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博多市狂想曲  作者: 如月 睦月
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鳳 緋奈子は大食らい(2)

 地下一階の地下通路沿いの蕎麦屋から5階のアフタヌーンティをだす紅茶屋で3人ともケーキセットを頼む。

 さすがに緋奈子が頼んだ時に驚いたのが大食いの様子をずっと撮影していたショートカットに眼鏡の似合う 蓮見 颯香だった。

 眼鏡の弦に触れる。

「どんだけ食うのよ」

「食後の甘い物は別腹でしょ」

 そう言いながら颯香がセットのケーキを頬張る。口の中に生クリームの甘さが広がり、思わず広角が緩む。

 ケーキと紅茶の味をゆっくり味わうひと時。落ち着いた空気を破ったのは桜だった。

 一息ついた見計らったタイミングにようやく質問した。

「で、緋奈。あのスマホは何?買ったの?」

 普段興味なさそうな桜が微笑んで笑う時が一番怖い。観念したようにため息をつくと緋奈子はポケットからスマホを取り出した。

「へぇ。持ってたんだ」

「流石に持ってるわよ」

 颯香は感心したが桜が静かに観察する。

「……」

 無言でスマホをマジマジと見る。確かに変哲もないスマホ。だが、その意匠にメーカーの色が見えない。

「これ、どこで手に入れたの?」

 そう言って指で突く桜に緋奈子は諦めたように前髪をかいた。

「……はぁ。やっぱ桜はわかるか」

「分かるわよ。うちにマニアがいて変に知識だけ入るから」

 そう桜が言うがあんたも素質あるぞと思ったが緋奈子は沈黙した。代わりに。

「……うちの兄貴が入学祝いだって。……作ったって」

「へ?」

「だ~と思った」

「!?」

 さも当然のように話を進める桜と緋奈子の顔を颯香が交互に見つめる。そりゃDIY感覚で作りましたって見せられた物がスマホなら信じられないのも無理はない。

 むしろ桜はさもありなんと納得していた。

「だと思った。あんたのあの兄貴が妹に既製品の低スペックのアイテム渡すなんて思えないし」

「うちは市販のでいいって言ったんだけどね。入学式にはもうセットアップに色々とデータの引継まで全部終わってた」

 そう言ってテーブルに肘つき、頭を抱えながらケーキを食べる。

「じゃあしゃーないか」

 そう言って苦笑いを浮かべる桜に隣から颯香が肘打ちして耳打ちする。

「当たり前みたいに言ってるけど、そんな簡単に出来るの?DIY感覚で手作りスマホなんて」

「普通は無理よ。でもま、この子のお兄ちゃんも化け物だから。鳳の麒麟児ならわかるでしょ」

 その一言で流石に颯香も察しがつく。

「え?あの最近名前だけは聞く麒麟児って」

「そ。緋奈子の兄ちゃん」

「うちから見ればただの寝子よ、寝子」

「猫って?」

「いっつも寝てばっか。だから『寝子』」

「へ~」

「何?」

「べ、っつに」

 大食らいに寝子とまあ、どっちも似たものだとは思ったが流石に颯香も口には出さない。代わりに。

「じゃあ、なんであんな大食いチャレンジしたかったの?あたしとしては大食いチャレンジの情報提供対価に動画撮ってアップすりゃチャリンが稼げるからいいんだけどさ」

 そう言ってセットの紅茶に口づける。香りが鼻を通り、おいしい紅茶の味と熱が喉を通るとようやく緋奈子が答えた。

「ちょっとね。そろそろ学校に来れる椿に快気祝い送るのにお金が必要でさ」

 椿って誰?と反応が遅れた颯香に変わって桜は納得していた。

「あ~、そういえばあの子入学式直前に入院したんだったわね。あの子なら気を使わないでって言いそうだけど」

「そうなんだけど」

 そう言いながら緋奈子が微笑む。この場にいない椿の事を思い出した。緋奈子に桜、そして椿の3人とも小学校から、いや兄弟を含めるとかなりの腐れ縁だった。

「んじゃ、腹ごなしに買い物行ってくるから荷物見といて。これは私の分」

 そう言って御祝儀袋の中から1万と取り出す。

「とりあえず、帰るなら連絡してよ。先かえるなら荷物受け取らなきゃいけないし」

「了解」

「待ってるから行ってきなって」

 緋奈子が鞄を片手に立ち上がるとスタスタと歩いていく。その様子を見送ると二人は残ったケーキセットを口に運んだ。

 緋奈子が出て行くのを桜が確認するとにっこり笑う。その笑顔に颯香の手が止まってしまった。ぞくっと背筋に冷たい汗がなぜか流れる。笑顔が、むしろ怖い。

「さって、私としては取引をしましょうか。ちょっとした、ね」


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