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わたしのスター・パペット・ヒーロー!  作者: 織星伊吹


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第11話 フィクションみたいな体験


 リーヴの大きく開かれた口から残りの“星命力スターパワー”がすべて放出される。

 これが正真正銘最期の一撃。これ以上リーヴは“星能力スターアビリティ”を使うことができない。


 これが、わたしとリーヴの最期の足掻き。全身全霊の必殺技。

 ――絶対、負けない!


「……ッんだこりゃ!?」


 キャンサーは“星銃スター・ガン”の何倍ものエネルギーを放つ、星の光線に驚き、目を見開いた。


「なんて……言うとでも思ってんのか!!」


「!?」


 しかし――。


 キャンサーはわたしたちの最後の攻撃を前に、両手のハサミを構えた。

 青く煌めくハサミがその輝きを増していく。


「テメェだけが特別じゃねえんだぜええええええええええ!!」


 キャンサーは大声で叫びながら、リーヴの放出する星のビームに次々と二つのハサミを入れていく。まるでみじん切りでもするみたいに。


 わたしたちの最後の必殺技がキャンサーの手元で形を変えられていく。

 小粒にされたビームの破片は、付近の地面にたたき落とされた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ、舐めんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 キャンサーが声を震わせながら、斬撃を刻んでいく。


「これでぇぇぇ、終わりだぁぁぁぁ!!」


 リーヴから放出される星の光線は、遂にその攻撃を終えた。

 キャンサーは最後までやってくれた。わたしたちの渾身の必殺技を破ったのだ。


 そう、この技に最後まで気を取られてくれた。

 《《それで》》――いい。


 青の瞬きが辺りでキラキラと舞う。


「……ハア、ハア…………あ?」


 キャンサーが息を荒げながら、舞う星屑の中で目を細める。

 視線の先にあるのはリーヴの頭部。それからそれを支える木製の細い三脚。

 バラバラになったリーヴの材料を使って、わたしの“星能力”で簡単な固定砲台を作った。


 そして、わたしは――、


「キャンサーさん」


 彼の背後から声をかけた。


 わたしはずっと懐に隠し持っていた、切断されたリーヴの右腕を取り出す。

 部品がボロボロと零れて、今にも崩れてしまいそうなヒーローの腕。

 手は銃の形をしていて、人差し指の先には微少な青の煌めき。


 もちろんリーヴの“星命力”じゃない。これは――わたしの“星命力”。


「わたしたちの、勝ちだよッ!!」


 叫びながら、指先から小さな星の弾丸を発射した。

 青く瞬きながら放たれた粒子は、キャンサーの後頭部に命中し、彼はそのまま倒れた。


「……か、勝てたのかな」


「……そのようだね」


 三脚の上で、頭だけになっているリーヴがにこりと笑った。


「……ユウナ、よくやったね」


「え……えへへ、そうかなあ」


 わたしは少し熱くなる頬を指でかいてから、リーヴの元へ戻る。


「そうさ。ユウナは凄いんだ……こんな方法で勝つなんて考えもつかなかったよ。ボクだけだったら、おそらくキャンサーには勝つことができなかった」


「……そんなことないよぅ、もぅ、褒めすぎだってば!」


 わたしはブンブン手を振りながら、リーヴの首に手を触れた。すると、三脚となっていた細い部品が縮まり、リーヴの元の体を再構成する。


 物理的に破壊されたリーヴの腕は“星人形スター・パペット”と認識されない。つまり、ロケットパンチ中の状態とは違い、リーヴの“星命力”がまったく伝送されないということ。キャンサーが言ったことは間違ってない。


 でも、わたしの“星命力”だったらどうだろう……?

 そんな疑問が工を成したようだった。


 リーヴの指先にはわたしが設計したBB弾主砲が五つ搭載されている。その人差し指の穴に、わたしの“星命力”を流し込み、発射するように念じてみた。


 まだそんなに強い威力を放出できるわけじゃないみたいだけど、男の子を気絶させるくらいはできたみたい。ぶっつけ本番だったけど、うまくいったみたいだ。


「褒めているというより……君はなんでもできないと思い込むフシがあるというか……もっと自信をもってだね――」


 リーヴがわたしからの応急処置を受けながら、説教くさいことを語り始めたときだった――、近場で何かが落下する音がした。


「……あっ!! マナミちゃんが!」


 彼女はまだ観覧車にいるはずだ。今の音だって、もしかしたら彼女のグループが乗っていたゴンドラが落ちたせいかもしれない。


「ユウナ……せめて自分で歩けるようになるまで――」


 リーヴは、わたしにすがりつくように再生したばかりの片腕を伸ばす。


「そんなこと言ってるヒマないよ!! 残りの部品はあとで!」


 わたしが強引にリーヴの腕を引っ張って駆け出そうとしたとき、


「……痛って」


 タイチくんが目を覚ました。


「タイチくん!! 平気? どこもおかしくない?」


「ん、ユウナ……?」


 一目見てわかった。もうタイチくんはいつものタイチくんだ。

 純粋で綺麗な瞳。誰隔てなく接してくれる男の子。


「ユウナ、今はタイチに構っているヒマなんてないんだろう。ボクの腕を直してくれないくらい忙しいんだからさ」


「ちょっと、リーヴ? 何根に持ってんの? 直すって言ってるじゃん!」


「ハッ、根に持ってなどいないさ……実にバカバカしいよ。早く行こうじゃないか。タイチなど捨て置いて」


 リーヴは呆れた表情で片方の掌をぷらぷらさせて、先を急かす。


「うー、なんだかトゲがあるなぁ……」


「トゲはないさ。あるのはバラバラのボクの肉片とギザギザに傷ついたこの気持ちだけだよ」


「リーヴには肉なんてないでしょ!!」


 タイチくんにふと視線を向けると、こちらをぽかんとした顔で見つめてくる。

 それで気がついた。わたしはタイチくんの前で普通にリーヴと喋っていた。

 ――ヤバいヤバいヤバい。オタク女子感が増す! 増しちゃう!


