺らいだ。

「はああああああああああ」

 横薙ぎ一閃!

 掴まえようとしていたセキュリティガード達が一刀の前に斬られていた。鋼鉄アルミの合金製の体はまるでバターのように切り裂かれる。無駄に近づくセキュリティがバッタバッタと倒れていく。

 動く物がいなくなった。いや、そう思う前に視線の先に逃げるのが居た。アタッシェケースを持った規格外のセキュリティガード。ツギハギだらけで気持ち悪いと言われた奴だ。

「まて!!!」

 地下の駐車場に入り込み走る先は一直線。このビルのエレベーター。ボタンを押すとすぐさま中に入り、上がっていくのが見えた。

 戦力の補充は考えにくい。あれだけ切り捨ててまた使い捨てを増やす意味がない。逃げるにも建物の中で追いかけっこをする不条理をするのも考えられない。あとは屋上からどうにかして逃げるぐらいだ。

 エレベーターの横の階段に走り込んで曲がると同時に跳ぶ。一歩で踊り場に付くとターンを決めて再び跳ぶ。文字通り一っ飛びで階段を駆け上がると屋上はすぐだった。

 開いたままのエレベーターの扉をちらりと横目で見ると開いたままの屋上の扉を駆け抜ける。

 カンと足音にセキュリティガードがこちらを見る。音に反応しただけで戦う気はない。むしろ背中に展開されたグライダーの翼はここから逃げる準備が終わっていた事を示していた。無視して屋上から跳ぼうとする。

「逃がすかああああああああ」

 反射的に右手に入った力に怒りが乗る。

 全部捨て、一撃だけに全力を注ぐ。この一撃に自分の火力を、エネルギーをすべてそそぎ込む。

「あああああああああああああああああああああああああ」

 叫び声と同時に振り下ろされる一撃。その一撃は遠く、そしてすでに宙を舞うセキュリティガードには掠りすらしない。


 はずだった。

 空気を焼き、陽炎を揺らがせる見えざる高熱の炎の衝撃波は、アタッシェケースを持った右腕と屋上の柵を焼き斬っていた。ガランと屋上に転がるケース。そして空を飛び、斬れた翼のせいで落下しようとしているセキュリティガードは感情のないカメラにその姿を映す。

 自分を倒す人間の存在を。


 ガランとアタッシェケースが屋上に転がる。

(逃げた?)

 声が出せない。いや、力が入らない。それどころか視界が徐々に暗くなる。

(あれ?)

 何が起きたのか理解する前に緋奈子の体は屋上に倒れ込んだ。




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