桜散る恋
行く。逃げる。去る。で表現される1・2・3月。
肌寒さの中に陽気な日差しが内包されており、実に新たな始まりを感じる季節だ。
近くの公園に生えている桜の蕾が、膨らみ始めたのを感じながら、私は駅舎に向かいバスに乗り込む。
春から市内の大学に通うことになった為、毎朝8時15分のバスに乗る。
私はこのバスの車窓から見える桜が好きだ。学園花通りには、道路の両脇に数十本の桜が植えられている。大学が始まって数週間が経ち桜の花が散り、道を絨毯の様に染め上げる頃、私は一人で歩いていなかった。
今となっては、きっかけなんて忘れてしまったが、語学のクラスの隣の席になったことがきっかけだったように思う。
彼の見た目は至って普通の大学生。本当にどこにでもいそうな黒髪マッシュで勉強はそこそこできそうな感じ。一般入試で入ってきたなんて自慢してきたところが少し鼻につく。そんな彼の癖はわからない問題があるとマッシュの前髪をクルクル回してわからないアピールをしてくる。そんな彼と次第に仲良くなっていった。専修と通学路が一緒なので、自然と会う回数が多くなるんだろう。人の心は不思議だ。何回も何回も同じ人話していると、意識してしまうもの何だろうか。彼は、基本的には無口な性格だ。質問も聞けば返してくれる。ただただそれなのに安心してしまう。彼には安心感と冷静さというものが、同い年とは思えないくらい座っていた。気づけば彼と帰れる火曜日の授業を待ち望んでいた。
火曜日には少し背伸びをしてメイクをする。女は化粧で化けて行くのである。身も心も染め上げるのである。まるで花通りに咲く桜のように。
火曜日五限、授業が始まる・言語のテスト。単語の書き取り。発音練習。90分間の授業が終わる。彼は今日も苦手な発音練習で髪の毛をくるくるさせていた。
帰り道私は彼に尋ねる。
『わからん問題でもあったん?』
『ううん、別にないよ。』
『ほんまに?』
『ほんまやって、疑り深いなあ』『今日、よく見たらえらいべっぴんやない?』『この後、合コン?』
『バカ。ほんまに男子って嫌いやわあ』
『ごめんって、冗談やん』彼は平謝りしてる。
『冗談通じたら警察いらんやろ』(男子はこういうの気づかへんのやろな)でも、化粧していることは嫌味でも気づいてくれた。帰り道、公園に立ち寄ることにした。
時刻は、午後8時前。4月の風はまだ冷たい。
『桜きれいやな、もう少し位しか残ってないけど』
『きれいやねえ』公園のベンチに座り、彼と夜桜をする。傍目で見れば、カップルに見えているのだろうか。ふと頭上を見上げると、今にも散りそうな二輪の花弁。
言語のクラスが変われば、離れてしまう私と彼のようにも見えた。そんなことなどお構いなしの彼。そんな彼も今にも散りそうな桜に気づいたようだ。そしてこっちを見て一言。
『さくら付き合おっか。』その瞬間、桜の花弁が宙に舞い上がった。