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原始的邂逅(ひとり遊び)  作者: ゾン
2/9

データ1:2

(56:ノーマル)


15日目 朝


「着きました!トージです!」


トーフォスとオースディンのちょうど中間地点だろうか。岩山の麓にあり、高低差が激しく建物が建てられている。僅かな緑が適切な配置でデザインされており、砂漠のオアシスを作り上げているかのようだ。ざっと見る限りでも観光客の姿が幾つも目に入り、賑わいだけで言えばとても辺境の町とは思えない。着くや否やキャリーは迷わず左手にある石段を登っていく。まず宿に案内してくれるそうだ。


「来たことがあるんですか?」


「何度も来ていますよ!ここの温泉目当てで旅をする人も少なくないんです!と言っても2年ほど前に転送魔力の施設ができてからはからっきしですけどねー」


石段を登りきると宿が目に入る。年季の入った老舗旅館といったところか。


「この村では各地でそれぞれ特色のある温泉に入ることが出来るのですが、今回はアーサーさんのご都合を考え、部屋にお風呂が付いているタイプの宿を選びました!部屋は男女別で2つ取ってあります」


「ありがとうございます、そこまで配慮していただいて」


「いえいえ、ナビゲーターの仕事ですから!では、私はギルドへ行ってサンドシャークを納品してきますね♪」


出発は明日の朝。それまでは私もゆっくりさせてもらうとしよう。旅は楽しいが流石にこうも長旅をすれば疲れもたまる。せっかくだから村を歩き回って風呂を堪能したいという気持ちもあるが、アーサーの前では少し忍びないな。どうするべきか……


(3:ファンブル)


「あの…どうかお気になさらず村を歩いてきてください」


気を使わせてしまったのだろうか。ここで食い下がるのも変だしお言葉に甘えるとしよう。


(68:グッド)


宿の近くには土産物屋や食事処が立ち並んでいる。ここは恐らく、転送魔力で楽に来れるようになった旅客のための観光通りと言った所だろう。そこを抜けて更に歩けば温泉街へ出た。


(67:グッド)


幾つかある温泉の内の1つを選び、その悦楽を享受している最中の事だった。


「おお、これはいいな!」


「先輩…ほんとにいいんですかぁ仕事中に温泉なんか入っちゃって」


「いいんだよ、どうせこっちはハズレだろうって団長も言ってたじゃねーか。そもそもトーフォスに居たって情報すら怪しいもんだ。何だって一国の姫様がそんな所へ旅行する必要があるんだ?」


「ちょっと先輩…外で姫呼びはまずいですよ。あくまで王子様です」


「ああ、そうだった。ともかくサリア様と出くわすとすりゃ2ヶ月後のオースディンだ。そんときにちゃんとすりゃ良いんだよ」


「てきとーだなぁ、もう」


…非常に親近感を覚える話だったな。確かにアーサーは中性的な整った顔立ちをしている。トーフォスから2ヶ月と半月後のオースディンが目的地だ。それに……彼が国の重要人物というのなら素性を隠す理由にもなる。思わぬ情報を得てしまった。肉体的には回復したが精神的には重くのしかかる岩を持たされたような気分だ。ともかく彼らに悟られない内に宿へ戻ろう。妙な胸騒ぎがする。


(41:ノーマル)


宿の前まで来ると……


「あっ祭司様!」


丁度キャリーが戻ってきた所だった。


「ああ、お疲れ様。納品は無事に済んだのか」


「はい!それも外皮の質が良かったということで予定よりも多めに報酬を頂いてしまいました!あ、こちらアーサーさんにお持ちください、この町の名物温泉タルトです!」


キャリーはそのまま宿の中へ入った。先に宿泊の支払いを行っておくみたいだ。…この土産物を渡すついでに先程聞いた事について少し話してみようか。


(12:バッド)


「アーサー私だ、入るぞ」


「あ、少々お待ちください!」


……また間が悪かっただろうか。


「どうぞ…」


その声を聞き扉を開くと、アーサーは初めて会った時と同じ、深々とフードを被った格好で居間の座椅子に腰掛けていた。


「おかえりなさい」


「ああ、ただいま。さっきは気を遣わせて悪かったな」


「いえ、お気になさらず、面倒事を頼んでいるのはこちら側なので…」


あまり気分は優れないようだ。私も盛り上げが得意な方では無いと自覚しているが…


「さっきキャリーと会ってな。君にこれを買ってきてくれたようだ」


「わぁ…美味しそうですね!…あっ 」


「甘いものが好きなのか?」


「いえ…お恥ずかしながら…」


タルトを前にして、アーサーは子どもの様に屈託の無い笑顔を見せた。キャリーはひょっとしてアーサーが甘味好きという所までわかって渡したのだろうか。だとしたら相当だ。


(76:グッド)


