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ラズーン 3   作者: segakiyui
9.刺客
77/115

3

「ん?」

 回廊の角を曲がって歩いてきたアシャは、突き出したテラスの手すりに腰掛け、足をぶらぶらさせている少年を見つけた。

「レス?」

「アシャ」

 呼びかけに顔を上げたが、すぐにぷいっと不愉快そうな顔で外を向いてしまう。

「……機嫌が悪そうだな」

 笑いかけるアシャに、きらりとアクアマリンの瞳を光らせて頷いた。

「うん。ぼく、キゲン悪いの」

「どうした? イルファは?」

「まだ寝てる」

「ったく……あいつは食うか寝るかしか知らないな」

「それ、何?」

 レスファートはアシャの片手の立風琴リュシに興味が湧いたようだ。

「ああ。立風琴リュシだ」

「りゅ…し?」

「そう、『風の竪琴』とも呼ばれているよ」

「アシャ、弾けるの?」

「少しはな。ユーノにでも聴かせようと思ったんだが、どこにいったかわからなくってな」

「……」

「レス?」

 ユーノの名前を出したとたん、レスファートは再び不機嫌そうな顔になった。

「ぼく、あの人、きらい」

「あの人って?」

「リディノ…って人」

 アシャは瞬きした。

「どうして」

「だって…」

 レスファートは膨れたまま答えた。

「全然ユーノを返してくれないんだもん」

「え?」

「朝からずっとユーノと一緒に話してるのに、ぼく、まぜてくれないんだ」

「なんだ…」

(そうか、リディノと一緒に居るのか)

「お前、仲間はずれにされて怒ってるのか?」

「だって!」

 少年は顔を紅潮させて反論した。

「ユーノ、独り占めにしてるんだもん! ぼくだって、ユーノの側にいたいもん!」

「ユーノを独り占めにされてると腹が立つのか?」

「立つの!」

「じゃあ、もし俺が独り占めにしたら、どうなる?」

 アシャはテラスにもたれて笑いかけた。

「アシャが?」

 きょとんとした顔でレスファートは問いかけた。

「どうして?」

「どうしてって……まあ、その、理由はどうでもいいから」

 アシャは微妙に口ごもる。脳裏に過ったのは、心を閉ざしたレスファートが、アシャとユーノの間に割り入った光景だ。

「どうだ?」

「うーん…」

 レスファートは少し首を傾げた。日差しにプラチナブロンドを透けさせて考え込み、小さなこぶしを頬に当てる。アクアマリンの目が一瞬どこか大人びた色をたたえ、こちらを向いた。

「腹立つ」

「腹が立つか」

「うん……でも」

 ほ、とレスファートは小さく溜め息をついた。

「…アシャならいいや」

「え?」

 レスファートの声が、子どもの声にふさわしくない深さを響かせて翳るのに、アシャは相手の横顔を見つめた。

「なぜ?」

「……よくわかんないけど……アシャなら、いいんだ」

 少年は考え込みながら続けた。

「他の人だとね、ユーノの胸が苦しくなるの……きゅうってしまって、すごく痛いんだ」

「……」

「だけど、アシャといると……痛くなんない。…ううん、痛くなっても、痛くない」

「痛くなっても痛くない? どういうことだ?」

「わかんないよ」

 レスファートはかぶりを振った。

「なんか、ごちゃごちゃしててわかんない。でも、ユーノが苦しくならなくってすむんだもん」

 にこり、と少年は笑ってみせた。

「だから、腹立つけど、アシャならいい」

 少し迷って付け加える。

「…だけど、ぼくを置いてっちゃ、やだ」

「レス」「わ」

 くすりとアシャは笑った。片腕でレスファートを抱え上げる。

「お前は健気だな」

「ケナゲ?」

「ああ」

「わかんない」

 ぴとりと首にしがみつくレスファートに微笑む。

「そのうち、わかるさ」

「おーい!」

 回廊の向こうから、聞き慣れたどら声が響き渡った。それを追うように、トーンと木の板を打ち合わせたような音が聞こえる。

「何?」

「昼の合図だろ。ほら、イルファが来た」

「どこに行ってたんだ!!」

 ドタドタとイルファは回廊を走り寄ってきた。

「もう俺は飯を食い終わったぞ!」

「イルファ、ずるい!」

「何がずるい」

 のうのうとした顔でイルファは目を剥く。

「起きたら腹が減ってた。で、飯を食った。どこがおかしい?」

「確かにおかしくはないな」

 アシャが苦笑いする。

「でも、ずるいもん! ぼくもお腹すいたもん、なんで呼んでくれないの」

「呼んだけどいなかった」

「絶対呼んでないっ」

「呼んだぞ、レスー、アシャーって」

「どこで」

「飯を食いながらだなあ」

「ひどいーっ」

 レスファートが抗議し始めたが、イルファは堪えた様子もなし、仕方なしに最後は盛大に、イルファなんか大嫌いだーっ、とののしって、少年は唇を尖らせた。


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