表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

第6話 幼い頃の『王様になりたい』という夢がかなう時がきたようだ

◇◇


 意識を失っている間、10歳の頃に教会の裏にある小さな畑のそばで、アナと将来の夢を話した時のことを思い出していた。

 あどけない顔したアナは大きな瞳を俺に向けながら、真剣に話を聞いてくれたっけ。


 ――俺はいつか王様になりたい!

 ――ヒューゴが王様? なれるの?

 ――なるんだ! もし俺が王様になったらアナは俺の国で暮らすんだ!

 ――え? 私? いいの?


 アナは両親が『奴隷』の階級。そのため、彼女は8歳の頃から奴隷として、町を治める侯爵ルーブ・マイダンの家で働かされていた。

 彼女に自由が許されるのは、教会での毎朝のお祈りの時のみ。神父さんはすごくいい人で、お祈りの時間をほんの少しだけ偽って、アナが同年代の友達と遊べるように計らってくれていたんだ。

 

 ――いいに決まってるだろ! だってアナは……。

 ――私は?

 ――俺のお嫁さんになるんだから!


 幼い頃の勢いってのは怖いものだな。

 あの頃の俺は当然酒なんて飲めないから、しらふだった。それなのにあんな恥ずかしいことを大声で言っちまったんだから……。

 でも彼女は太陽のように顔を明るくして答えてくれたんだっけ。


 ――うん! 私、ヒューゴのお嫁さんになりたい!


 ってな……。

 あれからもう10年か。

 しがない道具屋の次男。そのうえジョブは『遊び人』。

 そんな俺が『王様』なんかになれるわけない。

 それでもアナは待ってくれているのだろうか――。


 そんな恥ずかしい思い出にひたっているうちに、頬をつんつんと木の枝で押される感触で、俺は目を覚ましたのだった。


◇◇


 波の音が聞こえる。それに口の中にじゃりじゃりとした違和感がある。

 どうやら海岸の砂浜で仰向けになっているらしい。

 そこまで分かったところで幼い少女の声が聞こえてきた。


「うわあああ! ミントお姉ちゃん! おじちゃんが目を覚ましたよ!」


「おい、待て。おじさんだって? 俺はまだ二十歳だ。それにヒューゴという名前だってある」


 相手が誰だか確認する前に思わずつっこんだ。すると目の前には幼い女の子が目をクリクリさせていた。

 猫のような耳が髪の間からひょっこり出ている。さらに白のTシャツからのぞく細い腕はオレンジ色の毛でおおわれていた。

 いわゆる獣人ってやつだろう。ピンクの肉球や長い尻尾もまた、俺の考えが正しいことを物語っていた。


「どうしたの? クルル」


 幼女の横からぬっと顔を出してきた女の子もまた、大きな耳をショートヘアの合間からのぞかせている。

 いかにも活発そうな細身の体。

 そして何よりも特徴的なのはビスチェを突き上げる大きな胸だ。

 そう、それはまさに『爆乳』。

 クルルと呼んだ幼女の横に並んだだけで、たゆんと大きく揺れた。


「奇跡よ! 奇跡が起こったんだわ!」


 そう叫んだ彼女は俺に抱きついてきた。

 顔全体が彼女の胸に沈む。

 感じたこともないほどの心地よさが、目を覚ましたばかりの俺を幸せにいざなった。

 そうして俺は幸せに包まれながら、再び意識を手放したのだった――。


「ミントお姉ちゃん! そんなにぎゅってしたら、おじちゃんが呼吸できなくなっちゃうよ!」

「あっ! いけない! 『新しい王様』! しっかりしてぇぇ!」


◇◇


 再び目を覚ますと、今度は大きなベッドの上で寝かされていた。


「ここはどこだ?」


 大きな部屋だが家具はあまりなく質素だ。

 ただ部屋の隅に置かれている大きな壺だけは、派手な装飾がされている。


「なんだ? これは?」


 残骸が床に散らばっていることから、つい最近まで蓋がされていたのだろう。見ればお札のようなものも張られている。

 こういうのは興味本意で近づいてはいけないって、じいちゃんから聞かされたことがある。


「うん。見なかったことにしよう」


 壺から目を離した俺は部屋の外に出た。


「あ、おじちゃん! もう動いて大丈夫なの?」


 先ほどのケモ耳幼女クルルが、目をくりくりさせながら俺を見上げている。

 もはや「おじちゃん」という部分にツッコミを入れても無意味なんだろうな。

 俺は彼女と目線を合わせるために低くかがんだ。


「ああ、おかげで大丈夫だ。君とお姉ちゃんがここに運んできてくれたのかい?」

「うん! お姉ちゃんがおんぶしたんだよー!」


 女の子におんぶされたのか……。

 知り合いのいない場所でよかった。


「なあ、ここはどこなんだい?」

「ここは王様のおうちだよぉ!」

「王様? へえー。じゃあ王様にお礼を言わなくちゃいけないから、どこにいるか教えてくれるかい?」

「うん!」


 そう元気に返事をしたクルルが俺に向けて指をさしている。

 俺は背後を振り返った。

 しかしそこは壁。

 壁の向こうは俺が寝かされていた部屋で中には誰もいない。


「どういうことかな?」

「おじちゃんが王様だよ!」

「は?」

「だからおじちゃんが王様なの!」


 ちょっと何を言っているのか分からない。

 きっと今どきの幼女の間で流行っている新手のギャグなのだろう。

 だがそんな俺の思い込みは、爆乳ケモ耳美少女ミントによってあっさりと破られたのだった。


「国が滅びる前日。天から救世主が降り立ち、国を救うだろう。そして救世主は王となって国の発展に尽力する……。この国の伝承です。つまり空から降ってきたあなたこそ救世主様であり、未来の王様なのです!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