「…申し訳ございません」


アーサーは少し体を引き、改まって頭を下げた。


「ここまで旅をさせて頂いたあなたやキャリーさんに対して、この様な格好や態度を取ることが無礼に当たると承知しております。しかし、これを続ける事情があることも理解していただきたいのです」


素性を隠しながら旅をすることに申し訳なさを感じているようだ。今、先の話をしても良いのだろうか。


「アーサー…君は王族なのか?」


(25:アブノーマル)


「知っていたのですか」


アーサーは体を引き上げ、驚きを帯びた声を出す。


「先程、町で君の話をしている人を見かけたんだ、確証は無かったが。団長と呼ばれる人からの依頼らしい」


「グレイシスか…」


(20:バッド)


「…だとしても話せることは何もありません。私にはこれまで通りただのアーサーとして接してください。他に何を聞いていたとしても」


「あ、ああ…わかった」


アーサーが紡いだ言葉は今までにない強い語気だった。怒らせてしまったのだろうか。しかし、こちらを真っ直ぐに見つめた鋭い目は、私が了承の意を示した後直ぐに和らいだ。


「その…良かったらこれ一緒に食べませんか。私の出自などはお話できませんが、それ以外なら…」


どうやらこちらを思ってくれている事に違いはないらしい。先程の強い言葉は、それだけ重大な問題を抱えているという事の表れなのだろう。少し安心したような心持ちでアーサーと共にタルトを堪能した。


(77:グッド)


25日目 朝


私たちはオースディンにたどり着いた。乾いた大地に佇む巨大な城壁。それだけで威圧感を放つ門が険しい表情を見せている。ひっきりなしにその門をくぐる多くの人間が居なければ臆する心すら生まれるような、凄味がある。


いざ旅の目的地を踏みしめようと、嬉しいような悲しいような、綯い交ぜの気持ちを持ちながら門をくぐったところ……


「お待ちしておりました」


門の脇にいた1人の騎士が声を掛けてきた。全身を鎧に包み、ウェーブがかったブロンドの髪を後ろ手になびかせているその騎士を見るや否やアーサーが私の背にそっと隠れた。


「サ…冒険者の皆様、ここまで長旅ご苦労様でした。早速ではありますが、我が主より是非お会いしたいと伺っております。どうかご同行ください」


私達の横を歩く通行人はこちら、特に目の前にいる騎士に強く注目している様子だ。アーサーが即座に身を隠した事からも、彼に関係があり、名の高い人物であるようだ。従うべきか……


(63:グッド)


「解凍…」


小さく呟く声が聞こえた瞬間、視界が白に包まれる。煙幕だ。


「お任せしますよ」


これを起こしたであろうキャリーの言葉。任せる、というのはこの騎士にどう答えるかだろうか。まあこの状況を作った以上穏便には事が運ばない気はするが……


私の後ろに居たアーサーは煙幕が撒かれて数秒、戸惑ったままの様子だった。しかし、騎士が現れてからの彼の態度からして騎士の言いなりになることは都合が悪いのだろうと推測できる。


「逃げるぞ!」


「かしこまりました。逃走経路をご案内致します!」


咄嗟に煙幕と人混みに紛れ門を通り抜けた後、キャリーを先頭に私たちは踏み慣れぬ道を駆け出した。


「追え!見失うな!」


後方からは先程の騎士の声が聞こえる。数人の彼の部下が追跡して来ているようだ。広い道の大通りから何とかキャリーを見失わないよう右へ左へ曲がりくねり、露天商すら見つからない狭い住宅地に入った後、


「右に曲がります!」


言われるがまま彼女を追いかけ路地に入り込むと、私たちが確かに入り込んだ路地の入口が、初めから無かったかのように壁で塞がっていた。


「解凍…です」


キャリーは得意げに二本指を立てた。彼女の圧縮魔力は思った以上に奥が深いらしい。


「さて…」


私は、無我夢中で走ったせいか若干呼吸が浅くなっているアーサーに向き直り、口を開いた。


「すまない、君の選択を待たずに勝手に決めてしまった」


アーサーは、ふぅとため息を一つ吐くと、フードを脱ぎ払い、その金髪と色白の肌を青空の元に晒した。


「こちらこそ、身内がご迷惑をおかけして申し訳ございません」


続けて、


「ご迷惑ついでに、もう一つ依頼を受けていただけませんか。隠していたことを全てお話します」


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