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原始的邂逅(ひとり遊び)  作者: ゾン
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データ1:1

その子、神の血を受け継ぎし子なり。世を覆う災禍と共に、天より下る命なり。数多の軌跡を踏み残し、人の世の運命を紡がん。


865年・新年。この世はすっかり冒険者という存在を受け入れてしまっている。きっかけは今からちょうど二十年前の今日に起こった大地震だ。世界で各地で同時に起こった地震は甚大な被害を与えながら奇妙な穴を残していった。穴は奥深く続いておりその最深部を見た者は誰もいない(と言われている)。その構造は地に根付いた魔力によるものだというのが定説だが、特筆すべきは穴そのものではなく、穴の中で生成された戦利品だ。金銀財宝などは序の口、この世のものとは思えない程味覚が刺激される食材や無限に蓄光する新種鉱石、そしてそれら宝物を守るように徘徊する魔物たち。いつからか穴には一攫千金を狙う者が集うようになり、やがて彼らは冒険者と呼ばれるようになった。


「ようこそ、冒険者ギルド トーフォス支店へ!」


かくいう私も時を同じくして穴に見た夢に胸を躍らせた世代である。穴の出現に際して地上にも変化があった。特に魔濃度の上昇と魔物の出現。これは穴から這い出た魔物が地上の濃い魔力に適応し、繁殖したと思われている。当然それを許せば困る者がいるため、腕の立つ者にはしばしば駆除の依頼があった。そこに目を付けたのが、ここ冒険者ギルドというわけだ。今やその需要はストップ高、あらゆる依頼が発生しあらゆる冒険者の日銭稼ぎに消えていく。


「おーう祭司様 今日も穴に潜るのかい?」


「いつも言ってるだろう、これは祭服では無い」


確かに白い上下を着ているが、毎度言われるほどだろうか。ただ、彼が言った2つ目の方は正しい。依頼には穴に関するものもある。難易度が高い分支払いも良い。大抵は事後報告でも受理される為今は目を通すだけだが。何せ穴の特殊な構造のため、狙って目標と顔を合わせるのは非常に難しいのだ。ざっと依頼一覧に目を通したあとギルドを後にしよう。


大樹トールに見守られながら、その足元に出来た小さな穴(それでも人の身からすれば巨大だが)へと足を踏み出す。この通りは様々な出店が立ち並んでおり、まるで年中お祭り騒ぎだ。ターゲットは穴の調査をすべく意気込んでいる冒険者だろう。そこを抜け穴の前まで来ると身分証明と帰還魔力のポイント指定をさせられる。どちらも冒険者カードでスルーできる。


「よし、行ってこい」


最早幾度目か数えることを忘れるくらいの挑戦だが、この瞬間の緊張は忘れることは無い。


「ふぅ……」


意を決して私は穴へと飛び込んだ。



(81:グレート)


着地の感覚はあるが落下の感覚はない。足が地面に着くと身体のどこにも異常が無いのを確認する。天井を見上げると不思議なことに地上と同じ、青い空が広がっていた。やはり穴から文字通り落ちるという訳では無いらしい。気を取り直しつつ、辺りの確認を行おう。


今回は比較的安全な場所へ来たらしい。緑の芝生が広く敷かれており、漂う魔力も安定しているようだ。途中に何本か生っている木は果樹だろうか。せっかくだ、持ち帰ってみよう。味次第では依頼の報告に使えるかもしれない。


(8:ファンブル)


不意に地面がぐらつく!悪寒が走り慌てて飛びのこうとするが、どうか…


(74:グッド)


何とか回避に成功したようだ。ここはまだ1層目……穴は基本的に階層が深くなるほど危険度が増すため、この階層では脅威のある魔物は出現しないと思っていたが、穴に定式は存在しないようだ。改めて魔物の姿を見てみると5,6mはある体躯に巨大な口が上向きで付いている。どうやら果樹はこいつの背中から生えていたようだ。回避が遅れていたら腰から下は無くなっていたかもしれない……しかし姿を現した今、奴の動きは鈍くこちらを追跡する能力は持っていないように見える。倒せるだろう、そう思い私は腰に掛けた剣を抜いた。


(4:ファンブル)


その矢先、何かが後方から脇腹を掠め、接触した部位から血が流れ落ちた。そのまま上空へ飛び上がったそいつは見えなくなる所まで飛んで行った。一瞬だけ捉えることが出来たその姿は恐らく鳥に近しい姿の魔物。果樹の魔物と共生関係なのだろうか。これ以上こいつに構うのは危険かもしれない。果実は諦めるべきだろう。幸い脇腹のダメージは小さい。まだ探索は続けられるだろう。


