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第25話 エルフの涙③


「世界樹の蜜ですってぇ! そんなのニセモノよ! 絶対にありえないわ!」


 いつの間にか戻ってきたベルがバレットにつめよるのも無理はない。

 俺だって「それはないだろ」と思っているのだから。

 

「ヒュ、ヒューゴ様! な、なんですか? このエルフは!?」


「あたし知ってるのよ! 世界樹の側に近寄るためには特別な力を持ってないとダメなんだって!」


「そ、そんなことくらい私だって知っております。しかしですね……」


「しかしもかかしもないわよ!」


 ベルはバレットの胸ぐらをつかんで抗議している。

 たじたじだったバレットだが、ついに声を張り上げて答えた。

 その内容は驚くべきものだったのだ。


「仕方ないでしょうに。エルフとディオ・カンパニーが、世界樹の蜜の売買契約を締結したのですから!」


「なっ……!」


 ベルが顔を真っ青にしてバレットから離れた。

 すごく嫌な感じがする。

 リリアーヌも眉間にしわを寄せている。

 一方のベルはひどく混乱しているようで、フラフラと窓の方へ飛んでいった。

 

「そんなのウソよ……。世界樹を守るのがエルフの役目。世界樹を金や名誉のために利用しないとエルフは神に誓った。だから神様が世界樹の森で生きる力を与えてくれたって、おばあちゃんから聞いたもん」


「ああ、それは私も聞きましたよ。でもね。勇者のパーティーメンバーでもあるディオ様がこうおっしゃったようですよ。『世界樹の大いなる恵みは、不治の病で苦しんでいる人に与えられるべきだ』と」


 バレットは続けた。

 

 幸いなことにディオ・カンパニーは世界中の国々をつなぐ流通網を持っている。

 だから世界樹の蜜を世界のあらゆる人々に届けられる。

 もし世界中の人々が病の苦しみから解き放たれれば、その時はエルフ族に世界一の名誉がもたらされるだろう。

 

 ……だそうだ。

 いかにも胡散臭い大義名分だ。

 これだけではエルフ族が鉄の掟を破ってまで世界樹の蜜を売るとは考えにくい。

 そう頭をひねらせていると、バレットは決定的なことを教えてくれたのだった。

 

「すでにエルフ族の方々には『ディオ・カンパニー世界名誉賞』とともに莫大な富が与えられたとか。さらに世界屈指のリゾート地、リーバ島にエルフ族専用の森が整備されて、多くのエルフが移住したそうです。もちろんそのことはそこにいるエルフも知っているのですよね?」


 ああ、なるほど。

 結局は『金の力は偉大』ということだったのか。


「ウソよ……。だって私は世界樹を守る『護り手』の一人なのよ。私を含めて4人の『護り手』の全員がOKと言わなければ、長老ですら世界樹に触ることはできない掟になっているんだもん! 私がそんなの許すはずない!」


 ベルは首を横に振っている。

 その様子では本当に何も知らないに違いない。

 

「わずか数日でここまでできるものかのう……」


 そう漏らしたリリアーヌは、すでに気づいているのだろう。

 これは『かなり前から計画されていたこと』だったと。

 

 つまりエルフの長老とディオはこれまでに何度も話し合いを続けてきた。

 そしてベル以外の世界樹の『護り手』を全員説き伏せた。

 だがベルはエルフの掟をかたくなに守っている。

 となれば説得は難しい。

 そこで彼女に『エルフの涙』の採掘を手伝わせ、世界樹から引き離したところで、一気に契約を進めた――。

 

「そんなの信じないんだから!」


「ベル!」


 ベルは窓から飛び出していった。

 行き先はおおよそ想像がつく。

 

「ヒューゴ」


 リリアーヌが俺を見てきた。

 俺は彼女と視線を合わせると、大きくうなずいた。

 そしてバレットにモチモチオハダ王国との交易の件はすべて任せて、ベルの後を追いかけたのだった。

 



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