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第2話 パーティーから追放されてしまったので種をひたすら食ったらチート能力を身につけた


 『奇跡』ってやつは予想もしてない時に訪れるものなのかもしれない。

 だって大聖堂を出てから故郷に戻る前に立ち寄った酒場に、たまたま勇者がいるなんて誰が予想できると思う?

 もっと言えば、その勇者がセクシーな占い師のお告げを信じて『遊び人』を探していたなんて、きっと大賢者と呼ばれる偉いじいさんですら知らなかったに違いない。


 ――僕と一緒に冒険に出てくれないか?


 それはまさに奇跡としか言いようがなかったよ。

 だって『遊び人』の俺が勇者のパーティーメンバーに選ばれたんだ。

 両親は大喜び。町はお祭りのように大騒ぎ。

 幼馴染のアナだけはすごく心配そうだったけど、俺は鼻が高かった。

 だって勇者とともに魔王を倒したあかつきには、どこかの国の王様になれるかもしれないと本気で考えていたのだから。


 でも『奇跡』ってのは起こった後が大事なんだよな。

 そんなことも知らずに俺は意気揚々と魔王アドラゼルを討伐する旅に出たのだった。


◇◇


 最初から気付くべきだったんだよ。

 『遊び人』というジョブは戦闘に向いていないし、日常生活でもまったく役立たない。ろくな魔法もスキルも覚えない。

 いくつの『ない』を重ねても足りないくらいに、ろくでもないジョブだったのだ。


 旅の序盤は俺以外の4人(勇者、戦士、魔術師、聖女)だけでモンスターと戦っていた。


 ――きっといつかヒューゴの才能が花開く時がくるんだよ!


 勇者レオンは自分がパーティーに誘った手前、他のメンバーにそう言い続けていたが、全員が「それはないだろ」と考えていたに違いない。

 いや、いいんだ。なぜなら俺もそう思っていたから。


 ところが旅の中盤になってくると、悠長なことを言ってられなくなってきたのだ。

 戦闘が終わるたびに「ちょっとは役に立ってくれよ」というメンバーたちの視線が痛い。

 俺だってみんなの役に立ちたいさ。

 しかしろくな魔法もスキルも覚えていない俺は、戦闘に参加すらさせてもらえていないのだから仕方ないだろ。

 そう自分に言い聞かせながら、「せめてみんなの役に立ちたい」と荷物持ちの役目を買って出ていたわけだ。


 そしてこの日。俺たちは運悪く、モンスターの大群に遭遇してしまった。

 逃げ道はない。

 そこでレオンは戦うことを選択したのである。


 ――カン! カン! ドカッ!


「よし! ストーンゴーレムに隙ができたぞ! チャンスだ!」


 レオンがちらりと振り返った。

 無論、手の空いている仲間に援護を頼みたいからだ。

 しかしそこには一人しかいなかった。


 俺である。


「くっ……。ここまでか」


 レオンは無念そうにガクリと膝をついた。


「おいおいおい! 待て待て! 俺がいるだろ!」


 俺は思わずつっこんだ。

 ……が、それを無視するように戦士のダグラスがキラーベアと戦いながら声をあげた。


「レオン! もう少し耐えてくれ! 今、俺がこいつを片付けるから! ちっ! しぶとい熊め!」


 しかし事態はさらに悪くなった。

 マッドアントの大群を相手にしていた魔術師のマリリンがヘルプを求めたのだ。


「まずいわ! こっちが抑えきれない!」


 アーマードスケルトンを相手に魔法で戦っている聖女ミレイユも苦戦しているようだ。


「こうなったらヒューゴしかいないわ!」

 

 こうして全員の視線が俺に集まったのである。

 俺はゆっくりと足を前に進めた。


 ――ザッ。ザッ。


「仕方ねえな。本気でいくぜ」


 『遊び人』の真骨頂を見せてやる!