果樹の魔物とは反対方向にしばらく歩くと次の階層へと繋がる穴を発見した。そこに溜まっている魔力と底の見えない深淵さからいわゆる普通の穴とは違うことがひと目でわかる。私は勢いよく踏み出した。


(5:ファンブル)


2層目


熱い。火山地帯のようにあらゆる場所からマグマが流れ出ている階層のようだ。本来なら5層目辺りまで穏やかな環境を悠々と探索できるのだが、今日はかなり運が悪いらしい。帰還魔力を使い、探索を終了することも考えたが、緊急発動用の特殊魔石もひとつ持っているため、いざと言う時は勝手に帰してくれる。行けるところまで行ってみよう。


(32:アブノーマル)


何かおかしい。確かに熱いと感じながらしばらく歩いているが、汗のひとつもかいていない。それどころか四肢は震え出している。異常だ、魔物の攻撃なのか。感覚を操る力、もしくは幻覚か。敵を探す方法は持ち合わせていないし、もしかすると魔物の仕業では無くこの階層自体の環境によるものかもしれない。原因を探るよりも先に穴を見つける方が適切だ……!


(28:アブノーマル)


ダメだ、穴は見つからない。手の感覚が無くなってしまう前に帰還するべきだろう。私は帰還魔力を発動した。


ギルド付き冒険者の場合帰還先は自由に設定できる。自宅にする者も居るが大半は怪我をおって帰還する事を考え、医療措置を施せる施設に設定している。私の場合はギルドの医務室だ。収容人数が多くはないためここに帰還先を設定できる者は限られるのだが、偶然空きがある時に設定できた。


「あら祭司様、お帰りですか」


「ああ、今日は酷い一日だったよ。あと祭司ではないよ」


彼女はリリー・シーナ。このギルド医務室は彼女ともう一人の治癒魔力使用者で運用されている。促されるままベッドへ仰向けになると瞬時に私の診察を終わらせ、治癒魔力の使用を開始した。


「傷の方は浅いですし直ぐに治せますが、こっちは別ですね。指先が凍るほどの寒さに晒されて…幻覚も見ましたか?体内にまだ魔力が残っているみたいですね」


幻覚に凍傷……なるほど、あそこは火山地帯ではなかったが幻覚によってそう見せられていたのか。それにしても、


「相変わらずの手際だな。ひょっとして前は冒険者をしていたとか?」


(26:アブノーマル)


「さあ、どうだったかしら。はい処置は終わり。3日程は安静にしてくださいね。穴へ入るのも禁止です」


はぐらかされてしまったが、無事に治療が終わって良かった。しかし3日も安静にしなければならないとは……貯蓄はいくらかあるので暫くは問題ないのだが、3日を無為に過ごすのもやるせないな。地上で受けられる依頼でも見てみようか。


(13:バッド)


掲示板を見てみるも物の見事に全滅、1枚の依頼も残っていなかった。これでは流石に何も出来ないな。後は図書館にでも行こうか、それとも共に穴を探索する仲間でも募ってみようか……


(64:グッド)


「失礼、冒険者の方ですか?」


後ろから声をかけられた。振り返るとフード姿の人間が立っている。身長は160程で顔はよく見えない。


「そうだが、どうかしたか」


(97:クリティカル)


「不躾な頼みではあるのですが、私をオースディンまで護衛して欲しいのです」


中央国家オースディン。大陸のちょうど中心に位置し、西方三大王都と東勢四大国の国交を取り持つ番人だ。あらゆる物の集積地とも言われている。物珍しさで旅行に行く人間がいるのも分かるが……。


「行きたいのなら転送魔力を用いればいい。この国なら大樹の麓へ行けば送ってもらえるよ」


「それは……」


口ごもってしまった。どうやらワケありらしい。


「馬車で行くのは?」


「それも…出来れば避けたいです」


転送魔法は私でも使えるが、これは距離に応じて必要な魔力量が増大する魔力だ。個人ではオースディンまでとても飛べたもんじゃない。


「魔力を使わずに行くとなると一月は掛かるぞ。それに道中も安全で快適な旅は保証できない」


「構いません。3ヶ月後までに着けば良いので」


そうまでする必要がある事情か。常に若干俯き気味で話すせいで顔はよく見えないが、綺麗な金髪がフードから見え隠れしているのが分かる。恐らくまだ年若い(20である私よりも)青年だろう。一月の拘束を余儀なくされるという点であまり割の良い仕事とは思えないが、彼一人で長旅をさせるのも忍びない。


