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ラズーン 3   作者: segakiyui
3.スォーガの嵐
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1

(サマルはユーノに追いつけただろうか)

 アシャは天幕カサンの外を吹き過ぎる風に、悶々と眠れぬ夜を過ごしていた。

 宙道シノイを抜けるとすぐにサマルカンドに追わせたが、ユーノがひたすらヒストを駆り続けていたとしたら、国一面、茶褐色の草原に覆われているスォーガのこと、探し出すのは難しいだろう。

(それに…)

 アシャはごろりと寝返りを打って俯せになり、腕を引き寄せて顎を埋めた。

 考えたくないもう一つの可能性をも、視察官オペとしてのアシャは考えずにはいられない。

 ヒストを駆り、宙道シノイの闇を走り抜けていったユーノ、その後に追いすがるギヌアの真っ白な輝きの髪が、アシャの目に焼き付いている。

(ギヌアがユーノを追っていった)

 それはどういうことを指すのか。

 視察官オペの選ばれ方は二通りある。

 生まれた時より資質を認められ、視察官オペとして訓練を受けたものと、少年の頃より視察官オペを志願し、そのオーラの力で地位を認められたもの。

 ギヌアは前者に当たっている。

 生まれ持った視察官オペの素質、あれほど自分の技量に傲慢にならなければ、ひょっとするとラズーンの第一正統後継者となっていたかもしれない資質。

 それだけの能力を持った男が、ユーノを狙っている。

(もう、3日、だ)

 思わず溜め息が出る。

 未だにユーノのいない夜に慣れず、ともすれば天幕カサンの隅に丸くなっているはずのユーノを振り返っては、ぽっかりと開いた空間にレスファートが小さく身を竦めて眠っているのを見つけ、口元まできたユーノという呼びかけを呑み込んでいる。

(この国さえ抜ければ、ラズーンだったのに)

 溜め息を重ねる。

 腕を伸ばし、天幕カサンの垂れ布を開ける。冷えた風が吹き込んでくる。

 その風に、慣れた匂いを嗅ぎ取って、目を細めて赤茶色の草原の向こうの山を見つめる。

 そこに、彼の故郷、ラズーンがある。

 世界の果て、いろいろな意味で、人の行き着ける果ての果て、性を持たぬ神々が住み、視察官オペと『泉の狩人』(オーミノ)に守られた、『太皇スーグ』おさめるラズーン、この世界の頂点である統合府、ラズーンが。

(なのに…)

 それなのに。

 遥かなるセレドから、両の掌で守り続けて来た宝石は、アシャの手から零れ落ちていってしまった。長く暗い宙道シノイの闇の中へ転がり落ちて、その所在さえわからない。

(生きて…いるのか)

 アシャの想いはやっとそこへ辿り着いた。それと同時に、締め上げるような苦しさが心臓を襲い、両腕に顎を埋めた姿勢のまま、きつく唇を噛んだ。

 ギヌアがユーノを追っている。宙道シノイから出る前に追いつかれたかも知れない。ギヌアの馬に引きずられ、今頃は冷たい骸と化して、どこかの闇に打ち捨てられているか、『運命リマイン』のおぞましい狂宴の晒しものになっているかも知れない。

 寝苦しい想いのせいか、二夜続けてユーノの夢を見ている。

 夢の中のユーノは、いつもの意地っ張りを緩め、はにかんだ笑みを向けてくれていた。嬉しくて、その笑みを全て抱き締めようと手を伸ばす度、ユーノの背後から黒い魔手が彼女の腕と喉を掴み、あっという間に鮮血を撒き散らしながら、彼女を深みに引きずり込んでいく。

 絶叫して脂汗に塗れて飛び起き、それが夢だと気づいても、胸は激しく轟いたまま震えている自分に気づく。

 ラズーンのアシャともあろうものが。

(もし、そんなことになっていてみろ)

 心の中心が闇へ落ち込む気配に必死に耐える。

(この世の『運命リマイン』という『運命リマイン』をすべて根絶やしにしてやる……たとえ、『泉の狩人』(オーミノ)を解き放ってしまおうとも)

「ユーノ…」

 低い呻きがアシャを唇をつき、風吹きすさぶ荒涼とした景色の中へ消えていった。


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