 ストーンゴーレムと勇者レオンのそばまでやってきたところで、両手を高くあげた。


「スキル! 『へんてこな踊り』!」


 『へんてこな踊り』とは、文字通りにへんてこな踊りをすること。

 そうすればストーンゴーレムがつられて躍り出すはずだ。

 そこでレオンが強烈な一撃をかます。

 見事な連携攻撃の完成というわけだ。


 俺は腰をクネクネさせ、両手を前後に動かした。

 すると勇者レオンが驚きの声を発したのである。


「なっ……なに!」


 なんとレオンがつられて躍っているではないか!


「おい! なんでお前がつられるんだよ!」

「僕が知るものか! 早くその変な踊りをやめてくれ!」

「いや、一度始めると終わるまで止められないんだ!」

「なぁぁにぃぃぃ!?」


――ズガァァァン!


 勇者レオンはストーンゴーレムの一撃によって戦闘不能に陥ってしまった。


「まずい! レオンを回復させなくては!」


 回復魔法を唱えられるのは聖女ミレイユだけだ。

 俺はアーマードスケルトンと戦っている彼女の元へ駆けていった。


「ミレイユ! 今助けるからな!」

「ヒューゴ! 無茶はしないで!」


 ミレイユが心配そうに俺を見つめている。


「大丈夫だ! 俺を信じてくれ!」


 俺は新たなスキルを使うことにした。

 一撃必殺のスキルを――。


「スキル! 『すっころぶ』!」


 前のめりに転びながら敵に突撃することで、全体重をかけた必殺の一撃を放てるのだ。

 俺は確実に転ぶため、中くらいの石を道具袋から取り出した。


――ヒュン!


 前方に投げる。

 そしてそれに向かって大きく足を踏み出したのである。


――ガッ!


 見事に石につまずくと、前のめりに倒れていった。

 よし! うまくいったぞ!

 あとはアーマードスケルトンに向かって一直線にいくだけだ。

 俺は激突の瞬間が怖くて目をつむった。


――ガシッ!


 何かにぶつかる。

 相手が逃げようとしているのが分かる。

 逃がすものか!

 俺は手を伸ばして相手をつかんだ。


――むにゅっ。


 柔らかい? まるで水袋をつかんでいるようで気持ちいい。

 しかしスケルトンって骨だよな。

 なんで柔らかいんだ?

 俺はもう一度感触を確かめることにした。


――むにゅっ。むにゅっ。


「きゃあああああ!!」


 耳元でミレイユの悲鳴が聞こえてきた。

 もしかしてレオンを片付けたストーンゴーレムが加勢にきたのか!?

 俺は急いで目を開けた。

 すると目の前にミレイユの大きなお尻があったのである。

 

「へ?」


 そして両手でつかんでいたのは、彼女のスイカのように大きなおっぱいだった。


「のあああ!」


 俺は慌てて飛びのいて弁解した。


「いやあ、ちょっと距離が足りなかったみたいだな。もう少し前で転べば、ガイコツ野郎に強烈な一撃を与えられたんだけどな」


 だがミレイユの様子がおかしい。

 うつむいたまま、ゆらりゆらりと体を揺らしながら俺に近づいてくる。


「コロス。コロス。コロス。コロス……」


「あのー。ミレイユさん?」


「ころぉぉぉす!!」


 彼女は手にしたモーニングスターを振りかぶった。


「ぎゃああああ!」


 ――ドカアアアアン!


 その一撃……。

 アーマードスケルトンにかましてやればよかったのに……。


◇◇


「くそ……」


 レオンは戦闘不能。

 ミレイユはモンスター側に寝返った。

 残りの二人も窮地に立たされている。

 

 このままでは全滅だ。

 そこで俺は覚悟を決めた。


「こうなったらとっておきを使うしかない」


 それは『クルクルプン』という遊び人しか使えない戦闘シーン専用の究極魔法。

 何が起こるか分からず、確率によって効果が決まる。

 そのうちの一つが『アルティメット・エクスプロージョン』という極限爆発魔法だ。

 フィールドにいるすべてのモンスターを一瞬にして消し去ることができる。


 『アルティメット・エクスプロージョン』の発生確率は0.1%。つまり1000回に1回しか発生しない。

 だがたとえわずかな希望であっても、俺はあきらめない!


