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ラズーン 3   作者: segakiyui
6.失われた記憶
50/115

10

「『星の剣士』(ニスフェル)!」

「あつっ!」

「あ、悪い…っ」

 戻ってすぐ、再び飛び出しかけたユーノの片腕をユカルが捕らえ、思わず声を上げた。それでもユカルは手を離さず、むしろ咎めるような目になって、

「どこへ行くんだ」

「決まってる!」

 訳のわからぬ問いを投げた相手を睨みつける。

「アシャの所へ行くんだ。野戦部隊シーガリオンが動くには、まだ時間がかかるだろ。その前に、あの人の所へ行って、加勢して来る!」

「傷の手当もしないでか!」

 ユカルは激しく詰って、ユーノの右肩に広がる鈍い紅の染みを見つめた。

「手当ならアシャにしてもらった。ぐずぐずしてたら、あの人一人で」

「気になるのか」

「っ」

 すうっと見る見る顔が熱くなるのがわかって、慌てて反論する。

「何がだよ」

「アシャのことが」

「…当たり前だろ!」

 少しためらった後、ユーノは叫び返した。

「あの人は、アシャ・ラズーンで、視察官オペの中の視察官オペだろ! ラズーンにとって大切な人なら、当然、ボクら野戦部隊シーガリオンにとっても大切な人じゃないか!」

「それだけか?」

 ユカルのはしこそうな焦茶の目が、悩みながらユーノを見つめた。

「本当に、それだけなのか?」

「……どういうことさ」

「……お前が女で良かったよ」

「え?」

「お前が女で……俺は嬉しかった」

「ユカル…」

 ユーノは茫然として、頬を紅潮させたユカルをまじまじと見た。

「お前が好きなんだ、『星の剣士』(ニスフェル)」

 きっぱり言って、ユカルは一歩、ユーノに近づいた。じり、と無意識に後じさりしながら、顔にさっきよりももっと早く、一気に血が昇ってくるのがわかった。

「そんなこと……言われても…」

「『星の剣士』(ニスフェル)」

「そんなこと言われても、無理だよ!」

 叫んで、ユカルの熱っぽい視線を避ける。顔を背けたまま、吐き捨てるように、

「だって、自分が女だっていうのも、ついさっきわかって……それで、そんなこと言われたって……ボクにはわかんないよ!」

「じゃ、アシャは」

 ユカルはじれったがるように口を挟んだ。

「アシャはどうなんだ」

「どうって…」

「前はあんなにアシャを避けてたじゃないか。なのに、どうしてそんなに急に、アシャを心配するんだ?」

「どうしてって」

 混乱してくる頭の中繰り返す。

(どうしてって)

 何か無性に怖かった。あの人、あの綺麗な人に魅かれていくのが怖くて、でも、こらえようもなく魅かれて……けれど、心のどこかで、魅かれちゃだめだという声がいつも谺していた。

(だけど…)

 だけど?

「『星の剣士』(ニスフェル)」

「だけど……どうしようもないんだ…」

 どこか遠く、自分の声を聴いている。

「どうしようもなくて……だって……『私』……アシャが」

「『星の剣士』(ニスフェル)! 物見ユカル!」

 ユーノのことばはシートスの声に遮られた。

「何をしている!! 移動するぞ!!」

「は、いっ!」

「はい!!」

 名残惜しげに、けれどユーノのことばの先を読んだように、ユカルはどこか硬い表情で身を翻し、シートスの元へ走り出した。

 後から追いながら、ユーノは心の中に弾けた想いに、どこか陶然とした気持ちを味わっていた。

(アシャが……好きなんだ)

 右肩が熱っぽい。じくじくした痛みが身動きするたびに広がる。

 けれどその痛みも、ユーノの想いを消しはしなかった。

(私は……アシャが……好きなんだ)

 その想いの行き着く先を、未だ思い出せぬユーノだった。

 

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