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ラズーン 3   作者: segakiyui
4.『星の剣士』(ニスフェル)

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4

「ああ、あの草原の焼け跡な」

「なんでも、凄い戦いだったそうだぜ。さしもの野戦部隊シーガリオン」も10人ほど手勢を失ったそうだ」

 近くの卓の男達の話に、来る途中で過った黒焦げの草原を思い出した。

 焚き火の跡らしいところに、真紅の房のついた槍が突き立ったまま放置されていたが、やはり野戦部隊シーガリオンの葬送の儀式だったのか、と納得する。

「シーガリオンってなんだ?」

 イルファがきょとんとした顔で聞くのに、噛んでいた肉を呑み込んで応じる。

「ラズーンの遠征隊だ。タロと呼ばれる平原竜を操る、野戦を主とする勇士達だ」

「へええ…頼めば、俺も入れてくれるかな」

「腕によるな。『足手まといは連れ歩かない主義』だ」

 応えながら苦笑いした。野戦部隊シーガリオン隊長、シートス・ツェイトスのことを思い出す。

 かつて、面と向かってそう言われた。黒い短髪と口髭、鈍い黄色の瞳、嘲る口調にはアシャの地位に対するへつらいなど一切なかった。

(まあ、そう言われても仕方がなかったな、あの頃の評判では)

 宮廷を遊び歩く浮かれた男、そういう感覚だっただろう。

「ふうん…」

 イルファはちらりとレスファートを見やり、興味がなさそうな相手に溜め息をついた。相変わらず、食べ物というより、皮か土くれを呑み込んでいくように食べ物を口に運ぶレスファートに首を振り、自分の食事に戻る。

「で、その時に大活躍した凄い剣士がいるんだろう?」

 男達の興奮した話し声は続く。

「ああ、そうとも、星の剣士ニスフェルと呼ばれてる」

「そりゃまた、きらびやかな」

「何でも、その戦い方が、まるで天空の星を引き連れて流れる、伝説の星のようだからと聞いてる」

「伝えの…? たいした評価だな、まだ若いのか?」

額帯ネクトはもう授かっているらしいぞ」

(また、星の剣士ニスフェルか)

 ふと、アシャはひっかかった。

 確かにここへ来るまでにも、星の剣士ニスフェルの噂は時々耳にしていた。まだ年若いながらも、物見ユカルを真の友として常に寄り添い、隊長シートスの片腕にもなろうかと言う剣の冴えの持ち主だと。

 野戦部隊シーガリオンの年齢層は広い。若くして志願して加わる者も入れば、歴戦の勇士が是非にと腕を頼りに入隊を希望する場合もある。いずれもシートスが認めなければ野戦部隊シーガリオンを名乗ることは許されない。その少年も、おそらくは際立った才能の持ち主なのだろう。

(若くして額帯ネクトを与えられるほどの、際立った才能…)

 カタン!

 ふいにレスファートが手にしていた木さじを取り落とし、振り向く。

「どうした、レス?」

「……」

 レスファートは星の剣士ニスフェルについて話し続けている2人の男の方を、食い入るように見つめている。

「レス?」

「……星の剣士ニスフェル…」

「かなりの遣い手らしいな」

「…ちがう…」

「え?」

 くるりと振り返ったレスファートの瞳が蘇ったように生き生きとした色になっているのに驚く。イルファが忙しく肉を噛みちぎりながら、問い直す。

「違う、って、何が」

「星の剣士ニスフェルは…」

 レスファートは微笑しようとした。だが、し損ねて泣き笑いのような表情になる。虚ろだった瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

「ユーノだ…」

「え!」「何っ」

 いきなりアシャとイルファがレスファートにのしかかるように立ち上がったのに、男達は不審そうな目を向けて話を止めた。

「本当か、レス!」

「ぼくが、ユーノの心象をつかまえそこねるわけがないよ!」

 レスファートは叫んだ。

「まちがいないよ。星の剣士ニスフェルはユーノだ!」

「……あんたら、どうしてあの人のことを知ってるんだ?」

 繰り返される名前に、男の一人が不思議そうに口を挟んでくる。

「見れば、旅の者なのに。確かに、星の剣士ニスフェルはユーノ、とも名乗ってるぜ」

「…っ」

 一瞬感情が押し寄せ溢れて、アシャはことばを失った。そうとも、当然それを考えてもよかったのだ、と歯噛みする。

 野戦部隊シーガリオン

 まさにユーノによく似合った、そして絶好のラズーンへの道案内ではないか。

「よし」

 アシャは慌ただしく席を立った。

「必ずユーノを連れ帰ってやる。待ってろ、レス。頼むぞ、イルファ!」

「アシャ、お願い!」

 レスファートの声を背中に、宿屋を飛び出す。

「レスのことは任せとけ!」

「おい、あんた!」

 駆け出して行こうとするアシャに、ただ事ではないと思ったのだろう、男の1人が声をかけてきてくれる。

野戦部隊シーガリオンは、今、南西の台地にいるはずだぜ!」

「わかった!」

 感謝を込めて軽く一礼し、アシャはスォーガの南に広がる台地へと馬を駆った。


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