「クルクルプーーーン‼」


 魔法を唱えたとたんにあたりが暗くなる。

 聞いたことがあるぞ。

 『アルティメット・エクスプロージョン』が起こる時は、まるで夜のように真っ暗になるって!


「きたああああ‼」


 俺は思わず叫んだ。

 ……と、その時だった。


「おお……。ようやく復活できたのね……。1000年ぶりだわ……」


 妙に色っぽい女の声が空から聞こえてきた。

 とたんにモンスターたちがおびえだす……。


「ひれ伏せ……。恐怖しろ……。わが名はリリアーヌ。あらゆるものに絶望をもたらす存在なり……」


 モンスターたちが震えながら消えていった。

 そして巨大な悪魔の姿が黒い空を覆いつくしたのだ。

 マリリンが青い顔でつぶやいた。


「聞いたことあるわ……。魔王を越える悪魔。超魔王リリアーヌ。世界の果ての島でこの世に現れ、大量のドラゴンを一瞬で殺したとか……。でも1000年前に大賢者モーネの魔法で封印されたはず」


「なぜだ? なぜ今、ここで、そんな化け物がよみがえってしまったんだ!?」


 俺が声をあげると全員の視線が俺に集まった。 

 

「ん? どうした?」


「こんな話も聞いたことあるの。『クルクルプン』の魔法では、0.00000000001%の確率で超魔王の封印を解き召喚してしまうこともあるとね」


「まさか……」


 俺たちがそんな会話をしているうちに、リリアーヌが地上に降り立った。長い黒髪の美女だ。切れ長の目をさらに細くしながら、妖艶な笑みを浮かべていた。

 大きな胸を強調した紫色のドレスを揺らし、一歩ずつこちらへ近づいてくる。


「人間か……。わらわを前にしても逃げぬとは……。よほどの命知らずと見える」


 その言葉が終わる前に、俺たちは一目散に逃げだしたのだった――。


◇◇


 翌朝――。

 近くの町の宿屋で目を覚ました俺は一通の置手紙をみつけた。


『ヒューゴへ

 悪いが君をこれ以上連れていくわけにはいかない。この手紙の横に置いた袋の中身は僕たちからの餞別だ。さようなら。レオン』


「ああ、やっぱりクビか」


 早かれ遅かれこうなることは目に見えていたので、あまりショックではない。

 俺は置手紙の隣においてある餞別の中身を見た。

 ひまわりの種みたいなものがたくさん入っている。

 何かのステータスを上げるためのアイテムに違いない。

 きっと旅の最後まで使う予定がなかったから、俺に押し付けたんだろうな。

 道具袋のスペースを圧迫するし。


「今さらステータスアップしてもしょうがないけどな……」


 しかしもらったものを粗末にするわけにもいかない。

 そこで俺は種を全部食べた。

 しかしどんだけため込んだんだ?

 1000個以上は食ったぞ。


「げふっ」


 そして何のステータスがアップしたのか、『ライブラリ』という様々な情報を映し出してくれる魔法の石板で調べた。


【ヒューゴのステータス】

レベル:35

HP:320

MP:150

腕力:62

魔力:36

素早さ:72

運の良さ:3589


「運の良さ:3589だと……」


 これこそが俺のチートライフのはじまりだった。

 


RPGで『運の良さ』の恩恵を受けた記憶がないんです……。

もし『運の良さ』が限界突破したら、どんなことが起こるのでしょうか。

そんな妄想を全開にした物語です。

これからもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 運の良さが高いのは凄そうですね!
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