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ラズーン 3   作者: segakiyui
2.野戦部隊(シーガリオン)
9/115

3

 はあはあと息を荒げ、肩を上下させながらギヌアの動きを警戒しているユーノ、じっと見返すギヌアの目に、ふいに異様に朗らかな喜びが満ちた。

「なんと、な」

 低く嗄れた声が、感極まったように呟く。

「お前は……素晴しい獲物だ」

 ユーノはぞっとして身を竦めた。

 『運命リマイン』の立場の正否は別としても、ギヌア・ラズーンには持ってうまれたと言ってもいいような独特な禍々しい気配がある。

 ギヌアはじろじろとユーノを、頭の先から足の先へ、再び足の先から舐め上げるように頭の上へと視線を動かした。

「ユーノ・セレディス、ふうん」

 味わうように名前を呟く。

「さぞ、楽しい狩りになるだろうな」

 薄い酷薄そうな唇を綻ばせた。

 ぽつ…ぽつ、と間合いを縮めて落ちて来る雨に目を細める。

「お前が欲しいな。お前の血を、我らが祭壇に、一滴残らず捧げてやろう……お前は、それに十分価する。このうえない扱いだ、感謝するがいい」

「おぞましい趣味だな」

 ユーノが吐き捨てると、ギヌアはより嬉しそうに嗤った。

「それをかきたてるものを、お前は持っている」

 ギヌアは黒剣を無造作に振り上げた。ユーノも剣を構えた。恐怖だろうか、それともぎりぎりの誇りだろうか、体を小刻みに震えが走る。

「まずは腕、一本」

「!」

 何をする暇もなかった。ぴりっとふいに左腕に痛みが走り、ユーノはとっさに悲鳴だけを何とか噛み殺した。

(剣筋も、わからない)

 衝撃に体がふらついている。左腕には、まるで稲妻に打たれでもしたような黒い焦げ痕が刻まれている。力がそこから一気に抜け落ち、剣も支えられなくなって、ユーノは右腕一本の力で剣を構えた。

(やっぱり、ただの剣じゃない)

 もう剣は離れているのに、傷痕そのものが何か別の生き物のように、ユーノの表皮から内側へ、体を食い荒らしに入ってくるような感覚だ。出来る限り早く傷を受けた部分を削ぎ落とさなくてはならない、そんな不安さえ胸に広がる。

「それでも、本能的に避けた、か」

 ギヌアはますます楽しそうに続けた。

「傷は痛いだろう? ただの『運命リマイン』の剣と思うなよ……視察官オペが使う黒剣、その威力は」

 にぃやり、とギヌアの顔が歪む。

「これから存分に味わえるがな」

(嬲り殺しにする気だ)

 ユーノは左腕から広がってくる痛みから、必死に我を取り戻そうとした。

「次……左脚、一本」

 気負いもせずに淡々と宣言した瞬間に伸びて来る剣に、ユーノは青眼から剣を動かさなかった。避けられるとすれば、ぎりぎりで躱すしかない。その躱した瞬間に飛び込んで仕留めるしかない。あえて左脚を餌にしての、相打ち覚悟だ。

(この一撃で終わりだ、勝つにしても、負けるにしても)

 が、その時ふいに、予期せぬ叫びが密度を増していく雨の垂れ幕の彼方から沸き起こった。

「オーダ・シーガル! オーダ・レイ!」

 わああっ、と怒濤のような声が響き渡る。同時に大地を揺らす、重い蹄の音が辺りを圧する。凄まじい音量だ。

「オーダ・シートス! オーダ・レイ!」

 レイ、レイ、レイ、と声が続いた。

 忌々しそうに舌打ちするギヌアが振り向いた方向から、地面を這う黒雲のような塊が押し寄せてきた。驟雨の中をものともせずに、およそ100騎ほどの群れが声を上げながら走り寄ってくる。

 馬ではない。深い緑色の肌、尖った耳と嘴を持った四つ足で走る竜、のような動物だ。

「シーガリオンか!」

 ぐ、とギヌアは手綱を引いた。悔しげに、

「とんだ邪魔を!」

 突進してくる竜達の進路から、うろたえたように馬を移動させる。

「オーダ・シーガル! オーダ・レイ! レイ、レイ、レイ、レイ、レイ!」

 竜には武装した男達が乗っている。そして彼らは、ユーノが聞き慣れないことばを繰り返し叫びながら押し寄せてくる。

(シーガリオン? ああ、そう言えば)

 アシャから聞いたことがある、と思い出した。

 ラズーンの南の平原には、野戦部隊シーガリオンという荒くれ達の部隊があり、ラズーンの外部防衛に当たっている。見かけはごついが性格はおとなしい、しかし一旦怒らせれば一都を灰燼にするという平原竜タロを乗り回していると言う。

 今、押し寄せてきている一隊は、まさしくその野戦部隊シーガリオンそのものに違いない。

 平原竜タロの上に1人か2人ずつ、深い緑の鎧を着け茶色の衣の裾をなびかせた、体格の良い男達が乗っている。身に帯びている剣や抱えた投げ槍が、雨の中でぎらぎらとユーノの目を射てくる。

 猛々しい壮観さ、草原の王者のような力強さは周囲を圧した。避けねば流れに押し潰されると気づいた時には既に遅く、ユーノは奔流となって駆け抜ける野戦部隊シーガリオンの群れの中に呑み込まれていた。


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