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魔剣士カースの光堕ち

作者: 雨乃そらららら


一面の荒野が広がっていた。つい先刻まで、賑やかな街があった場所だ。


「……カースッ!」


勇者ブレイブは叫ぶ。声の先には、街を壊滅させた張本人の姿。魔剣士カースが、ただじっと、その漆黒の瞳でブレイブを見据えていた。


何故、とブレイブは問いかける。お前は、そんな人間ではなかったはずだと。お前は優しくはなかったが、誠実だった。こんな風に無関係の民衆を巻き込み、無差別な破壊を行うような、そんな人間ではなかったと。


「……何故、か。決まっている。貴様ら王国軍が、俺の心を踏みにじったからだ」

「っ……それでも、ここにいた人たちは、こんなふうに踏み躙られていい存在じゃなかった!」

「ならばっ!」


感情を顕にし、カースは声を張り上げた。


「――ならば俺の家族は、踏み躙られてもいい存在だったって言うのか」


彼は憤る。王国の暗殺者に、為す術なく殺された愛する人たちの最期が、鮮明に思い出せた。

理不尽な死に違いなかった。それが戦争であり、軍の兵士として戦い、沢山の命を奪った自分には当然の報いだと、頭では理解出来た。それでも。


「あんなふうに、自分の大切な人が殺されてっ――ただ黙って、運命だって受け入れろって言うのか……っ!!」


それでも、復讐せずにはいられなかった。

あまりに悲痛な叫び。ブレイブは、動くことが出来なかった。勇者のそんな姿を見て、魔剣士は苛立ちを募らせる。


「こないなら、こっちから行かせてもらう」


魔術の詠唱。周囲の生命の魂をエネルギーに変換し、自身の能力を強化する魔術。魔剣士の本領だ。

地面を蹴るカース。一瞬で間合いを詰める。それでも、勇者は動かない。どうして。考えたその時だった。


ひしと、何かに抱きとめられる。暖かで、柔らかな、人肌の感触がした。


「……受け入れて、良いわけが無いな。国の業は、勇者である俺の業だ。――お前のその怒り。悲しみ。全部俺が受け止める」

「っ……」


ブレイブ。許容の勇者が、カースを強く抱き締めていた。

勇者が勇者たる、その全てがそこにあった。あらゆる人の思いを理解し、受け止める力。それこそが彼という勇者の本懐。

魔剣士は、理解した。


涙の音が、何も無い空間に響き渡った。続けて、剣がぶつかり合う。バチバチと、衝撃で火花が散る。

勇者と魔剣士の、最後の剣戟。それは日が登り、再度日が沈んでもなお続いた。長きに渡る戦いは、やがてひとつの要因で終わりを迎える。


がくりと、勇者が片膝をついた。


「ブレイブ!」

「……はは。ごめんな、カース。時間切れだ。お前の全部、受け止められなかった」


魔剣士――千年の寿命を持つ、魔人の剣士が彼を抱きかかえた。視線の先には、深い皺の畳まれた、老人の姿。


百年間の剣戟は、勇者の寿命によって終えられた。


「そんなことはないっ! ブレイブ、君は確かに、俺たちのことを!」


深い森の奥、木漏れ日の差し込む小さな空間で、カースは訴える。

微笑むブレイブ。彼は、ゆっくりと、天に向かって手を伸ばしてゆく。


「なら、良かった……」

がくりと、腕が落ちる。幾度となく、カースは彼の名を呼んだ。けれど、その声に答える者は、もういない。


やがてカースは立ち上がった。勇者の亡骸をそこに置き、彼の聖剣と、自身の魔剣を突き刺す。



「……俺は」


ぽつりと呟いたカースは、たどたどしく、どこかへと向かい始める。自身の行き先も知らぬまま。一つだけ、確かな想いを抱いて。



「……勇者になろう。あいつのような、光に」


それを知る人間は、誰もいない。



タイトルと出だしだけ思いついた連載ネタの末路

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