「わかった。引き受けてもいい。」


フードが少し上に向き、初めて顔が見えた。翡翠の目に整った顔立ちだ。


「ありがとうございます!ああ、私の事はアーサーと呼んでください」


言葉には嬉々が篭っている。どうやら余程困窮していたようだ。


「しかし、魔物が出る道を行くには戦力が心許ないな。アーサー、君は戦えるのか?」


「少しは覚えがありますが、期待できるほどのものではありません。しかし…人数が増えるのは…」


素性を知られる危険性がある、か。どうにか信頼出来る人物を確保出来れば良いのだが……。


(79:グッド)


「お伺いしましたよ~祭司様!旅のお供をお探しですね!」


彼女は確か、ナビゲーターを専門にしている冒険者でキャリパンといったか。


「地上の旅から穴の探索まで!"マジェンタガチェットナビゲーター"のキャリパン・ゲートです!キャリーって呼んでください♪」


アーサーが眉をひそめてこちらを向いた。そんな顔をしないでくれ。残念ながら私も初対面だ。


「えっと、キャリーさん?お気持ちはありがたいのですが私達はむやみに人数を増やす訳には行かなくて…」


「はい!失礼ながら盗み聞きさせていただきました。そんなお客様にはこちらの守秘義務厳守コースをオススメしております!この契約書にご要望をお書きいただき、私が魔力を用いて承諾することで効力を発揮し、もし私が契約を破ることがあれば罰が発生します!」


「罰…とは何が起こるんだ」


「死にます」


「な……」


一瞬ばかり息を飲んでしまった。キャリーは相変わらず笑顔のままだ。


「ありがたいことに未だ発動した事がありませんが、多くの方に信用いただいているプランとなっておりますいかがでしょう!」


キャリーの評判は確かに良い。実際に利用した客と話をしたこともあるが、ナビゲーターとしての能力は本物だし、腕も立つらしい。しかし、今の話が本当だとは限らない。契約を破ったとして本当に効果が発揮されるのか、彼女が生きている限り証明はできない。その上でどうするか。あくまで雇い主はアーサーだ。彼の判断に任せよう。私が目で促すと、アーサーはキャリーをじっと見つめた。


「分かりました。オースディンまでのナビゲート、よろしくお願いします。ただし契約書は必要ありません」


「え、よろしいんですか?知っちゃった秘密喋っちゃうかもしれませんよ?」


「本当に吹聴する人はそんなこと言いませんよ」


あっけらかんと言い放った。まるで彼女の本心が見えているかのように。


「勿体ないお言葉です…是非ともオースディンまでできる限りのご案内させていただきます!」


アーサー、どうやら彼は普通の青年ではないらしい。この旅は想像以上に面白い旅になるかもしれない。


※『アーサーをオースディンまで送り届けろ!』が発生しました


出発から5日 夜


私達3人はトーフォスを出てオースディンへ向かう直線経路、セト砂漠の横断を行っている。

「いやー恐ろしかったですねーサンドシャーク!でも流石は祭司様、おかげで助かりました!」


薪の上の鍋をかき混ぜながらキャリーは昼間の事を振り返った。砂漠の魔物サンドシャーク。こいつと戦わざるを得なくなった発端はアーサーの言葉。


「申し訳ございません!報酬は後払いにしてください」


どんな事情があれ仕事は仕事。依頼料は受け取ろうと話を持ち出した時だった。曰く、今は持ち合わせがないが、オースディンに着けば宛はあるという。……本当に信用しても良いのだろうかと心配になるが、一度良しと言った手前撤回する訳にも行かない。しかし…


「旅費は……まさかそれも無いのか!?」


こくりと小さく頷かれる。流石に何の用意も無しに長旅は出来ない。街路を行かずとも道中偏在する村には寄ることになる。各備品が全て現地で調達できるとはとても言いきれない。さて自分の貯蓄はいくらほど有るだろうかと試算しようとしたその時。