「た、タイチくん……き、気にしないで! 今日起きたことは全部忘れるの! うん、それがいいよ! これは夢です! と、いうことで……わたしはこれで! タイチくんはここで待っててね!」


「…………あ、ああ」


 わたしはきょとんとしたままのタイチくんを置き去りにして、駆け出した。

 今度こそ、マナミちゃんを絶対に助ける!!


「……ユウナ、なんだか……雰囲気変わったなあ」

「なんだろうあの人形……腹話術……じゃないよな」


 後ろからタイチくんのそんな声が聞こえてきて、わたしは少しだけ頬を染めた。


 * * *


 息を切らしながら観覧車の前に到着。わたしはすぐに大声を出した。


「マナミちゃん!!」


 思えば大声を出すのも慣れたものだった。

 ――不思議。全然、恥ずかしくない。


 ちょっと前までこんな小さなことでさえ、死ぬほどやりたくなかったのに。

 今なら――教室でだって大声を出せるような気がする。


「マナミちゃん! 平気!? 返事して!」


 観覧車はゴンドラが二つほどぶら下がったままだった。他はすべて落下しているらしい。あのうちの一つが……。


「…………ユウナ?」


 ゴンドラの窓からひょっこりマナミちゃんが頭を覗かせる。


「マナミちゃん! 今助けるから!」


 ――でも、どうやって?

 リーヴはもう“星能力”が使えない。残った片腕にもう一度わたしの“星命力”を込めたロケットパンチで観覧車を支える?


 ――ううん、考えてるヒマなんてないの……!!

 もう一度観覧車を見上げる。すると――。


「そんなっ……『厄災』が!!」


「……なんてことだ。まだ残っていたなんて」


 総勢五体ほど。マナミちゃんが乗っているゴンドラに纏わり付いている。


「……ど、どうすればっ」


 額に汗が伝う。こんな思い、今まで一度だってしたことがない。

 クラスメートの――いや、友達の命がかかってる。絶対に失敗できない。


 でも、リーヴはもう戦えない。さっきの作戦で指先から“星命力”を放ってみる? できるかもしれないけど、わたしじゃまだ威力が圧倒的に足らない。『厄災』を倒せるほどのパワーがない!


 考えに考えた。いつも使わない脳が途端に熱くなって――。

 ――真っ白になってしまう。


「ユウナ、いけない!! 今すぐそこを離れるんだ!」


「――えっ?」


 リュックサックの中からリーヴが大声で叫ぶ。

 突然――深い影が、私を覆い尽くす。


 ――ゴンドラが、落ちてくる。


 えっ、嘘? 観覧車が――今、ここで? このタイミングで落ちてくるの?

 じゃあ、わたし――ここで潰されて死んじゃうってこと?


 走馬燈のように――今までの記憶が掘り返されていく。

 マンガを書いていたら、マナミちゃんにからかわれて学校中に広がっちゃったこと。

 タイチくんが転校してきて、それからわたしは初恋をしてしまったこと。

 リーヴが突然わたしの前に現れたこと。


 それから、地球が危険な状態にあるってこと。わたしとリーヴはそんな『厄災』から地球を守らなくっちゃいけないヒーローになってしまったっていうこと。


 そんなフィクションみたいな体験。

 わたしは心待ちにしていた。せっかくそれに巡り会えたっていうのに。

 でも……今回のことで少しだけ、自分に自信が持てた気がするかも。

 だから……いいのかも? わたし、これで……よかったのかな?


 どうかな。……まだ、やりたいこと、いっぱいあったし……。ハードディスクドライブに録画したアニメを消化し切れていないのが、何よりも心残りだ。


 家族にもお別れもしてないし――それに……。

 新しくやりたいこととか……たくさんできたのになあ。


 クラスのみんなに自分から声をかけて友達を作ってみようとか、学校に通いながら、夜はリーヴと一緒にヒーロー活動を頑張って、街の平和を保ったり。……そんなこと。


 ――したいなあ。ダメかなあ。お願い神様。

 ぎゅっとわたしが硬く瞼を瞑ったときだった。


「……まったく、手の掛かる子たちだよ」


 降りかかるゴンドラがわたしの寸前で止まった。

 ゴンドラは真っ黒の球になって、重力を無視してその場にゆっくりと落ちた。


「……先生」


「……謝っても俺は許されないだろう。それだけのことをした。それはわかってる。でも……せめて、俺の生徒たちが頑張っているのなら、教師として、手助けだけでもさせてくれないか」


 先生は指揮するように手を振ると、ゴンドラに張り付いていた『厄災』たちはそのまま消えてなくなった。


「……ありがとうございます、先生」


 わたしは瞳から涙を零しながら、お礼を言った。



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