「かしこまりました!それでは道中で路銀を稼ぎましょう!」


キャリーは、少々お待ちをと言ってからそそくさと通信魔力を使い始めた。しばらく眺めているとまたそそくさと戻ってくる。


「トージ村、サンドシャークです!」


……

「全くだ、この小さいのがああも凶暴化するとは。あと祭司じゃないぞ」


後で聞くと、キャリーは世界各地にネットワークを持っているらしい。少し連絡すればどのギルドでどんな依頼が受け付けられているか、今回のトージ村でサンドシャークを持ってきて欲しいというような依頼も直ぐに見つけられるようだ。


「しかしどうやって持っていくんだ?大きくは無いが重さは相当なものだぞ」


「心配ご無用です!そーれ」


キャリーが手をかざすとサンドシャークはみるみる小さくなっていく。


「圧縮魔力、私はzipと呼んでいますが、体積質量ともに小さくすることが可能なんです♪」


驚いた。本で読んだことはあるが実際に使われている所は見たことがない。たしか使いこなすには相当の修練が必要な魔力系統だったはずだ。昼間の戦闘でも彼女の補助には随分助けられたし、今夜風の吹く砂漠のど真ん中でキャンプが出来ているのも環境調整魔力のおかげだ。ひょっとすると彼女はかなり高位の魔力使いなのかもしれない。


「申し訳ございません」


アーサーが俯きながら言った。


「私が十分なお金を用意していればお二方を危険に晒すことは無かったのに」


「構わないさ。こういう旅は久しぶりで結構楽しいんだ」


「そうですよ。ほら美味しいサンドシャーク鍋も出来たことですし。肝が珍味なんですよ~」


「本気か…?それを食べるのか!?」


「美味しいんですってほーら入れちゃいますよー」


「あ、待て!ホントに毒じゃないんだろうな!」


なんて私らしくない大騒ぎだ。だが、たまの旅路だ。こういうのも悪くない。


「ッ…フフ」


俯いていたアーサーから笑いがこぼれた。


「いいですね、誰かとの旅って……あ、私ずっと友人も居なくて一人で過ごす時間ばかりだったので、こういうのって新鮮で」


アーサーが自分のことを話すのはこれが初めてだろうか。旅を始めてから5日目。アーサーは余程人に知られてはならない事情があるみたいだ。自分から話したこともこちらから詮索することもなかった。これを機会に聞いてみようか。


「アーサー、オースディンには何をしに行くんだ?」


(13:バッド)


「あ、ええと…すみません、言えることは何も…」


少し踏み込んだ質問だったか。今後もしばらく昼夜を共にする以上、彼を詮索するような質問はするべきでは無いのかもしれない。


「ああ、すまなかった。忘れてくれ」


「いえ…」


その後、今後の旅程を話したり、世間話をしながら納品する分以外のサンドシャークで作った鍋をつつき、やがて眠った。


(56:ノーマル)


15日目 朝


「着きました!トージ村です!」


トーフォスとオースディンのちょうど中間地点だろうか。岩山の麓にあり、高低差が激しく建物が建てられている。僅かな緑が適切な配置でデザインされており、砂漠のオアシスを作り上げているかのようだ。ざっと見る限りでも観光客の姿が幾つも目に入り、賑わいだけで言えばとても辺境の村とは思えない。着くや否やキャリーは迷わず左手にある石段を登っていく。まず宿に案内してくれるそうだ。


「来たことがあるんですか?」


「何度も来ていますよ!ここの温泉目当てで旅をする人も少なくないんです!と言っても2年ほど前に転送魔力の施設ができてからはからっきしですけどねー」


石段を登りきると宿が目に入る。年季の入った老舗旅館といったところか。


「この村では各地でそれぞれ特色のある温泉に入ることが出来るのですが、今回はアーサーさんのご都合を考え、部屋にお風呂が付いているタイプの宿を選びました!部屋は男女別で2つ取ってあります」


「ありがとうございます、そこまで配慮していただいて」


「いえいえ、ナビゲーターの仕事ですから!では、私はギルドへ行ってサンドシャークを納品してきますね♪」


出発は明日の朝。それまでは私もゆっくりさせてもらうとしよう。旅は楽しいが流石にこうも長旅をすれば疲れもたまる。せっかくだから村を歩き回って風呂を堪能したいという気持ちもあるが、アーサーの前では少し忍びないな。どうするべきか……


(3:ファンブル)


「あの…どうかお気になさらず村を歩いてきてください」


気を使わせてしまったのだろうか。ここで食い下がるのも変だしお言葉に甘えるとしよう。



アーサー君に対する出目の酷さが露骨でテンサゲなのでここでちょっと休憩

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